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「愛されない僕と、愛せる人々」 あとがきに代えて

「自分は特別な人間ではない」
人が、いい意味でも悲しい意味でもこのコトに気づくには、それなりの時間が掛かるものだと思っています。

その長さは、本当に人それぞれ。
5才にして隣の子の上手なお絵かきを見て自分の凡庸さに気づいてしまう少年園児がいれば、いつまで経っても「自分にはまだ何かあるはず」と祈るように信じ続けている中年サラリーマンもいます。(個人的にはそういうおじさん、嫌いじゃないですけど)

「愛されない僕と、愛せる人々」は、僕が「自分は特別な人間だと思い込みたかった」20代の悶々とし続けた時間の話です。大半は実話を元にしています。

24歳のとき僕は、重度の包茎だ、しかもその手術には保険が効かない、と医師に宣告されました。その瞬間は視野がじわじわと狭くなり「ああこれ、ドラマとかでよくある表現だ」とわかるくらいに世界がぐるぐると回ったものです。ただ、待合室で手術の待機をする頃には「むしろヤバい包茎で良かった。今まで人生で辛いことばっかり起こってたのは、全部コレのせいだったことにしよう。」と涙目になりながら開き直っていたのは、今思い出すと笑い話なのですが…

しかし当然、自分の体についていた皮がちょっと取り除かれたくらいで、人間はなーんにも変わりません。ただ「ウエノクリニック シンジュク」と書かれた医療ローンの引き落としが、毎月通帳に記載されるようになるだけ。

ただ、結果的に「そもそも包茎手術で変われるほど、僕はもともと特殊な人間ではないんじゃないか」と気づくきっかけにはなりました。(まぁそもそも、「おちんちんがキレイになれば男性は自信を取り戻す!」とかいうのが美容整形業者がマーケティングで作りあげた、幻想に違いないと思いますが。)

「オレナン過動性症候群」という病は、包茎と違って、男女問わず誰でも発症する恐れのある病だと思っています。彼は手術をしましたが、本当は手術では治りません。ただ、自分が特別ではないことに気づくことでしか治療の道はない、というのが、僕がこの物語を描きながら考えた結論です。

とりとめのない話になってしまいましたが、最後に登場人物の後日談にちょっと触れて終わりにしたいと思います。


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タカヤマさん
六本木のクラブに入るために、偶然通りがかりに声をかけて、そこから仲良くなったタカヤマさん。その後、彼とその仲間たちとは何度か遊びました。(彼が僕に付けたあだ名は厳密には「ニコちん」でしたけど)サイゼリヤ六本木店にあるワインを飲み尽くしたり、色んなクラブのオープニングパーティーに行っては誰が一番かわいい人を口説けるか競争したり、彼にはすごく六本木らしい遊びを教えてもらいましたが、徐々に合う機会が減っていき、今では全く連絡を取っていません。タカヤマさんはもともと不動産関係で働いていたのですが、数年前に表参道で女性のストリートスナップを撮っていたのを見かけたので、もしかしたらそちらの仕事に転職したのかもしれません。だとしたら、すごくタカヤマさんらしい仕事を選んだなぁと、しみじみしてしまいます。


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ヨコウチくん
予期せず波照間島に一泊しなくてはならなくなった時、たまたま同じ日に島に宿泊していたことで出会えた彼。どちらかの旅程が1日でもズレていたら、彼とは会っていませんでした。しかも同い年だったので、奇妙な縁を感じずにはいられませんでした。ヨコウチくんとは、今でも年に1度くらい連絡を取ります。彼は僕と出会った2年後、ホテルマンの仕事の最中にお客さんをナンパし、そのままその女性と結婚しました。現在は二児の父となった彼ですが、未だに仕事で東京に来るときには律儀に連絡をくれたりします。

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元彼女
今でも思い出したようにたまーに連絡を取ります。数年前に結婚して、今も幸せな家庭を築いているそうです。彼女が結婚した時は、式の二次会に呼ばれました。何で呼んだの?と聞いたら「元カレを同じ場に全員集合させてみたかった」と言われました。やっぱり彼女はちょっと変です。


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ぼく
「僕はやっと自分が普通であることを自覚できた」ようなことを書きましたが、こんなマンガを描いている時点で、まだ自分はどこか特別なのでは、と思っている節がある気がします。もしかしたら病気は、まだ治っていないのかもしれませんね。


拙い作品に最後までお付き合い頂きありがとうございました。
また次のマンガでお会いしましょう。

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