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アートも、法律とは無関係ではいられない。『アート・ロー入門』

年々拡大を続けるアート市場。それに伴い、美術品の盗難や贋作の売買など、アート(美術品)をめぐる紛争の件数も増加しています。そんな状況をうけ、本書『アート・ロー入門』では、アートの紛争解決のために必要となるあらゆる法律を解説しました。
アート・ローを専門分野にと考えている弁護士の方はもちろん、お仕事でアートを扱うアーティスト、美術館関係者、美術商、アートの購入を検討されている方にもぜひお手元に置いて頂きたい内容となっています。
また、「バットマンの商品化権ライセンス」「ミッキーマウスの寿命」「表現の不自由展」など、実際のアート作品をもとにした事例を多く紹介していますので、美術を仕事にされていない方にも興味を持って頂けるのではないでしょうか。
刊行にあわせ、著者の島田真琴先生に本書の紹介文を寄せて頂きましたので、ぜひご覧ください。

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アートと法律?

法律や裁判は、アート(芸術)の世界から最も縁遠い、無粋な堅物たちが活動する領域と考えている方が多いのではないでしょうか?

たしかに、国会が制定した法律の条文や裁判官が下した判決文を読んで、その中に芸術性や美的価値を見出す人はあまりいないでしょう。でも、実際上、アートは法律と切っても切れない関係にあるのです。

そもそもアートは、芸術家が作品を制作することだけで生まれるわけではありません。芸術家の作品がアートと呼べるのは、それを美的鑑賞の対象として購入したいと望む美術愛好家がいるからです。作品が世間にアートとして認められるためには、美術品を紹介して取引を仲介する美術商、芸術家を評価する美術評論家、作品を展示公開する画廊や美術館が必要です。そして、美術品の売買や仲介、展示公開などの美術関係者の活動は、取引や事業の仕組みを作り、美術品取引の当事者、所有者、芸術家などの権利を保護し、画廊や美術館の存立や活動の根拠を定める法制度の存在を前提としています。それらの法律の支えがあるからこそ、アートがアートとして成り立っているのです。

芸術家もまた、法律と無関係ではいられません。

たとえば、あのレオナルド・ダ・ヴィンチは、その作品「岩窟の聖母」の注文主である教会との間で、委託料に関する裁判事件を起こしています。「岩窟の聖母」はパリのルーヴル美術館とロンドンのナショナル・ギャラリーの2か所で所蔵されていますが、2枚目の「岩窟の聖母」が描かれたのはこの裁判をきっかけとしています。また、「メランコリア」や「野うさぎ」で知られるダ・ヴィンチと同時代のドイツ人画家アルブレヒト・デュラーは、作品を模倣して販売した版画家に対して、史上初の「著作権訴訟」といわれている裁判を提起しました。このように、巨匠といわれる芸術家たちも、法律の助けを借りています。


さて、本書では、アート作品をめぐる多くの裁判事件を紹介していますが、その目的は、現にアートを創作する芸術家、アートの取引、仲介、紹介、展示公開に携わる美術関係者、これを購入又は鑑賞する美術愛好家の方々がそれぞれの活動に関して起こりうる紛争とその解決のために知っておいた方がよい法律を説明することです。

たとえば、美術商から購入した作品が盗品や贋作であることがわかったとき、盗まれた美術品を取り戻したいとき、展覧会のために借り入れた美術品が破損したとき、芸術家の作品が無断でコピーされたとき、所蔵品の維持管理ができなくなったときなどにどうすべきか、一応の解決基準を知るうえで、過去の裁判例が役に立つのです。

法律に興味がない方でも、どのような作家の作品がどのような紛争に巻き込まれたのかという観点から本書を読み進めていけば、気づかないうちにアート・ローを理解していただけるのではないかと思います。アートに関心を持つ多くの方々に楽しんで読んで頂ければ幸いです。

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【主要目次】
00章 アート・ローとは何か
01章 美術品の盗難予防、デューデリジェンス
 CASE STUDY 東京の美術館で見つかったレイノルズの肖像画
02章 盗品・略奪品の取戻し   
 CASE STUDY 消えたモネの小品の取戻請求と出訴期間制限
03章 贋作美術品をめぐる紛争   
 CASE STUDY 2枚目のダ・ヴィンチ作「美しきフェロニエーレ」?
04章 贋作売買と画商の責任
 CASE STUDY 4枚目?のヴァン・ダイク
05章 美術商・画廊の法的義務   
 CASE STUDY ダ・ヴィンチ素描画の売買を仲介した美術商の責任
06章 オークションハウスの活動と責任   
 CASE STUDY エゴン・シーレの真贋とオークションの責任
07章 美術館の機能と責任   
 CASE STUDY フランク・ステラ作品を借り受けた美術館の責任
08章 美術館における特別展   
 CASE STUDY 展覧会出品のためのエゴン・シーレ作品貸出しに伴うリスク
09章 美術の著作権の発生、存続、帰属   
 CASE STUDY 芸術家が制作した遊戯具の著作権
10章 美術館の活動と著作権   
 CASE STUDY バーンズ・コレクション展事件
11章 著作物に関する芸術家の権利   
 CASE STUDY イサム・ノグチ財団と慶應大学(著作者人格権)
12章 現代アートと著作権   
 CASE STUDY ジャクリーヌ・ケネディの写真とウォホール作品(パロディと著作権)
13章 美術品、映画のキャラクターの商品化ビジネス   
 CASE STUDY バットマン・キャラクターの商品化権ライセンス
14章 展覧会、芸術祭と表現の自由   
 CASE STUDY 「表現の不自由展・その後」事件(芸術祭と表現の自由)
15章 国の芸術振興策及び企業の芸術支援活動   
 CASE STUDY 企業経営者の美術コレクションの企業による活用
16章 文化財の保護と活用   
 CASE STUDY 旧同潤会大塚女子アパート解体撤去差止事件(文化財の現状変更に対する市民の権利)
17章 アートに関する紛争と国際訴訟
18章 アートに関する紛争とADR
   
 CASE STUDY ナチス略奪美術品をめぐる紛争の解決手段
column 01 「モナリザ」はなぜ盗まれた?
column 02 どちらが運慶作?
column 03 アートの値段はどのように決まる?
column 04 アーティストへの道
column 05 最後のダ・ヴィンチの売主の取り分
column 06 美術館・博物館の誕生
column 07 美術品貸与の見返り
column 08 ミッキーマウスの寿命
column 09 ロシアの「禁じられたアート展」
column 10 アートとサブカルチャー
column 11 世界遺産・無形文化遺産の選び方
column 12 今世紀最大のアート取引紛争
【著者紹介】
島田 真琴(しまだ まこと)
慶應義塾大学大学院法務研究科教授、弁護士(一橋綜合法律事務所)。
1979年慶應義塾大学法学部卒業。1981年弁護士登録。1986年ロンドン大学ユニバーシティカレッジ法学部大学院修士課程修了(Master of Law)。ノートンローズ法律事務所、長島大野法律事務所勤務等を経て、2004年より現職。2005年から2007年まで新司法試験考査委員。2015年から2016年ロンドンシティ大学ロースクール客員研究員、2018年より同大学名誉客員教授。英国仲裁人協会上級仲裁人(FCIArb)。
専門:国際商取引一般、国際訴訟及び国際仲裁、アート法、イギリス法。
著作に、『イギリス取引法入門』(慶應義塾大学出版会、2014年)、『The Art Law Review』(共著、Business Research Ltd、2021年)、「The Operation of Mitigation under Japanese and English Commercial Law: A Comparative Analysis」 International Trade Law Review Issue 2(共著、2020年)、「Termination of a continuous contract and good faith under Japanese and English law」慶應法学38号(2017年)、「21世紀におけるイギリス契約法の変容とEU離脱」慶應法学36号(2016年)、「信託訴訟の国際裁判管轄」慶應法学28号(2014年)、「イギリスにおける金銭支払を命ずる判決の強制執行」法学研究84巻12 号(2011年)ほか。

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