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諒の立場で

 家庭や家族に何があっても、彼は次男です。

 俺達は晃助の暴力や暴言から逃れるように、アパートで暮らし始めた。
「穂香!竜馬ばかり見てんじゃねえ!」
「お兄様とは一緒にいられないわ!」
 晃助の行為に耐えかねた穂香が、真っ先に神谷家を出て行った。穂香も晃助と別居して、一人暮らしを始めてからは問題はなかった。
「晃太!勇者ばかり見てんじゃねえ!」
「俺の勝手だ!兄ちゃんが口を出すな!」
「兄貴も晃太もやめろ!」
 晃助は晃太にも勇者ばかり見るなと怒鳴り、殴打する等の暴力行為をした。俺も注意したが効果はなかった。晃太も抵抗して、お互いに怪我を負った。
「姉ちゃん、この家は危険だ。別々に暮らそう。」
「私もいられないわ。」
 晃太は香穂に呼びかけて、穂香を頼って同じアパートで暮らし始めた。穂香に次いで香穂も晃太も神谷家を出て行った。
「菜月!諒とばかりくっつくんじゃねえ!」
「兄貴やめろ!菜月を傷つけるな!」
「諒お兄様と一緒に行くわ。晃助お兄様とはいられないわ。」
 晃助が菜月に暴言を吐いた時も、俺も菜月を守った。健太には死なれ、晃助には乱暴されて傷ついた菜月を、俺も守らないとならないとも思えた。
「お兄様もお姉様も、穂香達と一緒にアパートで暮らしましょう。」
「俺達もそうするしかないな。」
 菜月も俺にも瑞穂にも呼びかけて、穂香、香穂、晃太と一緒にアパートで暮らすと言った。俺もそうするしかないと思えた。
「明里達はどうするのよ。」
「皆も一緒に暮らすように言うしかないな。」
 明里達を心配する瑞穂にも、俺も皆も一緒に暮らすように言うしかないと応えた。
「陽菜子、この家は危険よ。私達と一緒に暮らすのよ。」
「明里お姉ちゃんも魁も心配で行けないわ。瑞穂お姉ちゃん達で先に行って。」
 瑞穂も陽菜子にも呼びかけたが、陽菜子も明里も魁も心配で行けないとも、瑞穂達に先に行くようにとも言った。
「本当に危ないのよ。陽菜子は晃助お兄様に何をされても良いの!」
「お姉ちゃん達で先に行って!私がいないとお父さんもお母さんも、明里お姉ちゃんも魁も危ないのよ!」
 瑞穂も晃助に何をされても良いのかとも強く言うが、陽菜子も両親も明里も魁も危険とも、瑞穂達に先に行くようにとも言って聞かなかった。
「穂香、私達もいるわよ。」
「どうにもならない奴は放っておけ。俺も一人で頑張る穂香も、健太に死なれて辛い菜月も心配で来たんだ。」
 俺達は陽菜子も言うように神谷家を出て、穂香、香穂、晃太のアパートで暮らし始めた。
「皆が心配だからシェアハウスよ。」
「穂香や晃太は元気が良いから考えられるが、おとなしい香穂が一人暮らしとは意外だ。」
 瑞穂の提案で、穂香の部屋の隣室で俺、瑞穂、菜月のシェアハウスに決めた。元気で強い穂香と晃太が一人暮らしなのは俺も考えられるが、おとなしい香穂が一人暮らしとは俺も意外だ。
「家事を手伝うわね。」
 健太が死んでから、菜月は外で仕事より家で家事が多くなった。シェアハウスでも、菜月が俺達のためにも家事を頑張ってくれた。
「明里ちゃんは?」
「明里は神谷家を離れられないんだ。」
「俺も心配だ!明里が何かされていたらどうするんだ!」
 穂香も明里が心配で聞いたが、晃太も明里は神谷家を離れられないとしか言わなかった。俺も明里が心配だが、仕事も神谷家に近づけないのもあり、どうにもならなかった。
「あいつはどうにもならないわ!私もお姉ちゃん達と暮らすのよ。」
「俺も優しい姉ちゃん達と一緒が良い。」
 すぐに陽菜子も魁も、俺達と一緒にシェアハウスを始めた。魁も優しい姉達を頼る気持ちもよくわかる。
「明里、大丈夫だった?」
「辛いならこっちにも来てくれ。」
 明里が俺達を訪ねてきた時もあった。瑞穂も明里が大丈夫だったかも聞いたが、俺も明里にも辛いなら来てくれとも言った。
「菜月お姉ちゃんも大丈夫?」
 明里も晃助に乱暴されて、同時に両親が乱暴されるのも見ていて辛いのに、菜月が健太に死なれたのも気遣った。
「健ちゃんが亡くなってしまったのは悲しいわ。でも私も落ち込んでいられないの。」
 菜月も健太が亡くなってしまったのは悲しいが、落ち込んでいられないとも気丈に言った。
「明里、怪我していたな。」
「晃太も突っ込まないの。」
 晃太が明里の怪我にも気づいたが、香穂も晃太に突っ込まないようにと注意した。おとなしい香穂も、注意するくらい強くなっていた。
「私の同級生がね・・・。」
「菜月は同級生が好きだ。」
 次第に立ち直った菜月も、俺達にも再び同級生の話等も教えてくれるようになった。菜月が同級生を好きなのは相変わらずだ。
「何するのよ!」
「ほんの遊び心で・・・。」
 俺、晃太、魁が遊び半分でふざけて、陽菜子が突っ込む等も再び見られるようになった。
「菜月は大丈夫か。俺も同級生としても心配だぜ。」
「俺達は生活が変わったけど、菜月も大丈夫だ。」
 将人も菜月を心配して連絡してきた。俺も将人にも、菜月も大丈夫と応えた。
「佐藤さん、睨まないでください。」
 何があったのかはよくわからないが、美咲が明らかに俺達を敵視するような目で睨んできた時は、俺も睨むな程度は注意した。俺にもその時の美咲が、俺や皆に対して敵意をもつような表情に見えた。
「気をつけます。」
 俺も注意したら、美咲も表情を改めた。注意されたら美咲も優しくなり、俺達への敵意もなかった。
「こうすけくん」
「瑞穂、ぬいぐるみをこうすけくんって呼んでいるな。」
 瑞穂が男の子のぬいぐるみを買って、小さい頃のように「こうすけくん」と呼んで可愛がるようになった。瑞穂も家にいる時は、多くの時間を「こうすけくん」と一緒にいた。
「瑞穂はなんでそのぬいぐるみを「こうすけくん」って可愛がるんだ。」
「晃助お兄様と一緒に暮らしたいからよ。私も晃助お兄様が更生して欲しいの。」
 俺もなぜ瑞穂がぬいぐるみを「こうすけくん」と呼んで可愛がるのかも聞いたが、瑞穂も晃助と一緒に暮らしたいからとも、晃助が更生して欲しいからとも応えた。
「俺も兄貴が更生して欲しいと思うな。」
 瑞穂も言うように、俺も晃助が更生して欲しいと思うようになった。仲良く育ってきた兄貴なんだから、俺も乱暴じゃない優しい兄貴を見たい。
「兄貴はどうしているの。」
「晃助は入院しているわ。諒もお見舞いに行くなら気をつけてね。」
 俺は母さんに連絡したが、母さんも晃助が入院しているとも、見舞いに行くなら気をつけるようにとも注意した。
「兄貴!」
「諒!」
 俺も仕事の合間にも、晃助を見舞いに行った。
「皆に迷惑をかけたのも反省しろ。だが俺も兄貴が更生するって信じていたんだ。」
「俺様も反省するぜ。」
 俺も晃助にも、皆に迷惑をかけたのも反省しろとも注意した。瑞穂もだが、俺も晃助の更生を信じている。
 何日かした日に、俺達の願いは叶った。
「誰か来た。」
 俺達のシェアハウス部屋に皆が集まって、仕事や普通の会話等していたら、魁が誰か来たのに気づいた。
「お兄様。」
「晃助兄ちゃんだ。」
 俺達の部屋に入ったのは晃助だった。穂香も魁も晃助を呼んだ。
「皆、俺様を許してくれ。」
 晃助は俺達の前で、乱暴な行為を侘びて許しを求めた。
「私もお兄様を許すわ。ずっと心配していたのよ。」
「穂香も許してくれたぜ。俺様を心配してくれてもいたぜ。」
 穂香が晃助に真っ先に応えた。穂香も晃助を心配してもいた。
「健ちゃんが亡くなって、お兄様に乱暴されて私もずっと辛かったの。でも皆がいたから立ち直れたの。」
「菜月もまた元気になれたぜ。」
 健太に死なれて、晃助に乱暴されて辛かった菜月も、俺達がいたから頑張って立ち直れた姿を見せた。晃助も菜月にも安心した。
「反省したみたいね。また晃助お兄様と私、諒お兄様と菜月で過ごしたいわ。」
「瑞穂、俺様を大切に思ってくれるのか。」
 瑞穂も晃助が反省したのも認め、また晃助と瑞穂、俺と菜月で過ごしたいとも言った。晃助も、瑞穂も大切に思ってくれるのを感じていた。
「兄貴、二度と弟妹に乱暴するなよ。」
「諒も言うように、俺様も乱暴しないぜ。」
 俺も晃助にも、二度と乱暴しないようにと注意した。晃助も俺も言うように、乱暴しないと応えた。
「怖い思いは二度としたくないわ。」
「暴れ狂う猛獣はもういないみたいね。」
 香穂も怖い思いは二度としたくないと言い、陽菜子も暴れ狂う猛獣はもういないと言う。妹達も兄貴にも意見するくらい、強く成長していた。
「また兄ちゃんと俺でも勇者の話をしような。」
「俺も優しい兄ちゃんが良いな。」
「俺もそう思う。俺達でも一緒に過ごしたいな。」
 晃太も晃助にも、また勇者の話をしようとも言う。魁も優しい晃助が良いと言う。俺も男性の兄弟にも、俺達でも一緒に過ごしたいとも言った。
「私も退院したの。」
「明里!」
 晃助が呼んだ先には、元気になった明里もいた。俺達も今までのように、明里を歓迎した。
「俺様も明里も、皆でこのアパートで暮らすぜ。」
 さらに数日後には、晃助も明里も俺達のアパートで暮らし始めた。晃助は穂香の隣の部屋、明里は下の階で香穂、晃太と近い部屋だ。親元は離れたが、神谷家の兄弟姉妹はまた一緒に暮らせる時が来た。
「私達も皆で暮らせるわ。」
「困った時は私達にも言うのよ。」
 穂香も、また神谷家の兄弟姉妹皆で暮らせるのも嬉しそうだ。母さんも困った時は神谷家にも連絡するようにとも言った。
「違う県の方言では長男を「あんにゃ」、次男を「もしかあんにゃ」と呼ぶのか。」
 俺達が仲直りしてから、俺は派遣会社の仕事の休憩時間にインターネットを見て、違う県の方言では長男を「あんにゃ」、次男を「もしかあんにゃ」と呼ぶのも知った。
「もし長男が死んだら、次男が長男に成り代わる可能性もあるから「もしかあんにゃ」だ。でも俺も兄貴がいなくなるのも、俺が兄貴に成り代わるのも考えられないな。」
「諒くんはやはり次男ね。」
 もし長男が病気や事故、戦争等で死んだら次男が長男に成り代わる可能性もあるから「もしかあんにゃ」と呼ぶという。だが、俺も晃助がいなくなるのも、俺が成り代わるのも考えられないと思うのであった。女性の社員も言うように、俺はやはり他の誰でもない神谷家の次男だ。


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