
勝手にプロパガンダ 〈海外映画編7〉 『ファースト・マン』
リアリティを徹底追求し、リアリティを最重要視し、リアリティに全力投球し、それでいながら普遍的な"ツボ"も押さえて、エンターテインメントとアートの境界をピンポイントで狙ってくる天才技の巧緻。そして、歴史に残る家族映画の傑作。未来において必ずや再評価されるだろう。
デイミアン・チャゼル監督『ファースト・マン』(2018年 ユニバーサル・ピクチャーズ)
のっけから。
ガツンとやられてしまう。
そのやられ方が、ちょうどクリストファー・ノーラン監督の映画を観た時のそれと、ひじょうによく似ている。
(実際に2人は、互いに認め合うライバル同士であるらしい)
映画というメディアを最大限に活かした"ガツン"なのだ。
つまり、理屈抜きに心身を揺さぶられる。
(やれるようで、普通の監督には、なかなかこれができない)
実在の人物を主役に据えた実話の映画化であるため、デイミアン・チャゼル監督は、どのシーンどのカットにおいても、可能な限りリアリティ表現にこだわっている。
したがって、いっさいの無駄が省かれ、キャラクター達の動きの中に、細かい心情描写が埋め込まれているのだ。
(これまた主人公のニール・アームストロングが、実際にも、自分の感情をぺらぺらと口に出すキャラクターではない)
まるでハードボイルド映画のように、必要な描写のみが、的確に繋がれてゆく。
セリフやモノローグでやたらと説明したり、いかにもな演技シーンが重ねられたり、いわゆるお約束の展開なども、ない。
すべてがギリギリまで削ぎ落とされている。
その代わり、役者の一挙手一投足が、キャラクターの内面のすべてを現す。
(うん、やはり、ハードボイルド小説の手法である)
そのような表現方法を取りながらも、本作は、実のところ"家族映画"なのである。
そして、宇宙飛行士のリアルストーリーの枠組みを使いながら、親と子の深い絆(そこは、これまでに多くの作品で語られてきた普遍的な"ツボ"だ)を描いた作品でもあるのだ。
このあたり、デイミアン・チャゼル監督は、まったくもって天才技の巧みさである。
エンターテイメントとアートの境界を、ピンポイントで狙ってくるところは、最初に触れたようにクリストファー・ノーラン監督のセンスと本当に似ていると思う。
未来において、必ずや再評価される一作だろう。
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