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彼岸に花が咲くまで ①

フェリーに揺られて、とても読書などできる状況ではないと気づくまで
少し時間がかかった。

予想よりも村上春樹の小説が読みにくく、翻訳家独特の文章に思えたものの内容に興味を持つことはできた。

同僚の池田は私の肩に寄りかかって寝ている。いっそ私が席を立って、彼が海に落ちてくれたら仕事が楽に片づくのに、そう思った矢先だった。

酷いめまいと吐き気に襲われて、1時間ほど前に食べたオムライスが私と再開したいと喉を登ってきた。今はまずい、ちょっと待ってほしい。

波に揺られたフェリーは船体をふるわせ、客は一斉に同じ動きをしてなんだかおもしろかったが、池田は寝たままで海に落ちる気配はない。少しこづいてやれば落ちるかもしれない。吐き気が主張を始めてから意地の悪い私が引っ込んでいった。

瀬戸内の海は美しい。猛烈に吐き散らかしたい。

透き通った海の上を船が滑っていく。白波はすぐに消え海底を光が照らす。鉛色の群れは身を翻して光ってみせた。さながら波間に身を隠すようだ。
私の吐き気がピークに達し、限界が来て立ち上がった。春樹を海に落としてしまった。池田の頭が本をかすめ、ぐらりと私の進行を阻んだ。黒々とした毛髪は海藻のようだったと記憶している。

ボォォォォーン、ゴトッ タタタタッタタタ フェリーが島につくなり私は吐いた。

瀬戸内の美しい海と島々に深く謝罪して契島(ちぎりしま)に降り立つ。1歩目は爽やかなシトラス系のフレーバーを期待したが(シチリアかどこかと錯覚してしまったのだろう、重油の匂いで現実に戻された)さっきの酸っぱい匂いが口中に広がっている。
池田が荷物を抱えて小走りに近づいてくる、少し息を切らしだらしなくワイシャツが外に出ている。
「急に立つなんて、ひ、ひどいじゃないか」
きっと、いい夢を見ていたのだろう。お前の顔に幸せの痕が残っている。
日よけ帽をかぶると、二人は並んで煙突を見つめていた。

この島には象徴的な建物がー特に目立つのはー南側に大きな煙突が建っている。高さ約90m、こんなものが倒れてきたらひとたまりもないだろう。明日にでも許可をもらって一番上まで上がってみるか。

潮風にのって重油の匂いが漂ってきた。古い石油ストーブのような匂い。あまり長いは良くない、そう思わずにいられなかった。池田が喉が渇いたと喚くので飲み物をカバンから取り出そうとした。

工場の一つから何かが炸裂する音がして、悲鳴が聞こえる。

3時間前、漁港にとてもガラの悪い男女が集まっていた。
「つまんねーなぁ・・・・これで何度目だ?」
「うわ、また出てる。きたねー」
「これじゃ連れてけねーよ」

若い女が飼い犬を蹴りつけていた。動物は思った以上に硬い。それでも蹴りを入れるのは許せなかった。アクセサリー感覚で連れ歩いてるお前らより犬がよほど利口だ、とりあえず真ん中の男女から落とす。私は頭にきてる
「え、ちょ」「なにあんた?なんかあんの?潤の知り合い」
左に3,右に4人。一番ちょろそうなのは・・・・リーダー格は体格のいいスキンヘッドか、電子タバコをくわえてこちらを見ている。

無言で歩み寄り、通り過ぎた男の目に親指がつき刺さる。こいつが一番油断していた。KPOPな見た目だが、肉体はか弱かった。韓国人ならもう少し鍛えられていただろう。うずくまった男の首を左腕で締め上げながら右に立っている女の腹に靴のかかとをめり込ませる。残り3人。

「ぼっしゃぁわだらなにさらせらああああああ」左腕は締め上げたまま、スキンヘッドのふりかぶりに併せてこのデブの軸足に足を被せる。体制を崩したデブがKPOPに頭から突っ込み残り2人、おや一人逃げた。犬はリードを地面に垂らして吠えている。そこに池田の車が滑り込んでくる。

キィイィィィとブレーキがかかり、逃げた一人を池田が跳ね飛ばした。
「さっきから止めようとしたんだけど、ブレーキもハンドルもきかなくて」
お前は上級国民か「この車・・・やっぱりおかしいよ」
池田はぶっとんでるが仕事はそれなりにこなしてきた。ナイスドライビング

パシャッパシャッ

「いいいいい、今の撮ったからな」後ずさりしながら眉毛の細い男、いや若いなこいつは、せいぜい20代前半か、イキッた坊主がスマホをいじっていたので踏み込んで蹴り上げた。ちょっと加減を間違えた。
首にもろに入ってしまった、やりすぎた、死んだかもしれない。
心配して少し、かなり焦ったが受け身はしっかりとれているようで、人間も案外丈夫なんだと思った。起き上がって逃げようとしたので、スマホを壊してから逃がしてやった。

犬はダメだ、犬をいじめてはいけない。一番人間に従順になるよう進化してきた生き物だから大切にしないといけない。我々のせいでああなったのだから。池田がクラクションを鳴らし乗車を急かす。デブにもう一発蹴りを入れて、スマホを踏み壊して立ち去ろうとした、私のスマホはさっきから着信がきてるんだけどと不満そうに震えている。奴らの香水が鼻にのこって不快だったが、池田の買ってきたジャスミンティーは美味しかったのでもう許してやった。助手席のクーラーの風量を弱め、ドライアイを気にしながらその場を去った。

これから契島に乗り込む。半グレの人気インフルエンサーが人質をとって立てこもっていた。彼はまだ若い、やり直すこともできるだろう

2018年頃から注目されはじめたタケワカこと、武美コウ。カードゲームや1000円くじなどを自分の動画で紹介し、裏で転売グループや半グレ集団とつながりを強めながら、最近では羽振りの良さをアピールするなどで人気はうなぎ上りだった。フォロワー数は400万人を超え、経済にもそれなりの影響を与えていたのだが、半グレ集団とのつながりを週刊誌ですっぱぬかれてからずるずると転落を重ねた。

同棲相手へのDV、未成年への大麻販売、マークされないほうがおかしかった。池田が全て一人で情報を集めてくれたおかげで捜査は順調に進んでいたはずだった。ある日、武美が行方をくらました。その数日後に少女が誘拐されたと連絡が入った。落ちるところまで落ちたか、いや奈落の底は深い。

6日前、私たちは地質調査の依頼を請け負い高知にやってきていた。表向きは民間事業者だが実態は、秘匿された活動を行う政府組織だ。命の保証がない代わりに給料がいい、それだけの理由で私はこの仕事に就いた。叔父は課長で私を推薦、もとい計画的に組織に入れ込んだ張本人。切れ者だが言動がヤクザで課長職を担えるような性格ではなかったが、叔母の手前大人しく働いていた。そんな叔母と死別してからは仕事一筋、道を極めている。

爪のトップコートを気にかけていた矢先、池田のバンから鈍い音がした。後部座席のドアに何か挟まっている。さっきのデブがドアを引き剝がして中に入ろうとしていた。池田は少し苛ついて、ハンドルを右にひねると男を車に乗せ、乗せ、おい池田、ハンドルはどうした・・・

車は失速しながらふらつきはじめ、私は慌ててハンドルを握る。池田は狭い車内で器用に蹴りを繰り出すと、胸元のボールペン1本で体格のいいデブを倒すと、目を血走らせてこう言った。「ドライアイがひどくなるんで、イライラさせるのやめてくれませんか?」彼は見た目に反して私より近接戦闘が上手い。その細い体のどこにそんな力があるのかと疑ってしまう。

筋肉というのは量と質のバランスによって発揮できるパワーに違いがあるらしい。早いデブの対義語かどうかは知らないが、強いガリガリとでもしておこう。今はハンドル操作が先だった。池田がするっと運転席にもどると、さっきのは放り出されて小さくなって見えた。坂本課長からの電話が入る。

「おう、おどれらわかっとるやろのう?無事救出できるよう祈っとるけぇ、しっかりやれやのう」
事務のお姉さんが「課長、外線2番でお客様からお電話でーす」と言うなり
坂本はドスの効いた声色を隠すと「はーい、ただいま戻りまーす」と電話を切った。これが上司だからやってられない。身内じゃなかったらすぐに辞めてやるんだけど。

そういえば、さっき蹴りを入れたときに靴擦れしてかかとが痛い。後でバンドエイドでも貼らないと。車は渚ドライブウェイでスピードを増していった。

秘匿案件①、武美コウの確保および人質の奪還。ワードで作成された資料に記載されている、たった1つだけの内容にため息が出た。
もっとこう、手の込んだ書類だの3D映像眼鏡はどうしたんだ。叔父は隠す気があるのかないのか、さらっと書類を渡してくるのでこちらも困る。情報がほぼないに等しい。組織らしい組織に勤めたい、休みはゆっくり推しのライブ動画配信やドラマを見て、ハニーバターチップスを食べてラウンジウェアでだらだら過ごしたい。
神よ、願わくば私に一時の安息を与えたまえ。

車がガードレールに車体を擦りつけて、寝るなとアピールしていた。
池田が寝ている。まずい、デッドエンドだ。

「ええええええ、僕じゃない僕はやってない、警察よぶ?警察呼びますよ」
落ち着け、神よ、やっぱり先に彼を落ち着かせてください。
荷物にちらりと目をやって、無事を確認すると動揺する運転手のまぶたをつねりあげた。寝るなバカちん。ナビは無情にも目的地への時間を告げてくれた。到着まで45分。車はフェリー乗り場に乗り捨てていこう。

後片付けは後方部隊がやってくれる手筈だ、やりたい放題できるのがこの仕事の唯一の楽しみ。暴力は本当は好きじゃない、けど手早く処理ができる優秀なツールだから、活用しないわけにはいかない。一人でにやにやと思いめぐらせては報酬がちらつく。人質が無傷なら追加も貰えるはず。

乗船券を2枚買うと、お釣りがじゃらじゃらと気になった。喉が渇き始めた。仕事の時間だ。日差しが強く、6月の中旬は日中の気温もぐっと高くなる。池田はへばっていた。
「この暑さ、なんとかなんないの」「小銭でジュース買おうよ、炭酸がいい」炭酸は地球環境に悪いからダメだ。これは譲れないこだわりだ、イマイチ仕事に集中しきれない。何を隠そう私はフェリーが苦手だ、酔い止めがあっても恐らく吐くだろう。

思考のフラッシュバックが終わった。契島は島全体が工場になっており潜伏しやすい。島民の数は限られているが、もぐりこめばなんとでもなる。島の中心にある溶鉱工場の裏で火の手が上がり、硫黄の匂いが広がった。

早急に片づけよう。私の獲物はライフルが一つ。組み立てが終わればぶっ放せる。池田は何してる、まだケースから何も出していない。本当に緊張感がない。
「二手に分かれよう、僕は電解工場側から回り込む」いつの間に割れたのか、ひび割れた眼鏡が仕切り始めたか。こちらも北側の精銀工場から狙っていく。

浜風が少し冷たいが、島全体は溶鉱の熱がこもっている、帰ったら水風呂にゆっくり浸かりたい。今度は銃声が響いた。外壁に沿って移動し様子を伺う。アスファルトの上に武美の死体が転がっていた。まずい状況になった。
ボーナスはないし、このあとしばらくお茶の間を騒がせそうだ。

確保対象が眉間を撃ち抜かれて絶命している。予想した通り工場の作業員に紛れていたようだが、ここまでの事態になるとは。ライフルのグリップが手汗で湿っていた。島に別の誰かが潜んでいて、そいつが少女をどこかに監禁している。いや、ひょっとすると少女はもう・・・これはいけないな、池田と合流しなくては。悪い方向に思考が向くと止まらなくなる。

背中に冷やりとした感覚が走り、思わず身をよじってバットプレートを突き付ける。危なかった、寸でのところで刺突を避けた。ナイフの引きが早い、手練れの動きに動揺した隙にすねを斬りつけられた。
ダークブルーのつなぎが工場の影から出てくる。血が肌を冷たくつたう。
鼓動が早くなり、意識がぶれる。まずい、近すぎる。

ナイフを逆手に持ち替え、男は、こいつは男だ、喉元をめがけて振りかざしてきた。レシーバーで刃を受ける、火花が飛び、また足にするどい痛みがはしる。刃が滑り太ももをかすめた。ゴリンと鈍い音がして、男は頭から崩れ落ちた。池田が来ていた。危なかった、次から刃物を携帯しておこう。

池田はおもむろに鈍器をおろすと、私に止血帯をあてがう。
「昨日、お風呂ちゃんと入りました?においますよ」ありがとう、お前がバカなこと以外はすごく助かっている。
「まだ何人かいそうですね、何が起きているんでしょうか?」私たちは状況が呑み込めずにいた。坂本からタイミングよく着信が入る。
「すまんのう、武美はダミーじゃ、本筋は別におるがじゃ」私は通話を切った。向こうでは坂本課長が渋い顔で空をにらんでいた。どうぞそのまま石化してくださいな。

島は狭いが、二人で調べて回るには広すぎる、ましてや私は手負い。手負いのトラにも意地はあるが、相手の情報がないことがネックだ。さっきの電話、切らなきゃよかった。また着信があった。
「人の話は最後まで聞こうねー」これは営業用のしゃべり方だ、急ぎなのだろう。「アジア系企業様が今回の競合です、全職員一丸となってコンペに勝ちましょう、お相手は3名、テーマは鬼雨対策です。」なるほど。

プロの人身売買組織が後ろにいたなら、流れが見えてくる。池田に状況を説明すると、手慣れた速さで先刻の手練れを縛り上げて工場の梁に吊り下げた。こいつどうなっとるんだ。
「先に見つけてもらいましょう、身代金、要求されてないですし少女はたぶん無事だと思います、いくらなんでも商品に手は出さないでしょ」お前が今まで無事に生きてこられたことがすごいと思いながら、社宅の方へと向かう。荷物の中身、鈍器だったのか。次から僧侶ってよぼう。

社宅は燃えていた、溶鉱炉のような灼熱の赤が揺らいで見えた。






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