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書評;「極めに・究める・脳卒中 (極めに・究める・リハビリテーション) 」(藤野雄次(著)、相澤純也 (監修)、丸善出版、2018年10月)

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 私は単科精神科病院に勤務する精神科医である。急性期病棟を担当しているが、地域密着性の高い病院であるため、最近では典型的な精神病患者よりも、認知症をはじめとする高齢患者が多い。

 高齢患者では、入院中の筋力低下が無視できない問題となる。明らかな麻痺や関節症などなくとも、元来の筋量が少ないため、3か月程度の負荷の弱い入院生活により、日常生活動作水準は低下しやすい。

 そのため、一般的に抱かれる精神科病院の印象とは異なるかもしれないが、入院中の筋力の維持や増大、退院後も継続可能な運動習慣の確立が現実的な課題となっている。

 理学療法や作業療法の処方箋を記載するのも医師の役目である。そのため、私もこうした問題への理解や介入を深められるよう、勉強する必要がある。そこで、まずタイトルに示した書籍を読んでみることにした。

 同書の主題は、タイトルどおり、脳卒中後のリハビリテーションである。内容は、個別的な事例に対する標準的な介入の適否と、新たな視点の紹介とから構成されている。

 私の勤める病院でのリハビリテーションは、手摺や補助具を用いた歩行訓練が多い。また、転倒に対する過剰な警戒がある。

 著者は、脳卒中後の運動麻痺の評価について、「筋力は」「放っておけば、弱くなる」という考えから、「運動麻痺が重度であっても「量的」な要素を高めることで、起立や歩行の能力が「質的」に改善する」と述べ、筋力強化の重要性を強調する。

 また、「姿勢を保持するための絶対条件は、支持基底面内に重心を落とす」ことである一方、「動くということは、絶えず支持基底面を変化させる」ことであるという。つまり、一見してふらついていたとしても、それが運動に必要な変化である可能性があるということである。さらに、健常者ですらそうであるように、日常生活において「転ぶときは転ぶ」という現実から目を逸らさず、むしろ、「転んでもケガをしないようにする」ことが大切であると述べる。

 麻痺による限局的な身体機能の低下に関しても、種々の筋肉や関節が連動する「運動連鎖」の利用による代償や、「反力」の利用による抗重力筋の賦活などが紹介されている。

 そして、回復した機能を長期的に維持するためには、退院後も「患者自身が率先して「自ら取り組む」という状況」が必要であるとも述べる。著者によると、洋式生活と和式生活の別にかかわらず、在宅生活で必要となる特に重要な基本動作は、「床に座り込む動作」や「床から立ち上がる動作」であるとされる。片麻痺の患者にどの程度応用できるかは別として、近年の高齢者に向けたスクワットの推奨は、こうした考え方に基づいているのであろう。

 私はこれまでリハビリテーションについて、個別の動作への注目が強かったため、基本動作の強化という視点を明確にできたことは収穫であった。

 専門家にとっては既知の内容が多いのかもしれないが、私のような門外漢にとっては全体的に読みやすく、適度にまとめられている一冊であった。

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