米国株マーケット考察 2020.9.22

マーケットサマリー

米国株式相場は続落。ダウ平均は一時942ドル安まで下落し、509.72ドル安の27,147.70ドルで、ナスダックは14.49ポイント安の10,778.80ポイントで取引を終了しました。S&P500も一時2.72%安まで売られ、1.16%安と2月下旬の4日続落となりました。

ダウ平均は11セクター中10セクターが下落して終了。主に、資本財や素材、エネルギーなど、景気敏感セクターが大きく売られた半面、ここ最近利益確定売りに押されてきたIT株には押し目での買いが散見されました。久しぶりの典型的なバリュー株売りのグロース株買いの動きでした。

一方、独DAX30が4.37%安、仏CAC40が3.74%安、英FT100が3.38%安と欧州株が軒並み大幅安となりました。
下落要因は:
(1)英国のジョンソン首相が、1日6000人の感染者増加により、第二弾経済封鎖を警告する発表をし、また、デンマーク、ギリシャ、スペイン、ドイツ、フランス、オーストリア、オランダも警戒感が出始めていることから、世界経済の見通し悪化が懸念されたこと。

(2) HSBC、スタンダードチャータード、バークレイズ、ドイツ銀行、コメルツ銀行およびJPモルガン・チェース、バンク・オブ・ニューヨーク・メロンなどの大手金融機関が過去20年近く巨額のマネーロンダリング(資金洗浄)に利用されていた疑いがあることが発覚したこと。その影響もあり、HSBC株は1995年レベルまで下落しています。

各種資産市場でも広範に利食い売りが見られましたが、アップルが3.50%安まで下落後に3.03%高と4日ぶりに反発するなど、最近大きな売りで調整した主力ハイテク株には押し目買いが強まったあたりから、まだ米大統領選前のポジション調整という理解でよいのではないかと思われます。

今週は、連邦準備理事会(FRB)当局者の発言が注目されています。パウエルFRB議長が今夜から24日にかけて議会証言を行います。それに先駆け、パウエル議長は昨日、新型コロナウイルス禍からの景気回復を後押しするため、引き続きあらゆる手段を駆使すると表明しました。

現状の米国経済に関しては、住宅部門は回復し、個人消費は落ち込みの約75%を取り戻しているものの、雇用に関してはコロナ危機で失業した2200万人の約半数が復帰しているに過ぎず、経済活動全体もコロナ前の水準を大幅に下回ったままで、今後の道筋は極めて不確実な状況が続いていると発言しました。

米国では、先週死去した連邦最高裁のギンズバーグ氏の後任指名を巡り、民主・共和党の政治的対決が一段と強まる見込み#で、追加の景気刺激策が11月3日の大統領選前に成立する見通しを後退させました。

追加景気刺激策が難航しそうなもう一つの原因として、米議会や共和党は米国の政府債務額を問題視せざるを得ないこともあります。米議会予算局(CBO)は昨日、新型コロナウイルス感染拡大への対応費用がかさみ、政府債務額が2050年までに国内総生産(GDP)の約2倍( 200% )の水準に膨れ上がるとの見通しを示しました。尚、2020年末時点は98%と予想しています。因みに、コロナ禍前の2019年は79%、リーマン・ショック前の2007年は35%でした。連邦債務額が急上昇しているのがよく分かります。

最後に、連邦準備制度理事会(FRB)が発表した統計によりますと、住宅価格や株式相場の上昇が奏功し、4-6月期の家計純資産は7.61兆ドル増加し、118.9兆ドルと過去最大の伸びを記録しました。これは11月の大統領選に向けて、トランプ大統領にとっては追い風になる要因です。

# 先週死去した連邦最高裁のギンズバーグ氏の後任指名を巡り、民主・共和党の政治的対決が一段と強まる見込みに関しての補足
ー連邦最高裁判所は9人の判事が人工妊娠中絶や銃規制の是非など、社会を二分する問題に司法としての最終的な判断を下し、ギンズバーグ判事の死去で現在の判事の構成は保守派が5人、リベラル派が3人となっています。

このうち保守派の2人は、トランプ大統領が就任以降、指名した判事で、今回、トランプ大統領が保守派の判事を指名して、共和党が多数派を握る議会上院が承認すれば、トランプ大統領に有利な最高裁の保守化がさらに進むことになります。昨日現在、トランプ米大統領は連邦最高裁判所の判事に、シカゴの連邦高等裁判所で判事を務めるエイミー・コニー・バレット氏を指名する方向に傾いていると報道されています。

これに対し、民主党のバイデン前副大統領は、11月の大統領選挙の勝者が後任の判事を指名するべきだと主張していて、後任判事を巡り、与野党の攻防が今後激しさを増すものとみられます。

用語解説


-グロース株ーグロース株とは企業の売り上げや利益の成長率が高く、その優れた成長性ゆえに株価の上昇が期待できる株式のことで、「成長株」とも呼ばれます。革新的な商品やサービスを通じて市場シェアを拡大し、増収増益を続けているような企業が多く、一般に投資家の人気が高いという特徴があります。ひところのIT株のように、ほんの数年で株価が数倍~数十倍に上昇するものも珍しくありません。

-バリュー株ーバリュー株とは、売り上げや利益の成長がさほど期待できないなどの理由から、現時点の株価が本来的な企業価値を考慮した水準に比べて安いと考えられる株式のことで、「割安株」とも呼ばれます。知名度の低い企業が多いことから、堅実経営を続けているような場合でも、投資家の人気は低いのが一般的です。値動きも値幅も地味になりがちで、いったん売り込まれたまま放置されているケースも目立ちます。

-マネーロンダリング(資金洗浄)ー麻薬取引や犯罪で取得した不正資金など、違法な手段で入手したお金を、架空口座や他人名義口座などを利用して転々と移転することで出所を分からなくして、正当な手段で得たお金と見せかけること。英語で資金洗浄を意味する「money laundering」の日本語読みで、「マネーロンダリング」「マネーローンダリング」ともいいます。


立沢 賢一(たつざわ けんいち)
元HSBC証券社長、京都橘大学客員教授。会社経営、投資コンサルタントとして活躍の傍ら、ゴルフティーチングプロ、書道家、米国宝石協会(GIA)会員など多彩な活動を続けている。投資戦略、情報リテラシーの向上に貢献します。

・立沢賢一 世界の教養チャンネル
http://www.youtube.com/c/TatsuzawaKenichi

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