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一人娘になった琴音

 兄も弟も失った彼女は、一人娘になってしまいました。

 兄さんを亡くした悲しみを琴とピアノにぶつけていたら、再び宮本家から電話が来た。
「どうしたの。」
「琴音、よく聞いてね。響希が首を吊って死んでしまったの・・・。」
 母さんは涙声で言った。交通事故で死んだ健太に次いで、響希が首を吊って自殺してしまった。
「自殺・・・!?」
 元気が良かった響希が、誰にも言わないで自らの命を絶ってしまった。
「琴音、迎えに行くから宮本家に来るのよ。」
 私は母さんに迎えに来てもらって、宮本家に向かった。
「こちらの部屋よ。」
 母さんは私達の子供部屋、今は響希の一人部屋に私を通した。響希はネクタイをカーテンのレールにかけて、首を吊って動かなくなっていた。
「響希~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 私も号泣しながら響希を呼んだが、当然何も返事もない。あるのは亡骸と、健太と響希と私の思い出ばかりだ。
「遺書を書いていたの。」
 母さんは、響希が遺書を書いていたと言った。私もその遺書を読んだ。
「俺は失敗続きで、父さんにも母さんにも仕事の上司にも𠮟られてばかりでどうにもなりません。父さん、母さん、姉さん、出来の悪い弟をお許しください。兄さん、俺もそちらに向かいます。」
「そんなことないわ・・・。響希、なんで勝手に命を絶つの・・・!」
 私はそんなことはないと思うが、響希は失敗ばかりしていて、叱られてばかりでどうにもならなかった。追い打ちをかけるように健太が死んでしまい、響希まで自身の命を絶ってしまった。健太は不慮の事故で死んでしまったが、響希は彼自身で命を絶って死んでしまった。
「私、一人娘になってしまったわ・・・。」
 健太も響希も失った私は、一人娘になってしまった。父さんも母さんも、息子に相次いで先立たれてしまった。
「私、男性と結婚するのも、交際するのも怖い。彼が突然死んでしまったらどうしたらいいの・・・。」
 男性の兄弟を相次いで失った私は、男性と結婚や交際をするのが怖くなってしまった。もし相手の男性が急な事故や病気、自殺等で死んでしまったらどうしたらいいのかと思うと、私も怖い。
「琴音、甘えさせてあげるわね。」
「俺達も琴音がいないと辛いんだ。」
 私は特別に、父さんと母さんに甘えた。私達は父さんと母さんと娘の時間を過ごして、気持ちを少しでも癒した。
「身内の不幸により、仕事を休ませていただきます。」
 私は歯科医院に連絡して、仕事の休みを取得した。実家と一人暮らしのアパートを行き来しながら、お通夜及びお葬式の準備を手伝った。
「思い出の写真だわ・・・。」
 私は準備の合間にも、皆の思い出の写真を何度も見た。仲の良い健太、響希、私が写っている写真。無邪気な頃の懐かしい思い出。二度と叶うことのない、兄弟と私の一緒の時間。
「私は死んではならないの。兄さんと響希の分まで頑張らないとね。」
 悲しい気持ちもあるが、私は死んではならないとも、生きられなかった健太と響希の分まで頑張らないとならないとも思う。たとえ兄弟を失ってしまっても、宮本家の絆は消えないのだから、私も宮本家の娘としての存在を失ってはならないと思う。

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