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みかん食べたすぎて和歌山県由良町に1週間「おてつたび」しに行った話

※由良のみかんが超絶本気本気美味しかったので、「3.シンプルにみかんめっちゃうまい」だけでも読んで下さると嬉しいです。

1.「おてつたび」って?

2021年7月某日、

「山梨に行ってひたすらブドウに袋掛け続けてたんだけど、なんかもう最高に楽しかったよ!」

友人がきらきらした顔で話すその目新しい経験談に、ことは始まる。


 「おいしいものをたらふく食べて、現実離れした景色をどっぷり楽しむ、エスケープ。」

これが私の今までの旅行のすべてだったが、彼女は、

「『みる』『たべる』だけでなく、実際にそこの人の生活にひょっこりお邪魔する、エスケープ。」

を山梨で謳歌していた。

そもそも、旅行自体が非日常な訳だけれども、自分の日常が誰かの日常に移ろっていく旅なんて考えたこともなかった。

コロナ禍のエンドレスなインドア生活に飽き飽きしていたからこそ、そんな旅が私にはとっても魅力的に映った。
さらに、「大学生ラストイヤー」という肩書が、どこか行かなきゃ!何かやらなきゃ!という気持ちに拍車をかけた。

そして気づいたときには、
「ねえ、そういうのってどうやって行くの?なんか知り合いにつなげてもらったの?私も行きたい!連れてって!」
ガブガブに食いついていた。

そんなアイドリング全開な引きこもりに、彼女が教えてくれたサービスがおてつたび

おてつたびとは、地方の人手不足の農家や旅館にお手伝いをしてお給料を頂戴しながら、今まで知らなかった場所で観光ができるサービス。

彼女がブチ上がった「ぶどう袋掛け@山梨」もその一つである。

そして、何といってもおてつたびが持つ大きな目的は

「第二の故郷を作ること」

目的の土地に訪れるだけでなく、そこに住んでいる人の生活に寄り添って、人とのつながりを得られる、ぬくぬくのサービス。

観光の、そのまた向こう側の体験ができるんです。


彼女のおすすめを受けてから、即日登録完了させて、
応募できる数多くのおてつたびの中からピン!と来たのが和歌山県 日高郡由良町三尾川にあるみかん農家「数見農園」でのおてつたびプランだった。


イメージ写真7枚のすべてが、みかん、みかん、みかんのオンパレード。
「もう絶対みかん食べ放題なやつじゃん!万々歳よ!!」
みかんなしでは冬を越せない、ズブズブのみかんLoverこと私は、ただただフレッシュみかんが食べたい一心のもと、下心丸出しで応募した。


そして、本当に本当にありがたいことに、由良町の「おてつびと」おてつたびを経験した人としてご縁を頂き、約一週間のおてつたびを終えて胸いっぱいな現在。思い出を取りこぼさないように備忘録を書こうとしているのだが、
7日間、毎日毎日が至れり尽くせりの連続で、すべてを網羅するには己の知力と気力が圧倒的に足りない。
というわけで、ここからは特にハッとした事柄をつらつら書き綴ろうと思う。



2.はじめての収穫で知る「現実」


まず、今回お世話になった数見農園さんの採れたてみかんがこちら。

つるっつるのぴっかぴかな、おみかん達。
「ゆら早生わせという品種で、今回収穫した分が最終出荷らしい。
このゆら早生、出荷時期によって少しずつ味や見た目がそれぞれ異なるとか。
収穫スタートの10月初旬には、緑色にちょっぴり黄色が差し掛かった、爽やかで酸味の強い柑橘なのが、徐々に黄色が多く色づき、最終的に11月頭には、酸味よりも甘味の強い橙色のみかんへと変貌を遂げる。
そんな背景を汲んでみると、さすがは今季最後の砦、面構えが違うようにも見える。

このゆら早生みかんの収穫のお手伝いが今回のおてつたび内容の一つであった。
木に生っているみかんを、ハサミでパチン、パチンと、もぎっていく。

ここでのポイントは、もぎった後にさらにヘタの根元までカットする必殺「二度切り」。
みかん愛に溢れる数見さん曰く、ヘタの根元が出っ張っていると、どうしても他のみかんを傷つけてしまったり、出荷時のリスクの要因になってしまうそうだ。

ただ、この二度切りは深く切り込みすぎても、みかんに良くないらしく、絶妙な塩梅を必要とする。

「切りすぎかな、いや、もっと行くか、いや、あとちょっと。」

収穫ど素人は、慎重になりすぎて、「二度切り」どころか、ちまちまと「三度切り」、ときには「四度切り」をしてしまうのでした。
こんなに非生産的な小娘を雇っていただいてありがたい限りです....。


さらに、このみかん作業で特筆すべきは、なんといってもみかん畑のロケーション。
みかん畑は、段々畑に沿って木が生えているため、すべての木の農作業をするのは、斜面や段差の険しい足場との格闘を意味する。

この段差がいくつも連なっており、作業中にズリッと危ない目に遭いかけることも。

「よし、休憩だ!移動しよう!」と気を緩ませても、足元を見て、「アッ....」と心の声が漏れてしまうことが何度かあった。


でも、数見農園の段々畑の段から眺める景色は、それはそれは壮観で、由良町の町並みと、太平洋が見事に調和していた。

十数年前、DSの「〇うぶつの森」でひたすらみかんの木を揺すりまくって、「〇ぬきち」にみかんを売りさばき、住宅ローンの充てにしていた自分が恥ずかしい。

木を揺すってもみかんの実は都合よく全部落ちてこないし、あんな平地にみかんはポンポン生えていない。
絶対にラフレシアと共生するなんぞもありえない。
現実は、険しくも、美しい。
実働をもって、ゲームの虚構を知る大学4年生の秋。

そんなことを収穫しながらぼんやり考えていた私の帽子の刺繡には「GAP」の文字が。皮肉にしか見えない。



3.シンプルにみかんめっちゃうまい

さて、収穫されたコロコロみかん達はどこへ向かうのか。

大きさも傷も味も異なる彼らは、幾度もの「選果作業」を経て、消費者の手元に渡ることとなる。


農家さんの手によって「3段階」、さらに選果工場によって「4段階」
たぶんNiziUプロジェクトよりも、段階を踏んでいる。
人間だったら「スッキリ」で取材しきれない尺になりそう。

本当に選ばれし柑橘が消費者のもとにやってくる。

愛情たっぷり育てた中でも選りすぐりの柑橘を消費者に味わってほしい!そんなメッセージがこもっているように感じた。

今回、選果作業の一部もお手伝いさせていただいた。
極端に緑色だったり、虫に食われているもの、傷が大きなものを排除するべく、手作業で見分けていく。
全部おいしそうに見える、ピカピカみかんがベルトコンベアに流れていく様を、ただひたすらに目を凝らしては、選別していく作業。

連日、YouTubeやNetflixを見ながらご飯を食べたり、何かをやりながら、何かを考えながら物事をすることが日常となっていた私にとって、ただ一つのことにぐっと集中することは、とても新鮮だった。
結果、すごく楽しかった。もう流れてくるみかんが愛おしい...。


そして、もぎられ選定され、様々な旅路を経た、ゆら早生みかんの気になるお味について、

シンプルにめっちゃうまい。

濃厚な上に、酸味と甘味がどっちもよろしく堪能出来る、止まらない味。
この味の濃さの秘密は、由良早生みかんの特徴である「薄皮の薄さ」にある。
(薄皮とは、みかんの外皮を剝いたら対面する、白っぽい皮のことである。)

みかんの皮を剥いただけで薄皮もペロッとめくれてしまうくらいにうっすい薄皮。きっと極薄皮への改名も近いことでしょう。
この薄皮のおかげで実のぎっしり詰まった、「大満足みかん」な味わいが実現される。

パンパンに張りつめていた果肉を噛めば噛むほどに、じゅわあ~っと口の中いっぱいに広がる、甘酸っぱいみかん果汁。
私は、この「じゅわあ~」のとりこになってしまった。

命名:食べるみかんジュース

確かに果実を食べているはずなのに、「(果肉を)噛む」と「(果汁を)飲む」のエンドレス。ずっともぐもぐしていたい。

ゆら早生の季節は終わってしまっても、12月には甘味の増した「由良みかん」が待っている。
是非ともこの充足感をいろんな方に味わってもらいたい!



4.今までとはちがう、「また行きたい」

みかんの社会実習のようなおてつたびを特別なものにしていたのは、みかんだけではない。

農作業のハウツーだけでなく、なぜその作業がみかんにとって必要なのかを丁寧に説明して下さり、そして娘さんの溺愛話をたくさんして下さった数見さんを始め、
快く泊めてくださったお宿の方々、
ご縁があって同じタイミングで由良町に滞在した参加者の皆さん、
等々たくさんの方の心の広さがあっての、穏やかで実になる思い出。

7日前に「はじめまして」をした方々と、
とりとめのないお話を、ずっとそこにいたかのように自然にふっとしてしまう心地の良い空気感。
人見知りの私でも、ケタケタ笑っていた記憶ばかり。


そして、由良町でお世話になった方の厚意に私はどっぷり甘えてしまった。
海を見て、「釣りしたいねー」と冗談交じりにお話ししていたら、本当に釣り具を用意して頂いたり、
ビギナーズラックで釣った魚をお宿の方にから揚げにして頂いたり、

猟師さんの捌いた猪肉がすんごく美味しい話を聞いて、
「いいなー、猪肉食べたことないんですよー」
と言ったら、
次の日のバーベキューに猪肉を用意してくださったり、

「いいんですか?!ありがとうございます!」
「いいんですか?!ありがとうございます!」
口に出してから、心の中でもずっとエコーしていて、
本当に感謝の気持ちがとめどない。


最終日には、
「また、卒論が落ち着いたら由良に戻りたいなあ」
と、口から寂しさがこぼれ落ちていた。

普段の旅行であれば、「また行きたいなあ」と恋しさが募るけれど、
今回のおてつたびでは、ちょっと違っていた。

「また行きたい」というよりも、「戻りたい」
それはきっと、旅行先だけでなくて、そこで巡り合わせた人ごと好きになった私の、専売特許のような気がする。

「みかん食べれる、ラッキー」な気持ちを抱えてはじめて上陸した由良町で、想像以上のラッキーがもらえました!ありがとう!

5.後日談

1.ゆら早生みかんを親やバイト先、友達に大絶賛される。私までうれしくなった。

2.戻った翌日、経済地理の先生と和歌山でのお話をして、授業後に30分くらいオンラインで話し込んだ。

「学生生活の最後に人に思い入れを持った場所を作れてよかったです。」
「いやいや、『第二の故郷』、何個でも作っちゃいなよ。まだ若いんだから。それがあなたの大事な引き出しになるよ。」

何個も欲しいなあ、国内にたくさん人を通じた思い出の場所があるっていいな、としみじみした。

そして先生はさらに、
「そんなにいい経験をしたなら、脳みそに傷をつけるつもりで書いて残した方がいいよ。」
と続けた。
脳みその中の見たことや感じたことを自分の日本語に形を変えさせながら出力していく作業は、確かに「脳みそに傷をつけていく」ことなのかもしれない。

そんな先生からの言葉が印象に残って、こうして文章を残してみました。

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