見出し画像

『キレイー神様と待ち合わせした女ー』圧倒的なエネルギーにひれ伏す

2000年の初演以来、大きな反響を呼び続ける「キレイ」。4回目の公演になるが自分は初めて観た。

2000年といえば、三谷幸喜の「オケピ!」も初演を迎えた年。こちらは観ているのに、なぜ俺は「キレイ」は観なかったのだろう。たぶんそのときも、そしてその後も、自分は大人計画や松尾スズキ、宮藤官九郎の舞台にどうも苦手意識を持っていたのだと思う。宮藤官九郎が脚本を書いた舞台は劇団☆新感線などで観ているが、宮藤作品はどれも「死」や「血」のにおいが強すぎてどうもなじめなかった。テレビドラマではその宮藤脚本独特のにおいがかなり薄められているのでいつも楽しく見ているが、映画ではその数倍の濃さで、舞台ではさらに濃いめに感じられる。だからホームである「大人計画」で観たら全く希釈しないストレートなのを味わうことになるだろう、と敬遠していた。ましてその師匠筋である松尾スズキの脚本・演出となると・・・と完全に食わず嫌いだったのだ。

とはいえ、今をときめく人気・実力俳優がずらりと並んだ今回のキャスト表に背中を押され、ついに初「大人計画」を決意。しかしそのキャスト表ゆえにホントにチケットが取りにくかった。肌感覚では今年一番の取れない舞台だった。

なんとか2階のA席を確保しておひさしぶりのシアターコクーンへ。

ケガレ 生田絵梨花
ミソギ 麻生久美子
ダイズ丸  橋本じゅん
カネコ キネコ 皆川猿時
カネコ ジョージ  村杉蝉之介
ジュッテン 岩井秀人
ハリコナ(少年) 神木隆之介
ハリコナ(青年) 小池徹平
ダイダイ カスミ 鈴木杏
マキシ 近藤公園
マジシャン 阿部サダヲ
マタドール  猫背椿
カウボーイ 乾直樹
カミ 伊藤ヨタロウ

それでどうだったかというと。

初大人計画の自分が、この舞台について何かを語る資格があるとも思えないが、それをおいても、何と言っていいのか、言葉がでてこない。

そのぐらい凄い舞台だった。

3時間半を超える公演時間。しかし、その長い時間、ずっと超高密度な情報が客席に降り注ぎ続ける。重金属のシャワーをずっと浴びせられたような感覚。しかしその温度はとんでもない熱さではなく、素敵すぎる音楽、俳優たちの存在感、繰り広げられるギャグの数々によって、ぬる燗のようなちょうどいい温度になっている。だからついつい浴び続けてしまう。ふつうなら30分も持たない高純度のエネルギーに、3時間半以上もさらされてしまうのだ。これほどの満腹感を味わえた観劇は久しぶりだ。

清浄と不浄、生と死、富と貧、善と悪、夢と現実・・・その他さまざまな2つの相反する価値がこれでもかと提示され、だんだん頭の中で整理がつかなくなり、そもそも価値って何だというレベルまでシャッフルされてくる。

だめだ、やっぱり言葉にならない。もう、本当に凄かった。そして本当に幸せな時間だった。

ひょっとして20年前だったらこの凄さを幸せとは受け止められなかったかもしれない。そういう意味では、この19年の時間は無駄ではなかった。ようやく自分も「キレイ」を見られる「大人」になったのだ。

というわけで、趣味的に女優さんに関することだけいくつか書いておく。

生田絵梨花はレ・ミゼラブルでも、乃木坂のコンサートでも見ており、そのポテンシャルと存在感は今さら言うまでもない。今回気付いたのは、彼女の歌声ではなくそのセリフを放つ声の魅力だ。輪郭のはっきりした聞き取りやすい声ながら、どこかふわっとして、聞いていてとても心地よい。

鈴木杏を舞台で観たのはいつだろう、と考えたら、2003年の「奇跡の人」だ。当時から非凡な才能をいかんなく発揮していたけど、彼女の演技力は桁外れだ。2階席から見ていても、心情の細かい動きがひしひしと伝わってくる。その後ろ姿からも表情が読み取れる。映像ではずっと注目してきた女優さんだけど、舞台ももっと見ておけばよかった。これから見よう。

今回もっとも驚いたというか、衝撃的だったのは麻生久美子だ。彼女が名優であることはよく分かっていたつもりだったが、その真価を見誤っていた。舞台上での圧倒的な存在感。彼女が出てくるだけで舞台上だけでなく劇場全体の空気が一変する。そして、あまり歌っている印象がないのに、その歌唱力といったらどうだ。声量もあって、実によく響く。ぜひこれからもミュージカルにどしどし出演して欲しい。

ほかにもたくさん書きたいけど、とりあえずこのへんで。大阪や福岡でもう1回観られないかな?

http://otonakeikaku.jp/stage/2019/kirei/index.html



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?