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【映画】「マンチェスター・バイ・ザ・シー」ハッピーエンドじゃないのに勇気がもらえる映画

最近ディズニー+にまた入会しました。
ワンダヴィジョン、ロキ、ムーンナイト最高ですんで未入会の方はぜひ。

こんな前置きなのにこの記事はマーベルでも、ましてやディズニー+で配信されている作品の話ではないです。

むしろ逆方向の、ヒーローなし、友達もなし、映画のなかで事態はおよそ好転してるとは思えない。
でもなぜか、勇気がもらえる、そんな映画の話です。

言っとくけどネタバレします(5年以上前の映画ですが一応断っておきます)

■タイトルとあらすじ

映画「マンチェスターバイザシー」
出演:ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ、カイル・チャンドラー、ルーカス・ヘッジス

リー・チャンドラーは短気な性格で血の気が多く一匹狼で、ボストンの住宅街で便利屋として生計を立てていた。

ある冬の日、リーは兄のジョーが心臓発作で亡くなったとの電話を受けた。故郷の町「マンチェスター・バイ・ザ・シー」に帰ったリーは、自分が16歳になるジョーの息子の後見人に選出されたことを知らされる。兄を失った悲しみや自分に甥が養育できるだろうかという不安に向き合うリーだったが、彼はそれ以上に暗い過去、重い問題を抱えていた。

Wikipediaより


■100点が出せなくたっていい

この映画、ハッピーエンドじゃありません。
過去に向き合って、乗り越える話じゃありません。

故郷から逃げ出し、罪の意識を抱えながら生きてきた主人公が、帰省するという時点で、
セオリー通りなら、過去の罪を清算!克服!お涙頂戴!これから皆でガンバロ!って描きがちだけど、そうはならない。


結局彼はもう一度、故郷を逃げ出すし、元妻や町の人と関係修復したりしません。
パトリックの抱える問題も多くは解決されません。
それが素晴らしいし、逆に勇気をもらえる映画になっているんだと思います。

だってハッピーエンドにできないこともあるじゃない。

いつも100点満点出せるヒーローは滅多にいません。
自分は優秀な人間じゃないし、周りに助けてくれる人もいないことなんてザラです。。
そんな状況で「100点は無理、だけど最大限30点、いや10点だけでも」
そういった種類の勇気
を丁寧に描いた作品でした。


■リーの生き方

主人公リーはかっこいい生き方をしてるとはとても言えません。
過去の事件は彼以外の誰のせいでもなく、そのせいで彼は自殺未遂もするし、故郷から逃げ出して、ダウナーな生活をしています。
死にきれなかったことがまた自身を責める理由の1つになっているのでしょう。あのときの勢いで死んでおけばよかったのに、と。

それでも彼は、パトリックと自分の直面する問題に正面から向き合おうとチャレンジします。
だけど、自分の限界を蔑ろにしているわけではなく、
自分の気持ちは自分の気持ちとして最大限尊重して行動します。

これは、終始物語で強調され、
物語冒頭の便利屋としての仕事ぶりから、ラストの決断まで、彼の行動は「みんなの思う100点を出せないが、自分なりの30点をだす」という、決して自暴自棄になってはできない思考から決断されます。


彼は、兄ジョーの死と、過去の事件を想起させる町のすべてに向き合う必要に迫られ、大きな精神的負担を抱えたまま、物語が進んでいくことになります。

彼は常に罪の意識にさいなまれていたと思います。そのせいでかつての明るさは失われ、喜びなく、悲しみを紛らわせながら生きていく生き方を選びました。そうならざるを得なかったのだと思います。

■リーとパトリック

序盤で、尊敬する兄のために葬式などの手配を引き受けますが、やはり辛い気持ちも無視できず、一通りが終われば船もすべて清算し故郷と決別しようと考えたと思います。

そこに甥のパトリックが現れます。

パトリックも父であるジョーを尊敬し、父のように周りから好かれる人間ですが、父の死により、彼なりの辛さを感じています。
リーと違うのが、おそらくパトリックは(ティーンエイジャーということもあり)これまで順風満帆な人生を今まで歩んできて、この町と人々を愛している、という点です。

パトリックはだからこそ、父の死に深く悲しみ、自分以上に悲しい人間もいないというティーンエイジャー特有の思考をしているかもしれません。


もしかしたら、リーも事件の前はパトリックと同じように友達に囲まれていたのかもしれません。友達と楽しく遊んでいたあとに過去の事件が起こるからです。
でも今は正反対の境遇にいます。
リーにとっては、亡き兄ジョーを思い出す存在であり、まだ楽しい人生を歩めていた自分自身を見るような存在だったかもしれません。

パトリックを見る目は辛くもあり、自分のようになってほしくないとも思っていたかもしれません。

様々なところで意見の食い違う二人ですが、互いに憎しみを抱くことはなく、最後には双方で歩みより、妥協点とも呼べる30点の回答を出します。

この二人の関係性の変化こそが、この映画の唯一の変化点であり、一歩だけど踏み出したんだとわかる点です。

■格好悪くても戦う姿に勇気をもらえる

リーは、
悲しみに向き合い、
無理難題に向き合い、
ちっぽけな自分と向き合い、
なにか一歩でも一ミリでも前にすすみます。

大きくて偉大な勇気ではなく、
小さくていびつな勇気を振るうようなカッコの悪い進み方ですが、
グロテスクな現実に対して必死で泥仕合をするその姿は、励ましや応援や同情とは違う形で見ている人にパワーを与えます。

そこぬけに明るい主人公や、ご都合主義みたいなハッピーエンドに疲れてしまった方や、穿った見方をしてしまう方にオススメです。


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