ドラマティック・パラドクス

     第一章 全ての始まり
  
 食い入るように見つめる画面の先には、「日本の怖い名所を発掘するスレ」と書かれている。昔から、都市伝説やオカルトものが好きだった私は、この類の掲示板サイトを見ることが日課のようになっていた。ふとなんでもないような文字列が目に止まった。
「水車町駅に行けばなにか起こるんじゃね?。」
水車町駅は、北海道札幌市にある市電の駅で、自分の家から自転車で三十分ぐらいの所にあり、最寄り駅から二駅乗れば着く。地元でも、人が行方不明になったり、飛び降り自殺者が出たりと有名な駅で、水車町駅では人が消えるという噂が立つほどだった。
 
 自分は、大学受験に失敗し予備校に通う日々を送っている。今も、その予備校から帰る電車の中でスマートフォンを弄っていた。最寄り駅まで通過する駅の中には水車町駅も含まれていた。あまり水車町駅なんて使わないものだから、降りてみたくなってしまった。窓を見れば、外は完全に日が落ちていて一つ一つ小さなビルや建物の明かりが集まって、綺麗な夜景を作っていた。
「次は、水車町、水車町。」
自分とは逆側のドアが開く。

 水車町駅に足を踏み入れた。利用者は少なく、怖気づいてしまうほどの静けさと薄暗さである。電車が過ぎ、降りた人が皆改札に向かった後、少しホームを歩いて見ることにした。他の駅に比べればたいそう小さいものだった。老朽化も進んでいて、所々錆びている。今日かは使う教材の量が多く、背負ったリュックサックが重かったので少し座って休みたくなり、ベンチを探した。ベージュ色のベンチを見つけ座ろうとしたその時、上に分厚い本のようなものが置いてあるのに気が付いた。忘れ物なのだろうか。電車を待つ間に読むには少し厚すぎなような気がした。
 
 一ページ目を開く。表紙と一ページの間から分厚い封筒が落ちたが、それを拾い上げ封筒には目もくれずに書いてある文章を読む。
 
午前二時十五分発、二番ホーム
鍵ヲ用ヒテ駅ノ扉ヲ開ケヨ
右カラ三番目ノ改札ニ封筒二入ツタ切符ヲ通セ
合言葉
二○○九年 七歳少女 家庭愛

悪戯か?誰かが意図的に置いていったのか?そんな疑念が湧き上がる。なぜなら、色々噂が湧き上がってるにしてもこんな分厚い本(まだ、一ページしか読んでないが)を置いても忘れ物として届けられるだけだからだ。
文章に書かれた封筒の中身も気になって、開けてみることにした。糊付けされていて、鋏で開けなきゃいけなかったが、あいにく持っていなかったので強引に手で開けた。中身は大量の切符で満たされていた。何百枚も入っているようだ。一枚手に取って調べてみると、材質的に本物と比べてみても劣らないぐらいだった。悪戯でこんなものが用意できるかと聞かれたら否と答えるだろう。少し信憑性があるのかもしれないと思いはじめ、誰にも見つからないように、本と封筒をリュックサックに入れた。ホームの階段を下り、水車町駅を後にした。  
 
 家に戻り、遅めの夕飯を済ませた。一通り寝るための準備を終えると、リュックからそれを取り出す。まだ一ページしか読んでないので夕飯中も続きが気になって仕方がなかった。二ページ目を開くと、ページいっぱいの大きさの新聞記事が切って貼ってあった。そして、見開きの右側には、一ページにあった、カタカナ混じりの無機質な明朝体とは違って、手書きの文字が並んでいた。
 
 見出しには、
『幼い犠牲 父母による虐待』
と書かれていた。事件の概要を述べると、二〇〇九年、大阪市の東和泉区で虐待事件が起き、七歳の少女が犠牲になったというものだ。虐待では、殺意が無ければ子供が亡くなっていても、極刑にされることは少なくむしろ懲役十年ほどで済んでしまうことが多く、この父母も例外ではなかった。ひとつの新聞記事では、事件全体のことを詳しく把握できなかったため、スマートフォンの電源を入れた。検索エンジンに事件名を入力し、検索をかけた。某百科事典サイトにこのことが記されていたのでクリックして開き、読む。
  
 二〇〇九年二月十日、大阪府大阪市東和泉区でおぞましい事件が起きた。当時、小学生一年生の吉川|桜良《さくら》(七)が彼女の父母に虐待され、激しい殴打が原因とされる脳出血で死に至ったという事件だ。殴る蹴るだけではなく、食事も少量であったため、亡くなった当時は激しく痩せていたという。各放送局がこの事件を大きく取りあげ、児童相談所が虐待を防げなかったことで、大きく社会問題になっていた。
 
 ざっとこんな所だろうか。残酷すぎて、この少女が受けた被害は自分の口から語ることができないほどだ。ある程度、把握したところで隣のページの手書きの文字に目を移した。こう書かれている。
 
 少女の家はマンションの三○七号室である。同封の切符を使い、その電車をおりた時、そのマンションの前に移動するだろう。その時にきっと鍵を持っているだろうから、その鍵を使って三○六号室を開ければ、そこが一時的な拠点になるだろう。何をすればいいかは着けばわかるはずだ。この次のページは、マンションの部屋に行くまで決して開くな。開けば君の存在が消えるだろう。
 
 誰かがまるで自分に対して書き残したような文章であった。ますます興味が沸いて、明日は休講日だし今日の夜中に水車町駅に行こうか、と急に考えが浮かんだ。改札を通れた時のことを考えて、ペットボトルの水や、財布、スマートフォンの充電器などを入れ、部屋の椅子まで毛布を持ってきて仮眠することにした。目を閉じてしばらくして眠りについたのだった。
 

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

小説をたまに書きます。エッセイもチャレンジしてみようかと。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。