工芸家を目指す若者が経験すること⑨ヘラ作り
京都ではヘラは檜で作る。みかん割りだ。
みかん割りというのは木を割るときに上から見ると中心から放射状に割る方法。ちょうどみかんを横に真っ二つに切った時の断面のような見え方。
その割った木を塗師刀で削る。
この刃物もヌシヤと言ったりヌシヤホウチョウと言ったりヌシトウを読んだり色々するが多分、塗師屋包丁が短くなってヌシヤなのかな?
ヘラダチと言ってた人もいたが、ようわからん。
なんとなくはわかるけど。
問題はヘラ作りが上手くいかんこと。
延にとってはそれこそが問題。
あれから何度もヘラ作りに挑戦。
と言ってもヘラも貴重だから、練習は薪の綺麗なのを探す。
マキは松とかもあるが雑木もある。
木によって全然違う。
色々削っていくうちに、刃物が切れなくなっていく。
そのままにしてたら、また大目玉を喰らう。
刃物も研がんで仕事場来てどうする気や?
師の目がそう言ってるように見える。
きれなくなったら研ぐのだが、綺麗に砥げているのか砥げていないのか?それもわからない。
切れるからいいかな?
そう思っていたが、兄のヘラの手直しを見たら、削ったところが何や光っとる。
何じゃ??わしがヘラ削ってもあんな風に光らん。
これは砥石が違うんかな?
きっとそうや!あの砥石が綺麗に切れrための砥石なんや!
わしの使ってる砥石よりもええ石に違いない。
夜になって、皆が2階で休み出した頃、
一階の走り庭の台所横で刃物を研ぐ延。
こっそりと兄の砥石を借りて使ってみた。
なんや?そんなに変わらんな?わしのよりちょっと滑る感じするな。
硬いんかな?兄が研いだ刃物は刃先がぴかっと光っとたっが、
なかなか光らんなー。何やろう。
あかん、今日はここまでにしとこう。綺麗にして返しとかんとバレるし、バレたら怒られそうや。
綺麗に洗って、素知らぬふりして元あった場所にそーっと戻してその日は休んだ。
次の日、夕方仕事が終わると兄が、いつものように刃物を手入れしかけて、1〜2度刃物を砥石に当てると黙って砥石を見つめている。
バレたか?いやでも綺麗にしたし場所も同じ場所に置いといたし・・・。
ドキドキしていると兄が、くるりと振り返って、
延、、これ、使ったんお前やな?
何でバレた!!
誤魔化すか?いや、でも誤魔化したら、それこそ、ここにオレへんようになるかもしれへん。兄には嘘ついたらあかん。
ここは・・・
すんません!!黙って使いました!!うまくヘラ作れへんし、刃物も上手く研げてへんみたいやし、砥石が悪いんやろうか?とかおもたら、気になってしもて・・。
しばらくだまってみていた兄は
あー、そうかー。わかった。でも2度と勝手に使うな。刃物は他人にホイホイ使わせるなって師匠に習ったやろ。砥石も刃物と同じ、相方や。とりあえず研ぎ方あとで基本は教えたる。面も合わせもしらんではまともに刃がつかんわ
面???
延は兄からもっと叱られるのかと思っていたので拍子抜けしたが、同時に教えたると言われて、ワクワクしてきた。
嬉しくなった延に、
2度と使うなよ!ええな。砥石は金貯めて自分で買え。わかったな!。
ピシャリと叱る兄であった。