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電気のおはなしその31・電流の流れる向きと、電子の流れる向きが逆である理由

これまで、

電流の正体は、電気の性質を持っている電子という粒の流れである。

という話をしてきましたし、それを元にしていろいろな話をしてきました。
ところで、電圧とか電流、電子の関係性について書くと、

電流は、電池の+端子から-端子に向かって流れる。
電流の正体は、電気の性質を持っている電子の粒の移動である。
電子は、電池の-端子から+端子に向かって移動する。

そうなんです。電流は+から-に向かって流れる向きを正の向きとしているのに、その電流の正体である電子は、なんと-端子から+端子に向かって移動するんです。つまり電流の向きと電子の向きが逆なんですよ…!
では、一体なんでそんな話になってしまったのでしょうか?!

人間が電池を最初に発明したのは、紀元前ではないかと思われています。イラクのバグダットから出土した遺跡で、ツボの中に二種類の金属棒を挿入し、そこに電解質の溶液か何かを入れていたと思われる物体が出土しました。これをバグダッド電池と呼んでいますが、何に使われていたのかは分かっていません。もしかしたら、このバグダッド電池は、電気の作用を得るために作られたものではなく、別の何かに使われていて、たまたま形が現代でいう電池と似た構造になってしまっただけだ、という説もありますが、本当のところは分かっていません。

その後も、琥珀をこすると静電気が発生し、羽毛が惹きつけられるという、当時の人にとっては「魔法のような不思議な現象」として電気は知られていましたが、本格的に電池が作られ、電流の作用が研究され始めたのは17世紀頃になってからでした。1800年頃に発明されたボルタ電池がそれで、それまでは「瞬間的に放電したら消え去ってしまう静電気」しか無かったものが、「連続的に電流を流し続けることができる動電気」を手に入れることができたんですね。

ボルタ電池が発明され、連続的に電流を流すことができるようになってからは、多くの科学者によって色々な実験が行われました。中でも重要な性質として、

方位磁石上に電線を置き電流を流すと、方位磁石の針が影響を受けて振れる

図1・電流によって方位磁石の針が振れるの図

また、電池の接続を逆にすると、針の振れも逆になる。

図2・電流を逆にしたら振れも逆になるの図

という性質が発見されました。保育園児の頃、図鑑でこれを見た私はエナメル線を巻いて同じ実験をしたものです…。

これらの実験から分かることは、

電線の中を流れる「何か」は、一方向に流れており、そしてその流れは磁気に影響を与える

ということなんですね。この「何か」を電流と呼ぶことにしました。

さて、ここで人間は2分の1の確率を外してしまいます。電流は一方向に流れていることが分かったので、適当に流れの+と-を定義してしまいました。それはそれで良いのですが、後年科学が発達し、電流の正体が電子の移動であることが突き止められたさい、

最初に定義していた電流の向きと、電流の正体である電子の移動の向きが、なんと逆だった

わけです。これに気付いたとき、

ゴメンゴメン、これまでの定義間違ってた。電流の向きをこれまでとは逆に定義しなおすわ

とやってくれればスッキリしたのですが、現実は、

  • 電流の向きを適当に定義した。

  • 電流の正体が電子であると分かった。

  • 電子の流れの向きは、1/2の確率を外して電流の定義と逆だった。

  • 仕方ないので、電子はマイナスの電気を持っているということにして、マイナスの電気を持った電子がマイナスからプラスに向かって流れているので、電流としてはプラスからマイナスに流れているということにして辻褄を合わせた。

ということにしたのです…。

これが、「電流は+極から-極に向かって流れる」「電流の正体は電子の移動」「電子は電池の-極から+極に向かって流れる」という話の真相なのでした。もし、歴史上のどこかで辻褄を合わせてくれていたならば、こんな面倒な話にはなっていなかったのですが、その代わり、電子は+の電気を持っていることになっていたし、N型半導体はP型半導体だったし、P型半導体はN型半導体だったし、フレミングの右手の法則は左手の法則だったし、左手の法則は右手の法則だったし…と、いろいろな法則や現象について今の我々の定義が真逆になってしまっていました。

もし、宇宙のどこかで地球と同じような星が存在し、人間と同じような宇宙人がいて、その宇宙人が人間と同じような科学知識を持っていたとして、その宇宙人は電流の向きと電子の向きを同じ向きと定義しているかもしれません。そうすると、今我々が思っている法則とは真逆の法則体系を持っている、なんて可能性もあったりします。
プラスとマイナスが逆になれば、法則もやっぱり違うんじゃないの?と思われるかもしれませんが、プラスとマイナスは相対的なものですから、別にどっちを正・どっちを負にしても体系は崩れないんですよね。例えば、海面を海抜ゼロmと定義したとして、そこから海の中を+、上空を-に取ったとしても、標高を測定する体系は正負が逆になるだけで別に何も問題ありません。

もしかしたら、海の中の生物は、人間が気付いていないだけで海面から今何メートルぐらいの所を泳いでいる、という知識があったとすると、海中では海面から深い方に向けてプラスの距離で測定していることでしょう。その場合、海面より上、つまり魚たちにとって「外側」は、マイナスの深さと定義しているのかもしれません。もちろん空想ですが、しょせん値のプラスマイナスというのはそういうものなんです。

だいぶ長くなってしまいましたが、円の角度を測るとき、反時計回りを正の角度とした理由も、恐らく地球がたまたま北半球に陸地が多く、北半球で科学が発達したため、北半球で自分たちを真上から見る(つまり、北極を真上から見る)時に地球が反時計回りに回転していた、というのが理由じゃないかと思っています。それはまた、三角関数の話で書こうかと思っていますよ。だからもし南半球で科学が発達していれば、時計回りが正の角度になってたんじゃないでしょうかね。

というわけで。

以上。

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