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浪漫を求めてーー『涼州詞』(新)

春の足音が聞こえてきたかと思うとまた冬に逆戻り・・・そんな繰り返しを重ねながら一歩ずつ春に向かっているのかもしれませんね。

今日は、そんな足踏み状態の季節から少し離れて、シルクロードの浪漫溢れる漢詩をご紹介します。

ご存じの方も多いかと思います。

     涼州詞   Liángzhōu cí    
                     王翰    Wáng hàn

葡萄美酒夜光杯     Pútáo měijiǔ yèguāngbēi

欲飲琵琶馬上催     Yù yǐn pípá mǎshàng cuī

酔臥沙場君莫笑     Zuì wò shā chǎng jūn mò xiào

古来征戦幾人回     Gǔlái zhēngzhàn jǐ rén huí

【書き下し文】

葡萄の美酒 夜光の杯

飲まんと欲すれば 琵琶馬上に催(もよお)す

酔うて沙場に臥すとも 君笑うこと莫(な)かれ

古来 征戦 幾人か回る

【詩の形式】七言絶句    押韻・・・杯・催・回

*涼州・・・ゴビ砂漠に位置する、現在の甘粛省武威。 シルクロードを利用する隊商たちのたまり場の町として知られていた。(*④)

*夜光杯・・・夜でも光を放つという杯。シルクロード伝来のガラス製の物と言われる。(*④)

*琵琶・・・中央アジア伝来の四弦の楽器(*④)

*「催す」は「うながす」とも訓読される。

【桂花私訳】かなり自由な訳を試みました。       

     涼州詞

極上のワイン 輝くビイドログラス 

さあこれから飲むぞと意気込めば 馬上で奏でる琵琶の音色がまるで煽るように聞こえてくる 

たとえこのまま酔い潰れて砂漠に倒れ伏したとしても笑わないでくれ 

古来 戦(いくさ)に出て無事生還を果たした人はいったい何人いるというのか


【作者】王翰(687?~726?)

盛唐の詩人。山西省出身。710年に24歳で進士となるが、酒好きでしたい放題に過ごし、地方官を転々とした。(*④)

「涼州詞」は、「楽府(がふ)(民間歌謡)」のメロディーを示す「楽府題(がふだい)」であり、「涼州」という曲に合わせて作られました。同じ題で、何人もの詩人が詩を作っています。

この『涼州詞』は、これから戦場に向かおうとする兵士を歌った詩ですが、王翰自身は、実際には辺塞(へんさい)に赴いたことは無かったとのことです。

戦場に向かう兵士の切羽詰まった思いと「葡萄の美酒」「夜光杯」「琵琵」・・・というエキゾチックな道具立てが想像をかき立てます。

年若い兵士が故郷を離れ、生きて帰れないかもしれない不安と背中合わせになりながら、やけ気味に葡萄酒をあおるシーンをイメージして現代語訳してみました。

それにしても夜光杯ってどんな物かなぁ・・・と想像を膨らませていたら、なんとAmazonで売り出されていました! ちょっとイメージが違うような。(『涼州詞』の詩句「夜光杯」にちなんで、中国産の玉(ぎょく)の杯を土産物として売り出したという説もあり。*④) 本当はどんな物だったのでしょうか?

ここはもう一度、キラリと輝く杯を勝手にイメージし直して、1300年前のシルクロードへと思いを馳せたいと思います。


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【参考書籍】

①『漢詩一日一首(春)』一海知義著   平凡社ライブラリー

②『漢詩入門』一海知義著     岩波ジュニア新書

③『図説漢詩の世界』山口直樹著   河出書房新社

④『中国古典紀行2 唐詩の旅』所収「旅の名詩一六選」鈴木修次著                       講談社


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