TPPで本当に二次創作同人作家が逮捕されるかどうか

※この記事は2015年4月29日の記事を再掲したものです

この記事は、Jコミのメルマガ「はんぺん51号」(2015/2/20)からの一部転載です。
「はんぺん300円」 http://www.zeppan.com/Mmagazine/title/2

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 年が明けてからというもの、TPPのニュースがまたチラホラと流れるようになりました。そんな中、NHKで「TPP交渉 著作権侵害は”非親告罪”で調整」というニュースが。
 今回は、またあちこちのメディアに出没するようになった赤松代表と、非親告罪化について話をしてきました。

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K:この間、日経新聞の非親告罪化の記事を読んでいて、どこかで聞いたことある主張だなと思ったら、最後に「(漫画家で電子書籍配信サービス会社も経営する赤松健氏)」って書いてあって朝から笑いました。

赤松:ああ、日経か。他にも荻上チキさんのラジオとか、最近取材は非常に多い。明日はテレビの収録だよ。俺の役は、やっぱり煽り役なんだけど。

K:(笑)

赤松:だって普通の人は知らないんだもん、何がヤバいのかをさ。まあ「海賊版が退治しやすくなるなら、まあ良いのでは?」程度の感想だね。ということで、こういうことが危険なんですよとまず説明しなければならないんだ。だから煽り役(笑)。

K:ご苦労様です。

赤松:ただ、あんま間違ったことも言えないので、さっき某弁護士に電話して、ずっと疑問に思っていたところを聞いてみたんだ。

K:あ、twitterで問いかけてましたね。


【 高額な賠償金の行方 】

赤松:まず非親告罪化の前に、法定賠償金について。もし著作権侵害とされた場合、アメリカだと罰金が最高15万ドルとかいうことになっているらしいけど、この金は作者に入るのかそれとも国庫に入るのか。

K:賠償金なので民事訴訟の方ですよね。

赤松:そう、これは刑事訴訟とは別立てで、権利者が民事訴訟で請求するものなので、100%権利者に入る。今まではほら、被害額の算定がやたら低かったりして、弁護士費用割れしてしまうから泣き寝入りせざるを得ないって言われてた。それがこれによってドーンと儲かっ・・・いや、被害を回収できると。

K:法定賠償金に懲罰的賠償が入ってたりすると、ドーンと(笑)

赤松:日経の記事を転載したアメリカでの事件だっけ? 1記事あたり100万円の賠償、それが22記事あって2,200万払わされた事例があるって。

K:「コムライン・デイリーニュース事件」でしたっけ。アメリカでの訴訟ではその金額が出たんでしたね。

赤松:その事件、その法定賠償金二千万に加えて弁護士費用も二千万だったんでしょ。合計四千万円。弁護士すげぇ儲かるじゃんw・・・あれ?これってちょっといいんじゃない?みたいな。

K:(笑) 弁護士先生的にですか?

赤松:いや、漫画家的にもw。最近生活苦しい漫画家も増えてるから(笑)

K:漫画家さんですか。

赤松:ただまあ、俺はお金ごときではね、寝返ったりしないけどね!・・とはいえ、そんな大金が、国庫に入らないで作者が貰えちゃう可能性もあるんだね。驚いた。


【 いろんな想定 】

赤松:次に非親告罪だけど、いろいろと聞いてみたよ。まず、例えば作家の知らない(例えば海外旅行中)ようなところで、検察官が二次創作同人作家を独自に起訴して有罪になっちゃってた、なんてことが起きるのかどうか。

K:告訴不要ですもんね。どうなんでしょう?

赤松:非親告罪になったとしても、逮捕の前にそれが「侵害」だという確認作業(←しばしば鑑定という用語を用いる)が求められるのではないかって話だ。

K:なるほど。

赤松:あと、事前に同人マークなんかが貼ってあったりして「最初から許諾してましたよ」って場合は、本来そこで捜査は終わりのはずだ。ただ、親告罪の強制わいせつ罪なんかでは、告訴や被害届がなくても捜査を進めることがあるから、著作権侵害についても警察が怪しいと思えば捜査が進められる可能性はあるって。

K:警察が「犯罪があると思料するとき」なら捜査自体はすると。そうですか。

赤松:あと、逮捕の後に「作家が被害届も出さない」し、「処罰も求めない」場合。これは起訴猶予とか刑の減軽、執行猶予になるだろうって。

K:そうですね。

赤松:それで、ホントは漫画家はOKしてないんだけど、「その二次創作同人誌には、最初からOKを出してました」とウソをついて守った場合、ウソをついていないか調査をするかなって思ったけど、そこまではしないだろうと。

K:警察も忙しいですもんね。

赤松:そこで俺が考えたのが、「事前に許諾したかどうかは、ちょっと忘れた」と言って明確にせず、しかし「今はOKだと思っている」と口頭で言った場合。この場合も、現実的には捜査は進められないだろうって。

K:現実的にはそうなんですね。

赤松:ただ、これらの「そうなったらどうなるか」は、警察自体も分かっていないんじゃないかなって言ってた。でも「別件逮捕」に使うことは可能かも、という話も。

K:ふむふむ。

赤松:と、こんな感じなんだけど、俺のここまでの結論で言うと、もし非親告罪化されたとしても、どうやら「一番最初に、二次創作同人作家が逮捕される」なんてことは多分無いだろうね。そんなグレーな事案でやっちゃって、もし裁判になって負けて変な判例でもできちゃったら困るから、まずはもっと堅い、明らかに悪質な権利侵害から来るはずだよ。大規模な海賊版業者だとか、それが反社会的勢力の資金源になってるとか。この辺は、与野党も官公庁も興味の方向性が一致してる。まず最初に二次創作同人誌を潰したい人なんて、どこにも見当たらないんだ。

K:二次創作同人誌が最初の摘発になることは無いのではないか、と。

赤松:それは結構重要なことで、非親告罪化してからまず最初の著作権侵害事件にならなければ、時間的猶予ができて傾向と対策を練ることができるから、多少安心だ。そこで初めて、二次創作活動をやめたり、色々工夫をする手だってあるわけだし。


【 それって変じゃない? 】

赤松:作者としては、さっき言ったような、ウソをついてまで同人作家を守る人は多分ほとんどいないと思うのね。「正式許諾を事前に出してました」と言ってまで守ってくれる人はほとんどいないと思う。その場合、許諾は出してませんという商業作家の方が遙かに多いと思うんだ。

K:リスクもありますしね。

赤松:けど、自分の作品のファンが捕まるのは「あぁ可哀想だな」とは思うし、もし自分が「この同人誌に限って許す」って言ったならその人は刑が軽くなったり起訴猶予になったりするってことなら、「処罰は求めてない」とは言ってくれる可能性も高いと思うんだ。めちゃめちゃグロだとか、何千万も儲けてる同人作家とかでもなければね(笑)。自分の作品を見ずに書いていることは考えにくいわけだし、それなら作品のファンだよ大体。

K:そうですね。

赤松:たださ、起訴猶予になればいいけど、刑の「減軽」とか「執行猶予」は、それって有罪じゃない? 前科だよ。作家が「いい」って言ってるのに、なんで無罪にならないの?って思う。

K:その弁護士先生がどうおっしゃったか分からないのですが、処罰権限は国家が持ってるものなので、酌量減軽や起訴猶予、執行猶予にはできますが、処罰は求めませんと言ったからといって時後の許諾で無罪にするのは難しいんじゃないかと思います。

赤松:それが今回納得のいかないところなんだよね。だって作者が後からOKって言ってるんだよ。その場合、もうOKでいいじゃない。

K:作家の承諾が事後ということは、その行為時には著作権侵害は成立してるんですよね。泥棒が物を盗んだ後に持ち主が「いいよ、あげる」と言っても窃盗罪は成立してしまうのと一緒で。一度犯罪が成立した以上、あとは刑罰権を持つ国家の判断に委ねられることになり、これを権利者が無罪にすることはできないと思います。

赤松:じゃあさ、それで作者がやる気を無くしたとしよう。自分が事前にOKを出していなかったことでファンの方が捕まって、人様の人生に大きな悪影響を与えてしまったと。気の優しい作家とかだとありうるよね。マンガ描いて、他人を前科者にしてしまったわけだから。

K:確かにありえますね。

赤松:それでもう作家活動を続けたくなくなると。それって文化に対して被害が出てるよね。著作権法は文化を振興するためにあると思うのね。だからそれじゃダメだろう。作者がウソまではつかないまでも、怒ってないし処罰も求めてないと思ったらそうしてほしいのね。作者の意向を無視して厳罰を与えるまではなってないと思うけど、そういうことが可能になっているから危ないよ。

K:そうですね。

赤松:それに法定賠償金だって、海外のコピーライトトロールみたいなのを作って、弁護士と手を組んで金を取ってく作家なんて生まれたら作家の恥だよね。作家側にはあんまりリスク無いみたいだし。

K:ええ。

赤松:「フェアユースを導入せよ」とか言ってる人もいるけど、フェアユースじゃ日本の二次創作エロ同人は守れない。あとフランスのパロディ条項とかでも、BLの受け攻めを全く保護できないんだよ。そういうことでこれは日本の現状と全く合ってないんだ。日本のいいところを殺していくことばっか書いてあるんだよ。まあ、TPPが入って国内法を整備する時に「作者のやる気を無くさせない」条項にするんだったら、まだマシだとは思うけど。(笑)

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