新時代の銀行業務の展望

銀行本来の役割とは?


国の経済成長は“企業”が中心となり、個人部門へ給料の形で流れていき、個人消費となっていきます。その企業の成長においては銀行からの借入が重要な役割を果たしています。すなわち経済成長率と銀行貸出というものは基本的には連動し、貸出によってさらに経済成長が促進されるという構造です。日本経済は高度成長期に正にこの流れの中で成長しました。銀行は経済のバックボーン(背骨)だったのです。

先進国における銀行の今


世界的に先進国経済は成熟期に到達し、デフレ化経済のもと、企業の資金調達ニーズは激減してしまっています。また、信用力が付いた企業は、銀行からの借入という間接金融ではなく、直接金融という形式で資本市場から資金調達を株式や債券というツールを通してできるようになっています。

銀行は恒常的マイナス金利により、伝統的な貸出業務だけでは、以前のように収益を得ることができなくなっています。ですから貸出業務による収益の割合が高い銀行の経営は非常に厳しくなっているのが現状です。そこで、銀行は投信や保険など手数料収入を享受できる金融商品の販売に注力しているのです。

近年の金融業界の変貌


近年金融業界で急速に導入されてきた、IT技術を活用してインターネットで取引する金融商品やサービスが散見されるようになっています。スマホやパソコンで手軽に取引が可能になったことで、旧態依然の金融業界全体の動向に大きな変化を与えてきています。

現在、日本の金融業界にはセブンイレブンやイオンなど他業種からの参入が継続しています。決済分野での他業種参入は、プラットフォーマー的な企業である楽天なども含めて今後も活発化するでしょう。特に、楽天は既に売上の50%を金融事業であげる程、セグメント業績が変化しつつあります。
                                  そして、資金調達に関するサービスも以前に比べて新しく増えてきています。クラウドファンディングや、お金を借りたい会社と個人投資家をマッチングするソーシャルレンディングなどがそれです。

こうして、銀行と異業種の垣根がなくなり、業界の構造が変わっていくことが予測されます。銀行は業務の中心になっていくデジタル化に対応し、大きな収益源になりうるキャッシュレス競争に勝っていかなければなりません。また、電子マネーによるオンライン決済サービスの普及や仮想通貨の登場など、金融業界を取り巻く進化のスピードは、急速化しています。

欧米の金融機関は、2008年のリーマンショックの後に消費者からの信用を大きく失墜しており、その結果として、ファイナンス分野のテクノロジーを活用するフィンテックが伸び続けています。それ故、テクノロジーの進化を背景に、預金、決済、融資といった金融サービスの基本形が今後、変わることが予測されます。そして金融機関以外の多くの企業がFinTech企業として金融業界に参入してくるのです。

金融淘汰が進んだ数々の先進諸国は、有価証券を、グローバル市場で高い流動性を持って流通させるために、多数の利害関係人を巻き込みながら市場をコントロールする仕組みを作ってきました。つまり、私達はこれまでは金融商品を利用した貨幣経済に生きていましたが、今後は所謂、データ経済の中で生き延びなければいけないのです。

米国の潮流


2019年、Appleによるクレジットカードの提供、Facebookによるデジタル通貨Libra構想などGAFAMによる金融領域への進出が相次ぎました。こうしたデジタルプラットフォーマーによる金融サービス提供の背景には、社会や経済構造の変化が生じていることも見逃せません。

それではこのような環境下、金融機関はどのようなサービス提供を手掛けていくべきなのでしょうか?
Appleが米大手投資銀行Goldman Sachsと提携してクレジットカードであるApple Cardを発行したほか、GoogleがCitibankと提携して当座預金口座の提供を検討しています。こうした異業種企業と金融機関との提携は、今後ともグローバルで進展していくと予想されます。この際、中心的なプレーヤーはデジタルプラットフォーマー企業で、自社サービスを主軸に多くの顧客基盤を抱えるプレーヤーです。彼らは、自社サービスの利便性を高め、多くの利用者を惹きつけることを目的として金融サービスなど周辺サービスの提供に注力しています。         

GAFAMをはじめ、中国のAlibabaやTencent、東南アジアのGrabなどは金融サービスに注力するデジタルプラットフォーマーです。2019年にGAFAMが提供、もしくは提供予定の金融サービスの多くは、大手金融機関と提携したものとなっています。背景には、GAFAMのような巨大プラットフォーマーに対しては、そのサービス提供にあたり社会からの反発が予想され、それを受けて政府もまた厳格な姿勢で対応しているのです。例えば、Facebookの単独でのLibra構想は発表当初から多くの反発を呼び、Libra側としては当初の発行予定を延期しせざるを得なくなりました。GAFAMが大手金融機関と提携してサービスを提供する背景には、既得権益を持つ社会からの反発も影響していると考えられます。大手金融機関との提携により、大手金融機関の信用をできるほか、サービス提供にあたって必要となるインフラやライセンスについては金融機関のものを活用することができますメリットがあります。

従いまして、GAFAMと大手金融機関による提携は今後さらに促進されるでしょう。2020年1月、スペインの大手金融機関BBVAはAmazonのプラットフォーム上で自社の金融商品を販売することを検討していると発表しました。BBVAではすでに自社の金融商品のうち60%がデジタル上で販売されており、Amazonのプラットフォームを活用することで、その比率はさらに高まります。

また、米大手投資銀行Goldman SachsもAmazonのマーケットプレイス事業者向けにローンを提供すると報道されています。因みに、時価総額でAmazonはGoldman Sachs の23倍もあります。今の所、金融機関側がGAFAMの持つプラットフォームの有効性に目をつけ、積極的に提携を持ち掛けている状態です。一方、Amazonを利用するユーザーはそのサービス利用にあたりどの金融機関からの商品なのかを意識する必要がなく、単にAmazonから金融サービスが購入できる、もしくは提供される状態にあります。つまり、金融商品があたかもAmazonの陳列している商品の一部として提供されるので、サービス提供元である金融機関が誰なのかが利用者から“見えない”事態になる可能性は大いにあります。

トランプ大統領の大統領就任や英国のEU離脱など過去4年間はナショナリズムとかアンチグローバリズムへ主義の移行が世界的に進んでいます。今後はこれまでのような国の単位ではなく、グローバルにデータ流通のための新しい仕組みを米国のGAFAMを中心に構築していくと思われます。

GAFAMのもたらす新産業秩序には、従来の金融業という枠での戦略策定では勝ち抜くことが難しく、新たな事業開発モデルが求められます。そして、銀行はコモディ化と金融業の解体・再結合が進むのですが、結局、GAFAMはイノベーションで優位性、圧倒的な顧客層と知名度、本業から資本投下できる点で、ネットスマホ化が進むと、銀行が吸い込まれてしまう可能性は高いです。何故なら、7/10現在、アップルがJp Morgan Chase Bankの6倍の時価総額です。また、GAFAMのうち4社が1兆ドル以上の巨大な時価総額で、一番時価総額が少ないfacebookでもJp Morgan Chase Bankの2.5倍の大きさなのです。


東南アジアの潮流


これから東南アジアの時代が来ると言われています。急成長を遂げている東南アジア諸国の中ではまだ銀行は先進国のようなレベルまで到達していません。東南アジア経済は今後右肩上がりが予想され、銀行は貸金を通じてアジア経済のバックボーンになるのは間違いありません。

Grabなどの東南アジアのデジタルプラットフォーマーは、自社が提供するアプリにおいて生活に関わるほぼすべてのサービスを提供していることが特徴的であり、こうした提供形態からしばしば”Super App”と表現されています。これを展開する東南アジアのデジタルプラットフォーマーは、今後、先進国のように大手金融機関と提携するという形式は取らず、各事業者が独自に金融機能を強化していくものとみられています。このように、東南アジアでは"Super App"を手掛ける事業者が多くの金融サービスを独自に提供する体制が整いつつあります。

つまり、米国でのGAFAMによる金融サービスの提供では、金融機関との提携が大きな役割を果たした一方、東南アジアの新興系プラットフォーマーは、自らライセンスを取得して金融サービスに進出する割合が大きくなっています。


“デジタル化”という言葉がしきりに喧伝される昨今、金融機関において求められているのはこうした社会的な課題・ニーズに対して、テクノロジーを活用することで最適なソリューションを提供していくことであると言えるのです。

立沢 賢一(たつざわ けんいち)
元HSBC証券社長、京都橘大学客員教授。会社経営、投資コンサルタントとして活躍の傍ら、ゴルフティーチングプロ、書道家、米国宝石協会(GIA)会員など多彩な活動を続けている。投資戦略、情報リテラシーの向上に貢献します。

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