いくえみ綾先生と私

2015年10月上旬、冬の訪れを感じさせる冷たい風を北の大地で浴びながら、いくえみ綾先生にインタビューをしてきた。

http://natalie.mu/comic/pp/ikuemiryo

これまでの人生の半分くらい、「一番好きなマンガ家は?」と聞かれたら、迷わず「いくえみ綾」と答えてきた。

初めていくえみ作品に出会ったのは、たぶん中学生だか高校生だかのときに別マで読んだ「バラ色の明日」の第9話『who』だと思う。

親戚の大きな屋敷に引き取られ、馴染めないでいる柚子と、彼女の前に突然現れた「おじさん」。少女マンガにしては写実的な人物造形と、どこか背筋が冷えるようなストーリー。緩急のついたコマ割り、セリフのリズム。すぐに夢中になり、そこからいくえみ作品を遡ってすべて集めた。

「I LOVE HER」では新ちゃんに憧れ、「ベイビーブルー」の美しい表紙を何度もなんども眺め、「君の歌がある」で見たようなバンドマンの世界に足を踏み入れ、「ブローチ」で10年の交際の行く末に爆泣きして、「私がいてもいなくても」の母娘の関係に自分を重ねて。挙げても挙げてもキリがないほど、いくえみ作品と一緒に歩んできた。先生の新刊が出たらすぐ書店に走る生活を、もう20年近く続けている。

マンガを読んでいて「こんなやつ現実にいるわけないよなー」という思いが湧き上がることはいくらでもあると思うけど、いくえみ先生のマンガを読んでいて、そういう気持ちになることはほぼない。電車で乗り合わせたり、同じクラスにいたりしてもおかしくない、ずるいことや正論に沿わないこともする、黒も白も正も負も抱えたふつーの人ばかり出てくるから。 友達のような親のような子供のような感覚で、みんなを近しく感じる。そうしていろんな人間や自分を肯定できるようになった、気がする。

今回インタビューさせていただくことが決まってから札幌に飛ぶ日まで、想像しては何度も心臓が口から飛び出そうになりながらも、無事に終えられたと思う。どれもこれも貴重なお話ばかりを、快くお話ししてくださり、じっくり画業を振り返っていただきつつ、現在進行形の創作についてもお聞きできたことがうれしかった。それまで連作や短編が多かったのが、ここから何だか変わったなあ、と感じていたタイミングが、2010年連載開始の「プリンシパル」。その変化の理由をうかがったら「得意なことだけしているのは、逃げている気がして」と、おっしゃっていた。中3でデビューしてから36年マンガを描きつづけてきて、確固たる自分のスタイルを築き上げても、チャレンジをしつづけている。とっっっっってもカッコいいなあ……!!と、ますます惚れて帰ってきたのであった。

先生はいま連載を6つも抱えている。こちらがぼんやりと生きていても、最新作がどんどん届き、しかもいつも新鮮な感覚で物語世界に酔わせてくれる。途中で引退したり休筆するマンガ家さんも一定数いる中で、大好きな作家さんが描き続けてくれていることは、なんて恵まれていて、贅沢なことなんだろう。その有り難さを今まであまりわかっていなかった。いまの会社に入ってマンガの仕事をするようになってから、「いくえみ先生にインタビューできたらもう思い残すことはありません!!」とか鼻息粗く発言しては上司に呆れた顔をされていたが、6年が経ち、(その上司もいなくなり)、ついにその夢を果たすことができてしまった。なんだかひとつのステージを終えたような気になっていたけれど、また大好きな作家さんのマンガを読み続けられるように、いちファンとしても仕事人としても、できることをしていかなくては。


(ここから布教)

私は残念ながらauユーザーではないので参加できないのですが、ブックパスでいくえみ作品が562円でこんなに読み放題になるの奇跡すぎる(25タイトルも!!ある!!)から、幸運な環境にある人はお願いだからみんな読みまくってくれ。https://www.bookpass.auone.jp/info/margaret/pc/

新作「太陽が見ている(かもしれないから)」も「あなたのことはそれほど」も胸がザワつく素晴らしさですが、つい今週新刊が出た「私・空・あなた・私」、最高におもしろいです。異母姉妹の話なのですがヒヤリとする感じがたまらない。そしていくえみ先生がインタビュー内で名前を挙げてらした、やまもり三香先生の「椿町ロンリープラネット」2巻も出たばかり。こちらもとても身悶えします、なんといっても無愛想な時代小説家の暁先生がサイッコーーにカッコいい……。ご本人もとてもいくえみ先生をリスペクトしていらっしゃいますが( http://natalie.mu/comic/pp/yamamorimika/page/2 )、いくえみ男子の次はやまもり男子、なんて言葉が浸透するかもしれませんよね!と、インタビューの場でも盛り上がったのでした。

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