もはや結婚は「金と顔の交換」ではない

【注意】

今回のエントリーは、あなたの結婚に対する夢をすべて叩き壊す可能性があります。まだ夢を見ていたい、理想を捨てたくないと言う方には、読むのはお勧めしません。


まだ独身で特定の相手もいない方なら、少なからず理想の相手について想像することがあるでしょう。男性では「若くて美しい女性」、女性では「社会的地位が高く経済力がある男性」を求める人は多いと思います。どのような男女がお似合いなのかについて論じる時、今まではよく「結婚とは、男の金と女の顔の交換である」という主張がされていました。つまり、ステータスと経済力を持つ男性と、若さと美貌を持つ女性は同じくらいの魅力があり、すなわちカップルとしてお似合いである、と。この「金と顔の交換」という考え方は日本だけではなく、海外にも存在します。ところが、どうやらこの主張はもはや過去のものであり、男女平等が進んだ現代の先進国では、もう成立しないのではないかという議論が近年されています。2014年に発表された論文では、アメリカの1,500組以上のカップルを調査した結果、「金と顔の交換」によるカップルは、短期間の交際やただのデートでは見られたものの、結婚した夫婦では見られなかったことが判明しています (1)。要するに、お金を持っているだけの男性は美女とのデートまでは成功するものの結婚まで辿り着けない、若くて美しいだけの女性もハイスペックの男性に遊ばれることはあっても、妻として選ばれることはないということです。これは一体どういうことなのか、もう少し詳しく見ていきましょう。

年をとると結婚しにくい

男性の中には、「男は地位と経済力。つまり本当に魅力的になるのは30代40代からで、何も持っていない20代の若造よりも、金も権力もある俺の方が魅力的なはずだ」と考え、20代前半の若くて美しい女性を狙う人もいるでしょう。実際に20歳やそれ以上年下の女性と結婚する男性芸能人のニュースも目にします。しかし、その主張は本当に正しいのでしょうか?厚生労働省の人口動態統計によると、2011年の平均初婚年齢は男性が30.7歳、女性が29.0歳と年齢差が1.7歳しかありません。日本では夫が再婚で妻が初婚という組み合わせは、その逆の組み合わせよりも多いですが、すべての結婚を含めた平均婚姻年齢も男性32.7歳、女性30.5歳と2.2歳差しかありません。つまり、20歳年下の若い女性との結婚はあくまでも例外であり、基本的には年齢差があまりない男女が結婚していることがわかります。さらに、そもそも年をとると結婚する確率自体下がることが推測されます。

年齢による結婚する確率の推移を計算するのは難しいのですが、ここでは少々乱暴ながら、総務省の国勢調査のデータを使って計算してみましょう。2000年における日本の30歳から34歳の未婚男性(まだ一度も結婚したことがない男性)は1,903,068人です。これらの男性は1966年から1970年の間に生まれた人たちですが、次の2005年の国勢調査では35歳から39歳になっています。この年の35~39歳の未婚男性は1,320,943人でした。この5年間の間に1,903,068-1,320,943=582,125人が結婚したと仮定すると、1966~1970年生まれの30~34歳の独身男性が、その後5年間で結婚する確率は582,125÷1,903,068×100=30.6%ということになります。ただし、国勢調査はすべての国民を網羅できている訳ではなく、この計算では死亡者や海外移住者、結婚したくない人や事情により結婚できない人も含まれているので、正確ではありません。あくまでも乱暴に計算した目安です。1966~1970年生まれの人の年齢別結婚確率をまとめると、図1のようになります。

図1. 1966~1970年生まれの人がある年齢の時に、それから5年以内に結婚する確率。総務省統計局の国勢調査のデータを使って計算。この結果はあくまでも目安であり、必ずしも正確ではない。

この結果を見ると、女性は20代までは男性よりも結婚しやすいものの、30代になると男女差はなくなり、35歳を過ぎると男性も女性も結婚する確率が著しく下がることがわかります。男性の方が初婚年齢が高く、また独身率や生涯未婚率も高いので、女性の方が結婚する確率は高い、特に若い時に高いのは理解できます。しかし30代以降に、男性の結婚する確率が女性より上がる訳ではありません。特に35歳以降は、男女共に約7%の人しか結婚していません。この1966~1970年生まれの人たちは、20代の頃がちょうどバブル期で、好景気を享受してきた世代です。基本的に会社は年功序列制で、若い頃にはバブルで正社員として就職できて、そのまま勤めて30代40代には給料も上がっている人たちです。しかし、それでも給料が上がった30代以降の男性の結婚する確率は、女性より高くなっていません。そして35歳を過ぎると、致命的に確率が下がります。要するに、「男女関係なく売れ残って35歳になるともう結婚できない」ということです。「出世して年収が上がれば若くて良い女と結婚できるだろう。」いいえ、無理です。なぜならあなたは年をとり、デブでハゲで不細工なただのおっさんだからです。相手の女性からすれば、「ご飯おごってくれるからデートの相手としては良いけれど、結婚は無理」という存在でしかありません。

玉の輿に乗るには自分が金持ちになるしかない

女性の中には、「とにかく経済力がある男性が良い。少なくとも年収600万、できれば1000万。多ければ多いほど良い」と言う人もいるでしょう。私は結婚について考察した以前のエントリーで、「日本の男性は年収300万円未満では結婚率が極端に下がる」と指摘しました。そしてそれは、日本の女性が男性に経済力を求めていて、稼げない男性との結婚を極端に嫌がるからです。日本では「男性が稼ぐべき」という考えが根強く、女性の経済力についてはあまり注目されません。しかし、今後は日本でも男女平等や女性の社会進出がさらに進むと思われます。その時に経済力と結婚率の関係は、一体どうなるのでしょうか?日本よりも社会の中での男女差が少ないアメリカのデータを見ると、年収と独身率には明確な関係があることがわかります(図2)。

図2. アメリカの年収別独身率。US Census 2005とIntegrated Public Use Microdata Series: Version 5.0のデータより、Single つまり今まで一度も結婚したことがない人の割合を示した。年収は1ドル=100円として計算した。

このデータはすべての人の平均ですが、人種や性別では大きな違いが見られません。白人で女性なら結婚しやすいということはなく、単純に「稼げない人は結婚できない」ということです。よく言えば平等、悪く言えば夢も希望もありません。シンデレラは若くて美しいから王子様に見初められ、妃として迎えられましたが、それは童話の世界だからです。現実の世界では、稼げない女性はエリート男性には相手にされません。そしてその傾向はどんどん強まっています。1968年から2006年までのアメリカの夫婦を調査した論文では、共働きの夫婦の割合は年々増加していて、しかも年収が高い夫の妻も年収が高く、低い夫では妻の年収も低いという傾向があり、そしてその格差は年々広がっていると報告されています (2)。アメリカでは、1970年代は日本と同じように夫が働き、妻は家で家事育児をするスタイルでした。その頃には夫の年収と妻の年収に相関は見られません。どんなに低い年収の女性でも、ハイスペックの男性と結婚するチャンスがありました。しかし、80年代から徐々に女性が社会に進出し始め、90年代にそれが一般的になり、夫も妻も働いて家事育児は折半するスタイルに変化していきました。それと同時に「稼ぎが良い夫には稼ぎが良い妻、低い夫には低い妻」という傾向が現れ始め、そしてそれが年々顕著になっています。つまり、稼げる人は稼げる人としか結婚しない、若くて美しいだけでは玉の輿に乗れないということです。

日本ではまだアメリカほど女性の社会進出が進んでいないので、若さと美貌しか持たない女性がエリート男性と結婚し、専業主婦になる例は多いでしょう。男性も「稼ぐのは俺で家事育児は女房」という古い考えであれば、女性の経済力は気にしません。しかし今後共働き夫婦が主流になり、女性も稼ぐのが当たり前になれば、アメリカのように女性も経済力によって結婚できるかどうかが決まる時代になります。「私は若くて美しくて実際モテる。だから女としての魅力があるし、きっと白馬の王子様が現れるはず!」いいえ、無理です。なぜなら、あなたは学歴もスキルもなく、金も稼げないただのお荷物だからです。エリート男性にとっては、「連れて歩いたり一晩遊ぶには良いけれど、結婚するのはメリットがない女」という存在でしかありません。男性に誘われたりちやほやされたりする、もっと言えば、男性から体を求められることと、結婚相手として選ばれることは、まったく別の事柄です。「誘われるから自分はイイ女なんだ」と勘違いしてはいけません。派遣社員で年収200万円の女性が、年収1000万円のエリートビジネスマンに求婚される可能性は、これからの時代はほとんどなくなるでしょう。

「自分と同じような男女が結婚しやすい」という傾向は、年齢や年収だけではありません。私は前回のエントリーで、「夫婦はDNAが似ている」と報告する論文を紹介しました。このアメリカの夫婦を調査した研究は、結婚する男女はDNAだけではなく教育レベルも同じである傾向があり、しかもそれはDNAの類似性よりも強い傾向であると報告しています (3)。1940年から2003年までのアメリカの夫婦を調査した研究でも、1960年頃までは結婚と教育レベルの違いに関連は見られないが、それ以降は学歴が同じような男女が結婚するようになり、しかもその傾向は年々高くなっていると報告されています (4)。この状況は年収とまったく同じです。結局エリートはエリートとしか結婚しないのです。自分より上の人と結婚して上に上がる人生は、もはや妄想や漫画でしかあり得ません。

男性は優秀な女性を嫌ってはいない

女性の中には、こう反論する人もいるでしょう。「男はプライドが高く、自分より稼ぐ女を嫌い、自分より頭が良い女も嫌う。主導権を握るために自分より下の女を求めるのは、男の方ではないか」と。確かにそういう側面もあります。男と女はややこしいもので、例えばアメリカの大学生カップルに知性を問うテストをさせるという実験では、彼女が自分よりも成績が良い場合、彼氏はそれを自分の失敗と感じて自己評価が下がってしまうことが判明しています (5)。彼氏の方が成績が良い場合は、彼女の自己評価は特に変化しません。また、日米の夫婦の幸福度を比較した研究では、アメリカの夫婦では妻の収入が上がると、夫の幸福度は下がってしまうことが報告されています (6)。どうやら、パートナーの女性が自分よりも優秀であると、男性はプライドが傷ついてしまうようなのです。しかし同時にこの論文は、日本の夫婦の場合、妻の収入が上がっても夫の幸福度には変化が見られなかったとも報告しています。この「日本人男性は、妻が成功して収入が上がっても嫉妬しない」ことを示すデータは他にもあり、世界各国の人たちを対象にしたアンケート調査では、日本人は妻の稼ぎが夫より多くても気にしない民族であると判明しています(図3)。

図3. 「妻が夫より稼ぐのは問題だ」という意見に「同意する」と答えた人の割合。World Values Survey (2010-2014)のV47のデータを用いて作成。途上国や保守的な国家が高い傾向。日本は世界で4番目に低い。

このデータを見ると、男女平等が進んだ先進国ほど、女性の稼ぎの高さを気にしなくなる傾向があることがわかります。日本は言うほど男女平等ではありませんが、収入に関しては女性が上でも問題ないようです。「女の私は稼げなくても構わない、だって男がそれを望んでいるから」は幻想であり、甘えとも言えます。自分より上の男性を求める女性は多いですが、男性は必ずしも自分より下の女性を求めている訳ではありません。

また、「女性が自分より上でも男性は気にしない」という傾向は、時代によって変化することもわかっています。アメリカの1950年から2004年までの夫婦を調査した研究では、1960年代までは妻の学歴が夫よりも高い場合、夫の方が高い夫婦に比べて離婚するリスクが1.5倍程度高かったと判明しています (7)。しかし、70年代からはだんだん下がり始め、90年代以降はむしろ妻の学歴が高い夫婦の方が離婚しにくいことが報告されています。男性にはプライドがあり、「女より上でいたい」という願望は持っているものの、時代が変化して男女平等が進むと次第にその意識は薄れ、気にしなくなります。結果として、男性は学歴や年収が自分と同程度の人と結婚しやすく、下の人をわざわざ選んだりしないということです。よって、女性も「男には自分より上でいて欲しい」という願望は捨て、シンデレラのような妄想は止めるべきです。「自分より下の男は尊敬できないしときめかない。」男性も同じことを思っています。若さと美貌ですべてを覆せるという考えが間違いなのです。

「金と顔の交換」はただのステレオタイプ

エリート男性、例えば医師の男性が結婚する時、世間は男性の医師というステータスと年収、そして相手の女性の年齢や見た目にしか注目しません。そしてこう思うのです。「医者だからあんな良い女と結婚できた」または「若くて美しいからハイスペックの男に選ばれた」と。しかし、実はそうではありません。もっとよく見てみると、医師の男性は若々しく健康的でとてもハンサムだったり、相手の女性も学歴が高く専門職についていて、稼ぎが良かったりします。純粋な「美女と野獣」「金を持っているだけの男とかわいいだけの女」という組み合わせは、例外中の例外、または短期的・打算的な交際だけです。結局は「低レベルな自分にふさわしい相手は低レベルな人だけ」という事実を認めたくないばかりに、ステレオタイプに当てはめて自分を納得させているのです。「女は男の金しか見ていない」「男は精神年齢が幼いから年下の女を選ぶ」というように。ただ現実から逃げているだけです。良い人にめぐり合えないからと他人や社会のせいにせず、まず「自分は大して魅力的な人物ではない」という現実と向き合わなければなりません。残念ながら人生は不平等で残酷で、大逆転は起きないものなのです。結局私が何を言いたいかというと、おっさんの私が結婚できる確率はもう約7%しかないので、お願いですからどなたか結婚して頂けませんか、ということです。


参考文献

1.            McClintock, E. A. (2014) Am Sociol Rev 79, 575-604

2.            Schwartz,C. R. (2010) AJS 115, 1524-1557  

3.            Domingue,B. W., Fletcher, J., Conley, D., and Boardman, J.D. (2014) Proc Natl Acad Sci USA 111, 7996-8000  

4.            Schwartz,C. R., and Mare, R. D. (2005) Demography 42, 621-646    

5.            Ratliff,K. A., and Oishi, S. (2013) J Pers SocPsychol 105, 688-702 

6.            Lee,K. S., and Ono, H. (2008) Soc Sci Res 37, 1216-1234 

7.            Schwartz,C. R., and Han, H. (2014) Am Sociol Rev 79, 605-629

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