見出し画像

日本経済学会2020年度春季大会:はじめてのオンライン開催!

このnoteでは、2020年5月30日(土)、31日(日)に開催された「日本経済学会2020年度春季大会」の大会運営委員長をつとめられた堀宣昭先生に、新型コロナウィルス感染症の影響で、はじめてのオンライン開催に臨まれた経緯や工夫、当日の様子や課題などなど、さまざまに語っていただいた記事を『経セミ』2020年10・11月号よりご紹介します。

2020年10月10日(土)、11日(日)には2020年度秋季大会の開催となりますね。

それでは、日本経済学会では初の「オンライン開催」という試みにどのように挑まれたのか、ぜひご覧ください!

■著者紹介

堀 宣昭(ほり・のぶあき)
1998年、東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。九州大学経済学部助教授等を経て、2016年より九州大学経済学研究院准教授。著書:『グローバリゼーションと地域経済・公共政策2 実証・マクロ経済分析』(編著、九州大学出版会、2003年)。

■学会初の試み

日本経済学会の2020年度春季大会は、5月30日(土)、31日(日)にオンラインで開催されました。当初は、同日程で、九州大学伊都キャンパスで開催予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言が発令される直前の3月末の段階で、日本経済学会はオンラインでの開催を決定しました。国内での感染が広がるにつれ、当初は大会の開催自体危ぶまれたのですが、内外の学術コンファレンスがオンラインで開催される事例も多々報告されており、日本経済学会としてもトライすることになりました。

オンライン開催の通知直後から、大会運営委員会には、他学会の関係者の先生方からも、日本経済学会のオンライン開催方法を参考にしたいという問い合わせがありました。この機会に、少々細かい点まで含め、今後の参考になるような情報をお伝えできればと思います。

■運営会社の協力を得る

日本経済学会では、近年、大会運営時にイベント運営の専門会社を利用するのが常となっており、今回の大会運営委員会も、当初から、大阪を本社とするイベント運営会社のサポートを受けていました。オンライン開催への変更にあたっても、技術的な運営をこの運営会社に委託することができました。

オンライン大会は、Zoomウェビナーを利用しての開催となりました。そのころすでに、他分野の国内学会で、3月中に予定されていた大会を急遽Zoomを用いた開催に変更した事例がいくつかあり、その様子がウェブ上で報告されていました。報告には、セッション運営上の工夫など、参考になる情報が数多く含まれていたのですが、Zoomの運営自体、ほとんど大会運営サイドの先生方が直接担われているように思われました。

例年、日本経済学会の大会での報告数は120前後に上ります(ポスター報告を除く)。また、5月の連休を考えると、大会開催まで実質2カ月を切っていましたし、そのころは多くの大学がオンライン授業のための準備に追われており、九州大学の教員を中心とした大会運営委員会の委員もその例外ではありませんでした。これらを考えると、オンライン開催の技術的な準備まで含め、すべて大会運営委員会で行うのは明らかに非現実的でした。オンライン大会の開催は、運営会社へのスムーズな業務委託があって初めて決断、実行できたと言えます。

■オンライン開催に向け、始動

日本経済学会では、3月31日付で、学会員向けに春季大会のオンライン開催への変更をアナウンスしました。大会運営サイドの準備は、4月中は、運営会社と技術的なポイントを確認しながら、オンライン大会の運営方法の概要を練り上げ、早期に学会員に対し周知することでした。

日本経済学会の大会の通常開催では、最大で10のセッションが同時進行します。今回のオンライン開催では、5会場(チャンネル)を用意し、最大5セッションが同時進行する体制をとりました。春季大会の参加申し込みは1月に締め切り、当時は通常開催を前提とした大会プログラムがまさに完成したところだったのですが、急遽、5会場用にプログラムを組み直さざるを得ませんでした。

Zoomウェビナーのパネリスト側には、セッション座長、報告者、討論者(講演の場合には司会と講演者)の他、運営会社の担当者が技術的なサポートのためにホストとして入室することになりました。さらに、各セッションに1名、運営委員が共同ホストとして参加してタイムキーパーを務める他、適宜進行をサポートすることとしました。一般のオーディエンスはZoomウェビナーの視聴者側から参加することになり、大会公式サイトから視聴のためのオンライン大会サイトへリンクを貼ることにしました。視聴者側からは音声で直接質問することはできませんが、チャットを通してパネリスト側に質問を送ることができます。

発表中のスライドなどは、原則、発表者自身が操作しますが、トラブルに備えて事前に資料を運営側に送ってもらう他、そのようにして最初からホストが操作するオプションも選べるようにしました。結果としては、ほとんどの発表者が自分での操作を選択しました。また、一般セッションでタイムキーパーが残り時間を伝える際は、チャットでは画面共有中は気づきにくいため、声を発してはっきり伝えることにしました。

ポスターセッションもオンライン大会サイトから視聴、閲覧できるようにしました。日本経済学会の大会の通常開催では、初日にポスターセッション専用の時間帯が設けられ、その他のセッションと重ならないようにしています。しかし、今回は、ポスターセッション以外の全セッションを5会場(チャンネル)に集約して配信することになったため、専用時間帯を2日間の大会期間中に設定することができなくなりました。このため、オンライン大会サイトは大会終了後も1週間公開し、引き続きポスターセッションを視聴できるようにしました。

■オンライン開催に向けた準備

大会公式サイトは、ここ数年、テンプレート化されたものを利用してきたのですが、今回は、オンライン開催に向けてデザインや項目を相当程度見直しました。4月28日に何とか大会公式サイトの公開に漕ぎつけ、上述のオンライン開催の概要をアナウンスしました。また、今回は日本経済学会の初めてのオンライン大会ということで、試行的な開催となるため、大会参加資格は、原則、学会員に限定し、大会参加料も徴収しないことになりました。九州大学での開催がなくなったため、運営委員会が通常行わなければならない多くの業務が消滅しました。かわって、5月に入ってからの運営サイドのメインの業務は、参加・視聴のためのより詳細なマニュアルを準備する他、パネリスト側参加者のメールアドレスなどの情報をセッションごとにリスト化し、運営会社と共有することでした。

パネリスト入室の予定者には、事前に入室用の個別IDとパスワードをメールで送ることになっていました。パネリスト側には、報告者以外の論文の共著者も、希望すれば入室を認めることにしましたので、これらの希望者も含め、参加者の情報リストを遺漏なく作成しておく必要がありました。リスト作成にあたっては、各発表者の画面共有方法の他、参加者が自宅でも確実にIDとパスワードを受け取ることができるよう、希望者の必要に応じて予備のメールアドレスも収集することにしました。しかし、約350名分の情報をすべて収集するのに想定以上の時間がかかってしまい、最終的にリストが完成したのは大会直前になってしまいました。オンライン開催の準備では、参加者についての正確な情報リストの作成・管理こそが業務の根幹といえますので、この点は大きな反省点です。

大会運営委員会は、開催予定校であった九州大学の教員を中心に12名で構成されていました。大会前には、サポートとして入るセッションの分担表を作成しましたが、九州大学大学院経済学府の3名の大学院生にも、アルバイトとして分担に加わってもらいました。直前になりましたが、パネリスト側、視聴者側双方にログインのための情報を送付し、大会当日に備えました。

■当日の流れとトラブル

大会は、1日目、2日目とも午前9時からの開始、2日目の終了は午後7時までかかりました。1日目は、3つの招待講演と16の一般セッションの他、メンタリング・セッションを含め4つの企画セッションが実施されました。2日目は学会賞講演と13の一般セッションで、今大会の学会賞講演は、中原賞講演ソウル大学・奥井亮先生による "A Moment Inequality Approach to StatisticalInferences for Rankings"、石川賞講演シカゴ大学・伊藤公一朗先生による "Market Design for Electricity: Theory and Evidence" でした。両講演とも200名以上が視聴し、通常開催と同様の盛況な講演となりました(各々の講演の紹介を、『経済セミナー』2020年10・11月号の46-53頁に掲載)。

以下のようなトラブルもありました。まず、どうしても、通信環境を起因とする映像や音声の乱れがありました。また、画面共有のトラブルで、ホストが事前に送られたスライドをもとに画面共有を代行したケースもありました。参加者が入室サイド(パネリスト側か視聴者側か)を間違えるケースもあったようです。その場合は、その都度ホストが移動させることになりました。

トラブルというわけではないのですが、Zoomの設定上の細かな問題を参考までにご紹介しておきます。視聴者はチャットでフロアからの質問を送ることができたのですが、チャットの送信先をデフォルトのまま「すべてのパネリスト」にしてしまうと、他の視聴者は質問内容を読めず、パネリストが回答しても、どういった質問に対する回答なのかそもそもわからないという事態が生じました。他の視聴者にも質問内容が伝わるためには、チャットの送信先を「すべてのパネリストおよび出席者」に変えてから送信する必要がありました。

一方、チャットで受けた質問は、保存して後で確認できるというメリットもありました。その他にも、ヒヤリとするトラブルがいくつかあったのですが、予定された100を超える全報告、全討論は何とか実施することができました。

(当日のプログラムはコチラ↓)

■ポスターセッションの工夫

ポスターセッションについては、今回はプログラムがタイトになったため、通常開催では設けられる約2時間の専用時間帯を一般セッションに割り当てざるを得ませんでした。ポスターセッションは特に求職者にとって貴重な機会となるだけに、苦渋の選択となりました。その代わり、ポスターはオンライン大会サイトで常時公開され、公開期間も大会終了後1週間までとしました。ポスター報告者には通常と同じA0判サイズのポスターファイルを提出してもらいました。

また、通常開催の場合、ポスター報告に先立って、報告者全員によるフラッシュトークが行われます。フラッシュトークは、ポスター報告者が各自持ち時間1分間・スライド1枚で順番にポスター報告内容を宣伝していくセッションで、例年、50前後の報告者を2セッションに分けて行います。今回のフラッシュトークについても、2セッション分の動画2本を作成してオンライン大会サイトで公開しました。報告者に1分以内の音声が入ったスライドを提出してもらい、動画に編集したのですが、思った以上に骨の折れる作業でした。

報告者の中には、より長い動画を個別にアップすることを希望される方もいましたが、フラッシュトークには、大勢の方に一度に見てもらうことで宣伝のリーチを広げるという効果がありますので、例年のやり方に準じました。ただし、希望者は、ポスターサイトから自分のオリジナルなコンテンツへのリンクを貼れるようにし、さらに、フラッシュトークの司会者も、動画の中で報告者のオリジナル・サイトへのアクセスを促しました。実際、45名の報告者の中で10名の報告者が外部リンクのオプションを選択しました。リンク先では、論文やスライドを置く他、個別にZoomのミーティングルームを開設している方もいました。

一般セッションの場合であれば、オンラインであっても報告、討論、質疑応答という形式に基本的な変わりはありません。むしろ、オンライン開催で工夫や改善の余地が大きいのは、ポスターセッションということになるかと思います。今回は個々の報告者の判断に委ねましたが、オンラインを利用したポスターセッションをどのようにデザインしていくのかが、学会としての今後の大きな課題です。

■オンラインのメリットを活かす

オンライン開催にはさまざまな制約があり、多少のトラブルはどうしても避けられないでしょうが、オンラインならではのメリットというものもあります。今回の石川賞講演で伊藤先生がシカゴから講演されたように、海外の著名な研究者が参加しやすくなるでしょう。コロナ禍が収束した後でも、以前と全く同じような開催形態には戻さず、一部の講演やセッションをオンラインで実施することも考えられます。

今後も試行錯誤が繰り返され、新しい形の大会開催形態が模索されることになるでしょう。


『経済セミナー』2020年10・11月号掲載の「学会・研究会レビュー No.30」より。

サポートに限らず、どんなリアクションでも大変ありがたく思います。リクエスト等々もぜひお送りいただけたら幸いです。本誌とあわあせて、今後もコンテンツ充実に努めて参りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。