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左腕につけている時計が重い

時間に追われている。
縛られている。
早く時計を外したい。


そう思いながら日々を過ごしていました。
秒単位で時計ばかり見る自分にうんざり。

生涯大切にしようと悩んで悩んで買った腕時計。
大好きだった時計をつけることが苦痛になる毎日。
早く時計を外したい…。


起業してからの日々は目まぐるしく1分1秒を生き急いでいてた。


営業は10時から24時、休みは月に4回。

オープン準備クローズの片付け、家に帰ってからは急いでお風呂に入って少しでも多く寝て次の日のエネルギーを蓄える。
家に帰って一息つく間もなく次の朝がやってくる。
朝起きて見たメールを日付が変わってからでないと返信ができない。


何やってんだろう私…。


自分の日常が虚しくなり泣きながら帰ったり。

この状況を変えるためにはどうすればいいのか?
その先を考える時間がなかった。


むちゃな生活はどこかでゆがみがくる。

定期的にぶっ倒れ夜間に病院へ行く。
歩くことができず院内を車椅子で移動。

こんな時でも明日の予約までには治さなくちゃ。
「明日は休んでくださいね」と言われても次の日は這ってでも行く。


どう生活していたのか記憶がない。
息していない感じ。
人間らしい生活がしたいと思ってたことは覚えている。

サロンの成長についていくことが必死で体も心も脳内もボロボロ。
それでも使える時間を仕事に費やす。

ネイリストとし入客しながら店内、スタッフのことで問題は山積みなうえ、わからない経営のこと、打ち合わせ、他にもいっぱいいろいろなスケジュールが分単位で入ってくる。
休みたくても休めない。

ネイリストをしながら他のことも同時に進めていく日々にお手上げ状態。
もうネイリストをあがりたい。
ただ、現場を離れられる状況ではない。


いつもいつもいつも、左腕の時計を1日何十回も見ながらの生活。

もう嫌だ。
時間に追われる自分が嫌い。


時計を忘れた日は最悪。
携帯を見る時間がロスタイム。
できることならトイレにも行きたくない。
時間がもったいない。

もっと一つ一つ丁寧に仕事がしたい。
そんな時間はない。
全部の仕事が不完全。
泣きそう。

この数年間は髪の毛が燃えるんじゃないかってくらい脳内はマグマ状態。
毎日イライラが止まらない。
自分の感情をコントロールできなかった。
いっぱい人を傷つけてしまった。
自分じゃない人になったみたい。


皆ごめん。


やらなくちゃいけない事、やりたい事のために必要な時間がどう考えても24時間じゃ足りない。

何もかも空回り、うまくいかない
それでも前に進むしかない。


生涯大切にするはずだった時計が重くて、苦しくて…
嫌になった。


唯一時計を外せる休日だけはとても身軽で解放された気分になった。

いつか、今より少しだけ時間に余裕をもって生活ができるようになりたい。
忙殺される仕事じゃなく自分が納得したスケジュールで時間を扱えるようになりたい。


そうなった時に時計をはずせるんだろうな…。


だけど全くそんな気配は全くない。
サロンの中にいれば終わりがなく問題が次から次へとふってくる。
永遠に無理な気がする。 
そんな日来る?と思いながらいつか時計を外すことを目標に何年か仕事をしていました。



転機が訪れた。私の妊娠。

これを機に出産後は経営に専念することに。
だからこそ妊娠期間中は自分がお店を抜けても大丈夫なようにタイムリミットの日まで、できる限りのことをしておきたくて。
そう思えば思うほど焦る気持ちが大きくなって拍車をかけピリピリ、イライラ。


最後の日にスタッフが投稿してくれたインスタグラムには “ありがとうございました” とか嬉しい言葉の中に ″#たまに鬼こわい #視線がささる″ と。


そう!視線で空気を送りまくっていたし、たまにではなくいつも鬼こわかったと思う!

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無事出産を終え、『時計をしたまま赤ちゃんを抱っこしていると邪魔だし危ないな』と思ったことがきっかけで時計をつけなくなった。


産後すぐに仕事に復帰し、時間の使い方が一気に変化したことで、気がつけば時計をしなくても仕事できてるじゃん!


スタッフ達が頑張ってくれたおかげでお店は以前と変わらず。自分が抜けることが何よりも必要だったことにも気がつきました。
(この場をかりてKさんMさん本当に本当に心からありがとう。)


突然の時間の流れのゆっくりさに戸惑う。

スタッフがこんなにも頑張ってくれているにもかかわらず、私は目の前の仕事をし続けるだけ。


次は私が変わらなければ。
今何かしないとまたあの生活に戻ってしまう。
このチャンスを逃してはいけない!よしっ!時計を売ってそのお金で自分を成長させる何かに使おう!


ネイルで粉まみれの時計だったけど定期的にオーバーホールに出していたし箱も保証書も全部保管していたこともあり査定してもらうと


定価84万。買取金額64万。
さすがロレックス様!!
10年も使用したのに8割戻ってきた!


よし!このお金で何をしよう。

皆がサロンで頑張ってくれているので私も技術的なとこでレベルアップしたいと思いました。
(今振り返ると他にもあるでしょ!とツッコミたい。)


次のネイルの資格を取りに行く。
いや違う…。


そうだ!美容師免許を取りにいこう!


kellyのメイン事業はネイルとまつ毛。
私はネイリストだったのでまつ毛の技術のことはわからないことが今でもほとんど。

ネイリストとアイリストのスタッフでは、どうしても関わり方が違います。

学生・会社経営・子育てをしながら国家試験へ向けての生活をおくる姿を見せ、普段技術面で関われないアイリストとの時間をふやしたいと思いました。

ネイルの資格を勉強するよりもゼロから学ぶ美容師免許の方がスタッフに伝わると思ったこと、現場を離れたからといってあぐらをかくのではなく、私は私で成長していく姿を見せたかった。

ネイルの資格を取りに行く方が何十倍も楽なのはわかっていたけどあえて茨の道へ。


どれだけ不器用なんだろう。
笑える。


学費84万円
ロレックスと同じお値段。


入金手続きをするときにネイルの先生に言われた言葉を思い出した。

当時ネイルの試験に落ちまくっていて、やけくそになっていた時に
「何回試験に落ちもいいと思う。でもね、良くないと思うことは途中で諦めること。最後までやりきってやめたらいい。」

途中で投げ出すことなく一発で合格し卒業する。
そう自分と約束し、時計を売ったお金をもとに入学。



3年間過ごした専門学校では国家試験の大変さだけではなくさまざまなことを学べた。

一番大きかったのは”学校”という社会のあり方。
今の10代がどんな風に教育を受けているのか、また自分の会社に置きかえ考えさせられる場面もたくさんあり座学の授業中は過去、現在、未来についてたくさん考えた。


在学中に非常勤講師の話も決まっていたので、生徒と先生両方からの目線でも学べたので
仮に試験に受からなかったとしても私にとって80万以上の価値がある時間となった。


通信に通ったことで以前よりアイリストのスタッフとの時間も増えました。
自宅で練習してウィッグを持ってサロンへ行きスタッフにチェックしてもらうのが日課。
試験前はたくさんサポートしてもらいスタッフがいなかったら間違いなく合格できてない。

よく見かける美容専門学校の合格率って90%以上が当たり前で入学し練習すれば受かると勘違いしてた。

こんなに大変だとは…。

国家試験の大変さを身をもって知り、アイリスト達はこの難関を乗りこえようやくスタートラインに立ち、まつ毛の技術をゼロから習得しているのだと思うとより尊敬が深まった。


長年のスタッフは全ての仕事が中途半端でいつも時計ばかり見てイライラし毎日近くにいるのに自分たちと向き合わない私に愛想をつかし何度も辞めようと思ったことでしょう。朝から晩までずっとお店にいて全てが誰よりもボロボロな姿は哀れだったと思います。



時計を外して4年。
私の腕に時計はついてない。


自分の判断で毎日のスケジュールを組む。

あの頃と変わらず毎日分単位。
もう少しゆっくり仕事がしたい、たまには早く家に帰りたいとか色々思っていたけど使える時間全てをスタッフにサロンに会社に使いたい。

私の20代はこれでいいの?と悲観的に思ったりした日もあった。
もう一度あの生活に戻ることを考えるとゾッとする、絶対嫌だしもう二度とできない。


なんにもない私が唯一できたことは誰よりもkellyに時間を使うこと。


あの時がむしゃらに時間を使う事しかできなかったけど、それさえもできていなければ今も時計をつけたままの私だったと思う。


時計をつけていても、つけていなくても同じタイムスケジュールだけど…
今はまだしばらく時計をつける予定はありません。

-Written by Keiko Fujinori

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