見出し画像

神楽坂景観塾 01

第1回ゲストレクチャラー
福島秀哉 Hideya Fukushima
1981年生まれ。博士(工学)。小野寺康都市設計事務所、(独)土木研究所寒地土木研究所などを経て現職。岩手県大槌町復興計画、山梨県山中湖村の地域デザイン戦略などを通し、地域再生に向けたインフラ・公共空間デザインに従事。専門は景観工学・土木デザイン。主な受賞に土木学会デザイン賞奨励賞など。

 前半は福島先生に『景観工学の専門家という職能』についてレクチャーを頂き、後半は参加者からの質問を募集し議論を重ねました。以下、レクチャー及び議論の内容についてレポートします。

画像1

レクチャー『景観工学の専門家という職能』

福島先生からのレクチャーは大きく、
・景観工学の専門家として求められる職能
・具体的な実践方法

についての2セクションに分かれていました。


−景観工学の専門家として求められる職能

 まず、景観工学とは多様な要素や物相互の関係性を考え、繋いでいくことで新しい価値(=インフラを取り巻く多様な課題の総合的解決と人が暮らす豊かな環境の創出)を生んでいく(関係性を統合する)学問分野と定義されていました。

 景観工学とは関係性の統合だと定義頂きましたが、それに関わる要素が増加していると解説頂きました。他の学問分野の多くが内発的な発展を遂げてきたのに対して、景観工学は外発的なニーズによって広がってきていることが特徴であり、今後はインフラのあり方だけではなく公共政策や地域戦略までを担っていく事になるのではないかとお話頂きました。

 このような変化の中で、インフラと生活空間に関わる将来の切実な課題は地域の縮退ではないかと仰っていました。これまでの拡大成長の変化とは異なり、地域のあり方が大きく変わっていくのではないかと解説頂きました。インフラを根幹に置きながら、そこにある公共のあり方を考え、地域ごとのヴィジョンを持つ必要があるのではないかと考えていらっしゃいました。

 そして、職能として地域を精度高く読み取る眼差しを持ち、地域の固有性を軸にヴィジョンを打ち出す創造性を鍛え、ヴィジョンを実現する公共事業のマネジメント力を磨くことが求められている役割なのではないかと考えているそうです。


−実践方法

 地域を精度高く読み取る眼差しを持つ為の見えない特徴を読み取る方法として、具体的に①歴史的アプローチにより空間特性を読み取る領域論②土地利用変化から地域の地理的特徴を記述する歴史的ランドスケープ・キャラクタライゼーション③空間認識と社会・空間特性の関係性を可視化するサインマップ法の3つを紹介して頂きました。多様なアプローチ方法をお話して下さいました。

 次に、地域の固有性を軸にヴィジョンを打ち出す創造性を鍛える為のヴィジョンを共有する方法として、デザインノートを紹介して頂きました。地域の人の意見を集約して、将来図を共有しながら作成していくものだそうです。今回は、山中湖村での実践の様子について写真と共にご紹介頂きました。

 最後に、ヴィジョンを実現する公共事業のマネジメント力を磨く為の、高次に合理的な公共事業の実践について具体的な事例を基に紹介して頂きました。また、その実践のためには①合理性の“理”のあり方を明らかにし②合理性を妨げる制度上の課題を明確にすることが必要だと仰っていました。


ディスカッション

 ここからは、レクチャーを受け寄せられた質問や疑問を元に議論された内容について記しました。(ディスカッション内容は会場も含めた文章となっています)


−地域を精度高く読み取るために何を見るか

“精度を高めるために最初は何から見ればいいのか”

地域を一度でうまく見ようとしてはいけない。その地域と長く付き合える枠組みをまずは作り、自分の足を使って長く通っていくしかない。

“歴史を見ていくことは大事だと思うが、歴史の有無や長さは異なりそれによって精度も異なるのではないか“

精度高くというのは正確にという意味ではなく、地域の人が「自分たちの地域とはこういうところだ」と認知できれば良い。


−地域の縮退=原点(origin)に近づく、原点とは何か

“原点に近づいていくとは具体的に何を示すのか”

立地的、機能的にコンパクトになればいいということではない。自分たちの地域だと思う主体性が大事であり、それに寄り添った事業のあり方ができないかと思う。地域の人が思っているコアから外れてしまうと主体性は生まれない。原点は地域の人が文化的歴史的にグッと集まっていくイメージ。ここを押すと良くなる、ツボのようなもの。


−見えないものを見る

“空間が変化していて地域の特徴がない場所が何を読み取れるのか”

読み取ることのできる対象が何であるかは分からないが、僅かでも残っているものを見つけなければならないという意識で取り組むしかない。まずは、地域の特徴があるかないかをよく見るべきであるし、あればそれは宝である。また、僅かな場合でも磨いて育てていくこ事が大事である。本当に0である地域はないと思う。地域の人と議論していく中で育っていくこともある。


−研究者と実務者の職能の違い

“景観工学の研究者と実務者の立ち位置の違いは?”

論理的推測に基づいて順問題を扱うのが研究者であり、その順問題を念頭に置きながら逆問題に取り組み、形を決めるのが実務者ではないか。

自分がどちらの立ち位置にいるかは言わないが、どう考えて現実に起こしてフィードバックしていく、ということが実践である。実践で後付けでも構わないから、なんでそうなっているかを考えていこうとしている。デザイナーが良いデザインを考えていく間に、その価値を考えていくことが必要だと思う。


−景観工学と造園の違い

“パブリックスペースデザインにおける景観工学と造園の違いは?”

あまり変わらないと思うが、軸足の違いではないか。景観工学は土木工学に、造園はラン
ドスケープに立脚している。ただ学問的境界に関係なく議論していくことが良いと思う。


−教育者として

“今後のニーズに対応できる人材を育てる上で留意していることは?”

現場で発言する際には自己肯定感が高くある必要がある。だから、まずは自信を持って欲
しいと思う。コンペに勝つことや、査読を通ること等、対外的に認められた経験によって自信を持つ、そういったきっかけを持って欲しいと思う。研究よりも実践の方が面白いと思うので、実践に近いところで自信や楽しさ、責任感を持って欲しい。


−土木景観の専門性

“領域とは?”

今回話した領域は景観工学の人間全員に共通する話ではない。景観はなにをするのか、と
なった時に創造的に関係を作っていきたい。クリエイトしていく意思を持っていなければ他分野に太刀打ちできなくなってしまうと思う。土木としては、実学として問題解決に取り組んでいく姿勢があるのではないか。

“景観工学の領域が広がり様々な専門性が入ってくるからこそ、どこに立脚して取り組むか
を鮮明にするべきなのではないか”

公共政策は首長の仕事で、そこに呼ばれるためには土木、景観工学における専門性をより考えなくてはいけない。公共事業にリテラシーを持っているのは土木の得意なところで、それがアドバンテージになっている。まず土木に立脚し、環境と人との関係性を見出して、公共事業を扱えるというスタンスでいかなければならないのではないか。

コミュニティがどう環境と関係しているか、という事は実務の中に取り込んでいくことは難しいが個人的に軸足として持っていきたいと考えている。専門性として、立脚する学問は歴史等様々あるのではないかと思う。


-----------------------------------------------------------------------------


 第1回神楽坂景観塾には学生、社会人問わず多くの方にご参加頂き、活発な議論が行えたのではないでしょうか。福島先生からは景観工学の専門家の職能として求められている役割と、それに基づいて実践されている事をお話して頂きました。研究から実践への取り組みについて、大変貴重なお話を伺えました。ありがとうございました。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?