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書店の雑誌担当が、日本のインディペンデントマガジンをまとめてみた。

都内の書店に勤務して約2年。雑誌担当として、国内の雑誌から欧米やアジアの雑誌、個人が作るインディペンデントマガジン、リトルプレスマガジン、ZINEなどを見続けてきた。

そんな中、ちゃんと日本国内のインディペンデントマガジンや少部数発行のリトルプレスマガジンをまとめて、紹介している記事がほとんどないなということに気付いた。自分自身も雑誌担当となり知ったものが数知れず。書店に勤務する前から多くのインディペンデントマガジンに出会いたかったという思いがあり、国内のチェックしていたほうがいいインディペンデントマガジンをまとめようと思う。

このnoteでのインディペンデントマガジン/リトルプレスマガジンの定義:出版取次(日販やトーハンなど)を通さず、流通に乗らない雑誌。全国津々浦々の書店に流通していない少発行部数(1号につき数百〜数千部程度)の雑誌を指す。ISBNの有無、個人・法人は問わない。

STUDY(スタディ)


2014年12月に創刊したインディペンデントファッションマガジン『STUDY』。編集長は、ライターや編集者として活動する長畑宏明さん。
STUDYは、日本のインディペンデントマガジンの代表的な存在で、"3号雑誌"という3号までで休刊・廃刊してしまう雑誌が多いなか、8号まで出版している。


ファッションマガジンとして、スタイリングされたファッション記事はもちろん、その時代に沿ったカルチャーなどの記事もあり、STUDYとして、長畑さんが、何を伝えたいのか、誰を伝えたいのかがはっきりしている。創刊号からしっかりした信念を持ち、芯がぶれない雑誌だと毎号読みながら感じている。

3号から6号目までのエディトリアルデザインは、デザイナーの一ノ瀬雄太さんが担当。7号目以降は長畑さん自身がデザインをしている。
長畑さん、一ノ瀬さんが語る雑誌についての記事があるので、こちらをぜひ読んでほしい。


VOSTOK(ヴォストーク)

年2回。3月と9月(春・秋)に発行しているメンズファッション・カルチャー誌『VOSTOK』。HUgEやThem magazineで経験を積み、30歳を機に編集プロダクションから独立した編集者の大城壮平さんが編集長を務めている。
2019年3月に創刊され、現在まで3号発行されている。毎号、テーマを設けておりそのテーマにあった写真や記事などが掲載される。

ファッションストーリーでは、COMME des GARCONS、Louis Vuitton、CELINEなどの大手有名ブランドやkudosなどの若手デザイナーなど、様々なブランドを取り上げている。
個人発行のインディペンデントマガジンでこれだけのブランドから服を提供してもらえるものすごいことだが、高橋恭司さん、ホンマタカシさん、横田大輔さん、細倉真弓さん、奥山由之さんなど名だたるフォトグラファーもVOSTOKのファッションストーリーを撮り下ろしている。

また、ファッションだけではなく、映画や音楽レビュー、小説など、毎号雑誌のテーマに基づいて、ジャーナルやカルチャーを取り上げる記事があり、ファッション、カルチャー、ジャーナルが同じ一冊の中にあるという雑誌という媒体が持つフォーマットとその魅力を最大限に活かしたものになっている。

自分自身も毎号、どんな風になるのか、ファッションストーリーや寄稿を本当に楽しみにしている雑誌で、誌面での写真レイアウトや質感、ジャーナルなど、様々なものが1冊にまとまるという雑誌ならではなものになっている。
VOSTOKは、ぜひ読んで欲しい。本当に魅力的な雑誌。


LOCKET(ロケット)

年に約1回のペースで発行される独立系旅雑誌『LOCKET』。編集者の内田洋介さんが編集長を務めている。
4号がこの夏発行され「コーラをめぐる冒険へ」というコーラをメインとした特集を出している。

『LOCKET』の面白いところは編集長の内田さんが、学生時代に1号目を発行した際に、リュックに作った雑誌を詰め込み日本全国の本屋さんへ手売りをしたことだ。その効果は絶大で、様々な口コミが広まり、4号目では取扱店が100軒まで増えたそう。

個人の熱がこもった雑誌で、内田さんの記事や写真はもちろんのこと、寄稿や写真、インタビューには、写真家の津田直さん、写真家の石川直樹さん、フィールド言語学者の吉岡乾さんなど、様々な人が関わり旅やその号の特集を多角的に深堀りしている。

また、デザインも特徴的で、3号目ではコデックス装という糸かがり綴じをし、その上に文字が入った透明なプラスチックカバーという、めっちゃ製作コストがかかった装丁をしているのに、1,200円(税抜)という気が狂った(いい意味)価格で販売していた。4号目もコーラということで、ロゴもコカ・コーラ風にしたり、持ち味である写真を活かしたデザインをするなど、内容だけではなく、雑誌としての細部までこだわり抜いている。

旅という移動が制限された時代にだからこそ、読みたい雑誌だと思う。
個人の衝動と熱量で、ここまでの雑誌を作れるんだということをLOCKETは証明している。

a quiet day(ア クワイエット デイ)

2015年12月から年複数回発行している北欧のクリエイターたちを取り上げるインディペンデントマガジン『a quiet day』。編集長の岩井謙介さんが実際に北欧まで足を運び、現地での取材やクリエイターたちへインタビューをしている。

モノだけではなく、そのモノにまつわる人にしっかりとフォーカスを当てて、だだのおしゃれなデザインという表層的な北欧というものではなく、モノや作り手にあるストーリーや内面にある言葉や気持ちを編集とデザインで読者に伝えてくれる。

また、雑誌だけではなく、実際に取材したクリエイターたちが作る、食器や雑貨、アート作品、雑誌などを日本へ仕入れ、販売、販売企画なども『a quiet day』はしており、雑誌に載っているクラフトをストーリーを知った上で、実際に手に取り生活の中へ取り入れるという、雑誌の拡張のようなこともしている。


MOMENT(モーメント)

あらゆる地域・分野を横断しながら、新しい都市のあり方を探索する人たちのためのトランスローカルマガジン『MOMENT』。「RE:PUBLIC」という継続的にイノベーションが起こる「生態系(=エコシステム)」を研究し(Think)、実践する(Do)、シンク・アンド・ドゥ・タンクを掲げる企業が発行している。編集長は、RE:PUBLIC所属の白井 瞭さん。

インデペンデントマガジンでは珍しく、都市やローカル、社会など大きなイシューを特集し、細やかに取材している雑誌だ。正直、少し難しい内容であったり、自分たちに直接的にどのような関わりがあるか、ぱっと読んだだけでは理解しにくいようなことも取り上げているが、様々な問題に直面する私達がどのように考え、行動していけばいいのか、世界各地を取材し、すでに実践しているトランスローカリストを言葉や思考を丁寧に記事にしている。

新型コロナウイルスの蔓延やグローバル経済の不安など、様々な事象に全世界的に直面する状況の中で、MOMENTに取り上げられた事例は私達が今後どう生きていくか、どんな風に考えや行動を変えていくのか、ひとつの参考や指針になるものが載っている。

普段から意識を向けていないと、取っ付きにくい分野の雑誌ではあるが、デザイン含めしっかりとされており、また専門的な言葉ではなく比較的理解しやすい、伝わえるようにと、気遣いがされているのでぜひ読んで欲しい。

PARTNERS(パートナーズ)

家族、恋人、アーティスト活動の中でのパートナー、仕事のパートナー、友人、夫婦などさまざまな人と人、モノとのつながり、関係性がテーマのインタビューマガジン『PARTNERS』。編集プロダクション「EATer」や「HugE」編集部を経て制作会社kontaktを設立した川島拓人さんが編集長を務めている。

『PARTNERS』を読み終えると多種多様な人々の人生を辿ったような感覚を得て、自分自身と自分と周りの人々との関係を見直したくなる。世界中に雑誌が数多ある中で、パートナーという人と人の関係性をフォーカスした雑誌はこれくらいだと思う。
横位置のページで配置される写真、2つということを意識してデザインされており、無意識のうちに二人の関係性に引き込まれていくようなエディトリアルデザインがされている。デザイナーは、スタジオボイスなどのデザインも担当している脇坂慶さん。

絆とか薄っぺらい言葉では言い表したくはないくらい、人と人との深い繋がりを知れる雑誌だ。


SHUKYU Magazine(シュウキュウマガジン)

選手・クラブ・サポーターからファッション・アート・建築・食まで、サッカーの背後に存在する様々なもの・ことを独自の視点で読み解フットボールカルチャーマガジン『SHUKYU Magazine』。2015年に創刊し、年に約2回発行している。原宿のオルタナティブスペースVACANTの創設に携わった後、2016年に独立した大神崇さんが編集長を務めている。

サッカー雑誌というと、選手やそのシーズンの結果や動向など、試合メインのイメージが強いが、SHUKYUはサッカーとそれにまつわるカルチャーをしっかりと取り上げている。また、一般的な雑誌は、選手メインの写真が多いなか、多様なサッカーの風景を嶌村吉祥丸など気鋭のフォトグラファーに撮影してもらうなど、既存のサッカー雑誌とは一線を画している。

SHUKYUは、magazineを主軸として、Tシャツや靴下、クリエイターの平山昌尚やイラストレーターのNoritakeなどとのコラボグッズを制作するなど、積極的に雑誌の世界観や雑誌、サッカーにに触れてもらう機会を増やしている。

国内のスポーツに関するインディペンデントマガジンは、SHUKYU Magazineくらいしかない。それだけ稀有な存在かつ、圧倒的なクオリティと取材力、8号まで続く継続性など、SHUKYU Magazineには雑誌というフォーマットを活かした魅力が詰まっている。


mcnai magazine(マカナイマガジン)

”若者による若者のためのフードカルチャー”をテーマに掲げる新鋭フード集団『mcnai』。その彼らがウェブメディアから紙の雑誌であるインディペンデントマガジン「mcnai magazine」を刊行した。SNEEZE Magazineのように、A3サイズの大きさで、製本をしていないためA2サイズのポスターとしても使える。

既存の雑誌というフォーマットを活かしながらも枠組みにとらわれない雑誌づくりで面白い。Spotifyでプレイリスト公開したり、QRコードでリンク先のレシピを見れたり、デジタルネイティブならではなギミックでフードカルチャーを体現してる。
若いとかそんなんでクリエイションを判断したくないけど、商業誌にない若さのある初期衝動的な勢いと、でもしっかりとした取材やビジュアル作りとのいいバランスがある雑誌だと思う。

ここ最近、インディペンデント系だとローカルやライフスタイル方向の雑誌が多くて、カルチャー系で面白いインディペンデントマガジンがなかったらこういうのが世に出て純粋に嬉しいし、大学生がこれだけのクオリティでアウトプットするのは本当に尊敬する。
食というものをメインテーマに持ってきたのも今の時代っぽい流れではあるし、ヴィジュアル、コンテンツともに東京の若者の空気を凝縮した雑誌だなって感じてる。


この他にもたくさんのインディペンデントマガジン、リトルプレスマガジンはあるが、継続して発行されない1号だけのものが多く、1号のみもの、直近一年で発行されないものは除外した。


インディペンデントマガジンのこれから

紹介したマガジンの編集長たちも既存の雑誌やウェブメディアでの編集業をメインの仕事として、自分の雑誌は採算度外視で理想のものを作っているケースがほとんどだ。でも、そんな作り手の雑誌や編集の仕事は、どんどん休刊になり、コロナ以降広告が減ったり、ウェブメディアも一昔前より落ち着いたりなど、厳しい状況が続いている。

でも、何かを伝えたい、何かを表現したい、何かを残したいと思ったときに雑誌というアウトプットの選択肢はなくならないと思う。
20代の大学生が、ウェブメディアから紙の雑誌を作ったように、何かしら衝動を持った人がどんどん表現の場として雑誌というフォーマットを使ってくれたらいいと、自分は売る立場の人間だけど思ってる。

雑誌のお作法なんて、誰が決めたわけでもないから、紙という制約のあるなかで、テクノロジーと紙とインクを融合させて、雑誌とリアルな場をどんどん融合させて、情報を、熱量を伝える新たな媒体として雑誌を利用して欲しい。

約2年という短い期間ではあるけど、売る側として雑誌と向き合ってきた。その中で感じた雑誌の面白みは、何でもアリということだと思う。だから、取り上げた雑誌以外にも、どんどんフザけたもの、真面目なもの、バカでかいもの、小さいもの、雑誌というフォーマットを活かして、色んなことアウトプットして欲しい。

インディペンデントマガジンがどんどん出てきたら、書店も雑誌売場も、もっと楽しくなっていく。既存の雑誌にも影響を与えて、もっと雑誌がよくなっていくはず。

とりあず、気になったインディペンデントマガジン、リトルプレスマガジンがあったら購入してみてください。出版元の直販から都内の大型書店、地方のいい本屋さんのECで買えます。大手出版社の雑誌とは違う出会い、気付きが必ずある。


プロフィール

ナガサワケンタ
92年生まれ。蟹座のA型。工業高校の建築学科を卒業後、都内の大手クリーニングチェーンに就職。ひたすらスーツをアイロンする日々が続く。その後、一念発起し、グラフィックデザインの専門学校へ入学。専門学校卒業後は、デザイン事務所やフリーランスデザイナー、外資系ネット広告代理店のインハウスデザイナーを経て、2018年5月より都内の書店の雑誌担当して働き始める。
Twitter:@ken76a3
Instagram:
ken76a3





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