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webライター界の「資格取得で単価アップ」の危うさ

「資格を取って単価を上げよう」
webライターに向けてこんなアドバイスがツイッター上で飛び交い、FP(ファイナンシャルプランニング技能士)や宅建(宅地建物取引士)などが人気のようです。


 
私はFPの資格を持っていますが、これを活かして原稿を書く気はありません。
理由は単純に、実務経験のない分野について書きたくないから。
そして、「怖い」からです。
 

「それっぽい」記事に価値はない


 
私はFPの実務経験はないものの文章のプロなので、教科書や既存の記事をつなぎ合わせて「それっぽい」記事を書くことは可能です。
でも、やりたくありません。
どう考えても読者のためにならないからです。
 
たとえるなら、ペーパードライバーが運転のハウツーについて書くようなもの。
「赤信号では停止」「エンジンのかけ方」程度の内容しか伝えられないはずです。
一方、ベテランドライバーであれば「ヒヤっとした瞬間から学ぶ事故を防ぐ方法」「縦列駐車のコツ」などのテーマで書くことができます。
 
どちらが読者にとって価値があるかは一目瞭然です。

とはいえ、資格取得そのものを否定する気はまったくありません。
その業界に特化して記事を書いてきた人や勤務してきた人が、改めて体系的に学んで資格を取得したら鬼に金棒です。

私はかつて歯科業界でライターをしていたのですが、理解を深めるために歯科助手の仕事について通信教育で学んだことがあります。

でもまったく未経験の分野で資格だけを取っても、記事を書いて人に情報を伝えるレベルには達しないのではないでしょうか。

自分が実務未経験のFP取得者なので余計にそう思います。実は整理収納アドバイザー2級も持っていますが、お片付けの記事なんて書ける気がこれっぽっちもしません。

実務未経験なら、たとえばFPの資格を活かして生命保険のプロにインタビューをして記事を書くなど、別の活用方法があると思います。

 ちなみに私はwebライター時代、カードローン会社勤務の経験を活かして「目の前で起きた詐欺犯の逮捕劇」「訪問回収に行ったら高枝切りバサミを首にあてられた男性社員の話」など、かなりディープな記事を書いていました。
貸金業務取扱主任者の資格を持っているだけでは書けない、現場経験者ならではの記事だったと自負しています。
 
電車の中での暇つぶしくらいにしかならない、なんの実用性もない記事ですが。
 

本来、記事を公開することは怖いこと


 
いつの間にか、ライティングがお手軽在宅ワークとして確固たる地位を築いてしまいました。
1日何文字書けたとか何万円稼いだとかの報告や、「誰でもできる」を強調したライタースクールの広告を毎日のように目にします。

冒頭で紹介したツイッターのスクリーンショットにも「近道」「取り敢えず」「コスパ」「早期に」など軽々しい言葉が並んでいることからもわかるように、ペペッと書いてサクッと稼ぐのがトレンドのようです。
 
しかし本来、「記事を公開する」とは非常に怖いこと。
 
私は会社員時代、メーカー専属のコピーライターとして自社製品の広告(主に紙)制作を担当していました。
 
いつも上司に言われていたのが、「自分が書いたものを世に出す重みを考えろ」


 
誤情報や誰かを傷つける内容があったら、会社のイメージに関わります。
個人ではとても補填できないレベルの損害が生じるかもしれません。
 
しかも紙だから、印刷したら修正ができない。
絶対に間違いがあってはいけないと、社員一同血眼になって最終チェックをして印刷所に入稿していました。
 
こうした経験をしているので、情報の真偽に確証が持てない記事は書きたくありません。
私の生半可なFPの知識で書いた記事で、読者やメディアの運営者に被害が及ぶのが怖いのです。
 
ライターの仕事は読者ありきです。
観客のいない劇場で踊っても興行として成立しないのと同じで、読者不在の記事作成では商業として成立しません。

 
原稿料を上げる努力は必要ですが、まず考えるべきは「読者にどれだけの価値を提供できるか」。
 
「資格取得で単価アップ」と、読者不在のノウハウが飛び交っている現状に、ライターの端くれとして危機感を覚えています。


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