キャリアを「品詞」で考える
仕事=名詞?
自分の仕事や、これからやりたい仕事について言及するとき、だいたいは「職業名」を言うことが多いと思います。
広報、消防士、ハンドメイド作家…など、これらはいずれも「名詞」です。
ですが、職業やキャリアを考えるときに、「名詞=職業名」だけでは見えないものもあるのではないでしょうか。
かつて「政治は、美しいとか、キラリと光るとか、形容詞でやるのでなく、動詞でやるものだ」と中曽根康弘も言いましたが、より重要性が高いのはまず「動詞」だと思います。
職業や肩書を言われたら分かりやすいですが、「実際に何をやっているか」の子細は見えにくくなるかもしれません。
好きな肩書きを自由に名乗れる世の中になってきた分、肩書きだけ立派で実態が伴っていない人もいたりします。
私自身が編集職に就いていることもあり、「ライターになりたい」「編集ってかっこいいな」と言われることが多いのですが、文筆系の職業に憧れていても、コンスタントに「書く」をしていない人の方が多いのが実情です。
今時、書けるプラットフォームはいくらでもあります。このnoteもそうですし、ブログ・SNSなど、編集部に選ばれなくても、連載を持っていなくても、誰でも無料で書ける場は豊富にあります。
肩書きとして「文筆業」を名乗るほど稼いでいなくても、「書く」という動作を続けることで経験値とチャンスが増えます。どうやったら憧れの肩書を名乗れるかより、まずは一人でできる範囲でいいので「動詞」を実践するのが次のステップに進む近道です。
その職業の中に、色々な動詞がある
文筆業と言う名詞を動詞にするなら「書く」という例を出しましたが、実は「書く」以外にも様々な作業をするはずです。実際、私も編集者としての仕事のうち、文章を書いている「以外の」時間の方が多いです。
おそらく、一番時間を使っているのが「調べる」です。どの情報をピックアップするか、選ぶ前に膨大な下調べをしますし、掲載する情報が合っているか確認する時間もかかります。そして、「取材をする」「ヒアリングをする」時間も多いです。
そして、様々な関係者に依頼をして、進捗を確認して、クオリティコントロールのために適宜指示やお願いをして…という「調整する」にもかなりの時間を使います。
地味なところだと、「持参する」にも時間を取られたりします。昨今、現物の紙ではなくPDFでのやり取りも増えましたが、今でも大きな紙を持って(時にはトランク一杯に詰めて!)、運ぶこともあります。
他の職種でもそうでしょう。例えば、「営業」と言う仕事はどうでしょうか。
「営業くらいしかできないので~」なんて自虐交じりにおっしゃる方もいますが、昨今はひたすら訪問する、ひたすら接待する、という昔のスタイルではなく、さまざまな複合的な知見・スキルが必要とされる職種だと思います。結果は「売る」かもしれませんが、売るまでのプロセスで様々な力を発揮しているはずです。
例えば、ヒアリングをして顕在・潜在ニーズを引き出す力。営業は日々このスキルを鍛えられているので、コーチングの領域で活躍できる方も多いそうです。
提案型の営業をする方は、調べる力や資料作成能力が培われているのではないでしょうか。クライアントを納得させるだけの定量的なデータや根拠を調べ、視覚的もしくは言語化して表現する力は、結果が「売る」以外の職種にも応用できそうです。
一つの職業が、一つの動詞だけで完結することはほぼないはずです。様々な動詞が組み合わさっているはずです。
だからこそ、自分が携わっている職業について、どんな動詞で構成されているのか分解して考えることが、キャリアデザインにおいては重要だと思います。「潰しの効かない職業だから」「自社以外では汎用性が聞かない仕事だなあ」と決めつけず、一番最初に思い浮かぶ動詞以外に、自分がどんなスキルを使って仕事をしているかフラットに考えてみるといいと思います。
その中に、他の職種でも使えるポータブルなスキルが含まれているかもしれません。
また、いずれ挑戦したい憧れの職業が、今の仕事と全く関係なさそうに見えても、それぞれの動詞を因数分解してみたら、意外と共通点があるかもしれません。
複業なら、動詞から考えなくてもOK
こう書くと、「職業を考えるときの品詞は動詞であるべきで、名詞や形容詞で考えるのはよくない」と感じられるかもしれませんが、特に複業においては、どこから考えてもいいと思っています。
確かに、本業の転職で「広報って肩書きがなんとなくカッコいいので」という名詞への憧れや、「楽しくゆったり働きたい」という形容詞・副詞を志望動機の上位として語ったら、心証は悪いと思います。
ただ、自分のペースで複業を開拓したい人にとっては、「憧れ」「心地よさ」を追求してもいいのです。ほかに安定した収入源があるからこそできることです。
むしろ、「動詞」だけで考えると、「好き」かどうかが後回しになるリスクもあります。名詞、形容詞、副詞から考えはじめた方が、より自分にフィットしたキャリアデザインに繋がり、幸福度が上がる可能性があります。
入り口は、名詞、動詞、形容詞・副詞のどこから考え始めてもいい。最初に思いついた品詞をベースに、他の品詞をどう設定するとよいか考えて、最終的に4つとも成立させることが大切です。
パラレルキャリア研究所代表 慶野英里名
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