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ポスト資本主義研究室

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ポスト資本主義社会の姿やその実現方法について、哲学や科学など様々な観点から考えていきます。 気候変動などの大局的な事象から、小商いとしての日々の営みまで、あらゆる視点を排除しな… もっと読む
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記事一覧

エッセンシャルでない仕事がエッセンシャルな世界で

「エッセンシャルワーカーにもっと高い賃金を!」という主張が大きな共感を呼んでいる。 未知の新型ウイルスの危険が迫る中でも社会機能を維持するために必死に働く人々の姿を目にする中で、これまで見過ごされてきた「本当に必要な仕事」の価値が見直された結果なのだろう。 僕はこの主張に完全に同意する。今すぐに医療や介護、町の清掃、インフラの管理など、「エッセンシャルな」仕事をする人々に貨幣が行き渡るようにするべきだ。 ◆ と同時に、「『エッセンシャルでない仕事』とは何だろう?」との

大学教育は「買い物」か?

新型コロナウイルスの影響で大学でも休校やオンライン授業化といった対応が行われている。それに伴って一部の学生(や保護者)から次のような声が上がっているそうだ。 通常の授業が受けられなかったり、キャンパスを使用できないのだから、その分のお金を返してほしい この主張、気持ちはとても理解できるのだけれど、僕にはどうにも釈然としない思いがあった。「返金」ってなんだか買い物みたいで、大学という高等教育にはなじまない、という感覚だ。 「教育の等価交換」意識への違和感そんな中、この問題

2020年の顔認証と1974年の自動車

先日配信された『Lobsterr Letter vol.52』で岡橋惇さん(Twitter: @AOkahashi)が書いていたことと、僕がいま読んでいる本で紹介されていた経済学者・宇沢弘文の言葉が、時代を超えて共鳴していた。そのことについて少し考察しておこうと思う。 岡橋さんは、保育施設で広がっている顔認証システムから監視資本主義社会へと話を展開しつつ、次のように書いている。 保護者たちは気に入った写真があれば有料で購入できるようになっている。このアプリには画像認証技術

「個人がつくる新しい経済圏」に飛び込んで泥沼にはまらないために必要なこと

「新しい働き方」が生む希望と失望「働き方改革」や「副業・複業・兼業」、「シェアリングエコノミー」といったバズワードとともに、「個人がつくる新しい経済圏」という概念が広がっている。 エアビーにメルカリにウーバーイーツ、様々なクラウドファンディングなどを活用することで、企業に縛られず、個人が自由に稼いだり、資金を得たりできるようになった。このことは、企業を中心としたこれまでの経済圏とは別に、個人を中心とした新たな経済圏が生まれつつあることを意味していて、人々がそこに大きな希望を

「消費者」という幻想

先日、代官山蔦屋書店で開催されたこちらのトークイベントに登壇しました。 雑誌『STANDART』日本版に僕が寄稿した2つのエッセイ「人工知能の時代にコーヒー焙煎家は必要か?」「京都が未来である理由—ポスト資本主義への道標」をメイントピックに、室本寿和さん(『STANDART』日本版ディレクター)と岡橋惇さん(『Lobsterr』共同創始者・編集者)とトークしました。 オープンディカッションという形を取り、来場者のみなさんにも積極的に参加していただいた結果、議論は大変に盛り

京都カルチャーとポスト資本主義

雑誌『Standart Japan』の最新号(Issue 10)にエッセイを寄稿しました。 タイトルは『京都が未来である理由ーポスト資本主義への道標』。 このエッセイを書いたきっかけについて、少しだけ書いておこうと思います。 ◇ 京都には独特なカルチャーがあります。 たとえば、「一見さんお断り」はその象徴でしょう。 常連のお客さんなどからの紹介がない人は入店をお断りするというものです。 イメージするほどそんなに「一見さんお断り」の店が存在するかは疑問ですが、京都に

「あなたのお店は入りにくい」

先日、「五条喫茶室 -コーヒーショップから考えるコミュニティ論-」というイベントに参加してきた。コーヒーショップやコワーキングスペースの運営、そして学者の立場から三者三様の話が聞けて、とても楽しく有意義な時間だった。 イベントの終盤で参加者から「知らない町のカフェなどは、なんとなく入りにくい」という声があり、それに返答する形で登壇者の小松尚さん(名古屋大学大学院環境学研究科)から「コミュニティに参加したい人がカフェにやってくるようにするためには、建築的に入りやすいデザインに

「エコである」ことについて

『エコ(エコロジー)』って難しい。本当に難しい。  ここのところそんなことをよく考えるので、考えたことを書いておこうと思う。 ◇◇◇ 先日、コーヒーカルチャーマガジン『STANDART』の開催したトークイベントに参加してきた。 トークのテーマは“コーヒーのアップサイクル”。コーヒーを淹れたあとに残るカス(出がらし)を有機肥料に転換する活動を行っている『manu coffee』(福岡)の福田雅守さんと『STANDART』編集長・室本寿和さんによる対談だった。 日々コー

「僕は資本主義からできるだけ遠いところに行きたいんだ」

思えば素朴な青年だった。 中学時代から数学が得意で、そのまま数学科を目指して大学に入ったけれど、途中から物理学とコンピュータシミュレーションの方が面白くなって地球惑星科学科で修士課程まで進んだ。 そのまま博士課程に行こうと思っていたけれど、その前に少しだけ外の世界も見てみようと思って就職活動をはじめてみたら、面白そうな人がたくさんいるし、全然知らなかった「社会の仕組み」というものに俄然興味が出てしまって、進学するのはやめてビジネスコンサルティングの会社に入った。色んな企業

ポスト資本主義的金融論(仮)

2019年も引き続き資本主義やポスト資本主義について考えていこうと思う。今回はこれからの金融について。 ••••• リーマンショックに触れるまでもなく、現行の資本主義における大きな課題のひとつが市場原理に基づく金融システムにあること、その廃止を唱えなくても、修正を迫られていることには、大きな異論はないのではないか。 そんな中、昨年後半、新しい金融のカタチについての気づきを与えてくれるニュースや文章に出会った。一見、それぞれ全く関係の無いもののように見えるけれど、そこには

それを買うのは誰なのか?~AI、ベーシックインカム、資本主義の未来~

”AI(人工知能)が仕事を奪う”、そんな言葉をよく耳にする。 「AIやロボット技術の発展により、多くの労働力はそれらに取って代わられるので、人間は不要になる」という理屈だ。 それに対して、「人間はAIには出来ないよりクリエイティブな仕事をすればよい」とか、「仕事をする必要がないのであれば、遊んで暮らせばよい」といった反応がある。ベーシックインカムはそんな未来を見据えたひとつのアイデアとしても注目されている。 これらの議論の前段には、「そもそも人間は仕事をしなくてもよくな

〈売り手の思想〉としての価格決定

ある商品の『価格』はどうやって決まるのか、もしくは決めるのか?という問題は、経済学にとってはいつだって重要な論点だし、事業を経営する人にとってはいつだって悩みの種だろう。 資本主義を研究中の僕にとっても、それは興味津々なテーマだ。 そんな中で、ふたつの面白い記事を読んだ。 一つ目はセキネトモイキさん(Nokishita代表 / ドリンク ディレクター)のこちらのブログ。ぜひ読んでほしい。 ここでセキネさんは、〈価格を客が決める〉という試みについて紹介している。その結果と