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レスバ・論争と著作権① スクショ引用

2021年12月、著作物の引用に関連する判決が相次ぎました。
今回は、東京地方裁判所令和3年12月10日判決(同年(ワ)第15819号)を紹介します。他人のツイートのスクリーンショット画像を、自己のツイートに添付する行為の適法性が争われました。

判決の内容は、裁判所ウェブサイトに公開されています。
興味ある方は、ぜひ全文をお読み下さい。

事案概要

発信者情報開示訴訟という形式をとっています。
そのため、実際にスクショ画像を投稿した匿名ユーザー2名(発信者)ではなく、プロバイダのNTTドコモが被告になっています。

原告は、Twitterで①~④の各ツイートをしました。
ユーザーAは、短文と共に、原告ツイート①のスクショ画像を添付したツイートをしました。
ユーザーBは、原告ツイート②~④のスクショ画像を、合計3件のツイート内で添付しました(どのツイートでどの画像を引用したかは割愛)。
なお、判決の時点で、原告のツイートはいずれも削除されていました。

原告は、Aのツイートと、Bのツイート3件は、原告ツイート①~④の著作権を侵害したと主張しました。
被告は、原告のツイートは著作物ではない、著作物であったとしてもA及びBの投稿は「引用」(著作権法32条1項)であり適法である、などと反論しました。

判決の概要

東京地裁(中島基至裁判長)は、原告の請求を認め、ユーザーA及びBの発信者情報開示を被告に命じました。

まず、判決は、原告ツイート①~④が、いずれも著作物に該当すると認めました。この点は後で少し触れます。
つづいて判決は、「引用」の成否について、ユーザーA及びBのスクショ画像添付は、著作権法上の引用にはあたらないと判断しました。

証拠(甲10)及び弁論の全趣旨によれば,ツイッターの規約は,ツイッター上のコンテンツの複製,修正,これに基づく二次的著作物の作成,配信等をする場合には,ツイッターが提供するインターフェース及び手順を使用しなければならない旨規定し,ツイッターは,他人のコンテンツを引用する手順として,引用ツイートという方法を設けていることが認められる。そうすると,本件各投稿は,上記規約の規定にかかわらず,上記手順を使用することなく,スクリーンショットの方法で原告各投稿を複製した上ツイッターに掲載していることが認められる。そのため,本件各投稿は,上記規約に違反するものと認めるのが相当であり,本件各投稿において原告各投稿を引用して利用することが,公正な慣行に合致するものと認めることはできない
また,前記認定事実によれば,本件各投稿と,これに占める原告各投稿の
スクリーンショット画像を比較すると,スクリーンショット画像が量的にも
質的にも,明らかに主たる部分を構成するといえるから,これを引用するこ
とが,引用の目的上正当な範囲内であると認めることもできない

(中略)
これに対し,被告は,引用に該当する可能性がある旨指摘するものの,そ
の主張の内容は具体的には明らかではなく,本件各投稿の目的との関係でス
クリーンショット画像を掲載しなければならないような事情その他の上記
要件に該当する事実を具体的に主張立証するものではない

「引用」の成立要件

「引用」の成否の論点について、まず成立要件に触れておきます。

著作権法32条1項
公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

「引用」の要件は諸説ありますが、条文の文言に従うと、次のとおり整理できます(本判決も同様の整理と理解できます)。
⑴ 引用元の著作物が公表されていること
⑵ 引用としての利用であること
⑶ 公正な慣行に合致すること
⑷ 引用の目的上正当な範囲内で行われること

今回の判決は、ユーザーAとBの各ツイートが、上記⑶と⑷の要件を満たしていないので、引用は成立しないと判断しました。

スクショ引用と「公正な慣行」

最も議論の対象となっているのが、他人のツイートのスクショ画像を貼るという手法が、公正な慣行に合致するかどうかということです。
東京地裁令和3年12月10日判決は、Twitterの利用規約上、ツイートの引用方法としては「引用リツイート」が規定されており、スクショ引用は利用規約に反する方法であるから、公正な慣行に合致しないとしています。
この論理だと、「スクショ引用の手法は全て違法」という理解もできます。

しかし、SNS上での論争(レスバ)において、論争相手のツイートをスクショし、その画像を自己のツイートに添付する手法は広く用いられています。スクショ引用が全面的に違法と言われると、レスバの実態とかけ離れているように思われます。

少し調べたところ、同じくスクショ引用が問題となった東京地裁令和2年2月12日判決(同元年(ワ)第22576号、佐藤達文裁判長)も、結論として「公正な慣行に合致」を否定していますが、Twitter社の規約にはとくに触れていません。あくまで被告の主張立証が足りないということになっています。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=89620

ですので、今回の令和3年12月10日判決について、あまり射程を広く捉えて騒ぐ必要はないでしょう。

そのことを前提として「公正な慣行」について考えてみます。
公正な慣行は、業界や著作物ごとに異なります。
中山信弘名誉教授は、次のとおり、引用の要件を厳格に解釈すべきではないと述べています。

中山信弘『著作権法 第3版』399頁(有斐閣、2020年)
学術論文に関しては比較的引用方法が確立しているが、著作物のジャンルによっては慣行が明らかでない場合も多い。実例が乏しい分野については公正な慣行が存在しないという理由で引用を違法とすべきではなく、慣行がなければ条理で判断すべきであろう。(中略)
フェアユース規定がないわが国においては、引用の規定を柔軟に解釈することにより、妥当な結論を導くことができる場合もあろう。

では、他人のツイートを自分のツイートで引用する方法にはどのような方法があるのか。
簡単に言うと、①引用リツイート、②元のツイートを文字で引用、③元のツイートをスクショして、その画像を自分の投稿に添付して投稿という方法になります。
リツイートは、元ツイートへのリンクの設定行為なので、厳密な意味での「引用」ではないかもしれませんが、ここでは捨象します。

各方法について、下記の解説が参考になりますので、ここで紹介します。

弁護士法人モノリス法律事務所
「Twitterで他のユーザーのツイートをスクリーンショット撮影して引用するのは違法?」
(初版)2021年12月30日、(改訂)2022年1月12日、2022年1月23日閲覧
https://monolith-law.jp/reputation/screenshot-quote-on-twitter

Twitterで「引用」を行いながら投稿を行う場合、実際問題として、下記の3種類の方法が一般的でした。
1.公式機能の「引用ツイート」で、相手のツイートを引用しながら投稿を行う
2.相手のツイートの一部文言をコピペし、手動で引用しながら投稿を行う
3.相手のツイートをスクリーンショットで撮影し、この画像を添付する形で引用しながら投稿を行う

そしてこのうち3番目、スクリーンショットを用いる方法は、
・引用元である相手のツイートが削除されても、「そのようなツイートが存在したこと」と共に引用元ツイートを表示できる(1番目の方法との違い)
・引用元となった相手に通知が飛ばないため、「自身のツイートが引用され言及されている」と、相手方に気付かれずに行うことができる(1番目の方法との違い)
・相手のツイートの全体、場合によっては複数画像を用いることで、複数のツイートの全体を引用することが出来る(2番目の方法との違い)
といった特性があるため、批判的な形での引用・言及などにも用いられていたものと言えるでしょう。

たしかに、論争の当事者にとっては、相手の主張の矛盾や問題点を指摘するため、相手の過去ツイート自体を提示したいことも多いはずです。
しかし、既に当該ツイートが削除されている場合、引用リツイートの手法は使えません。引用者や閲覧者が、被引用者から「ブロック」されている場合もうまく機能しません。
他方、文字で引用する方法は、字数の制約があります。
そうすると、基本的には、削除されたツイートのスクリーンショット画像を添付するしか引用の方法がありません。
引用しようとするツイートが複数ある場合は、なおさらです。
著作権法上、公表された著作物であれば、その後ウェブから削除されても引用は可能のはずですから、「削除済みのツイートは引用リツイートができないので、引用は許さない。」という結論は不合理でしょう(中山名誉教授の言葉を借りれば「条理」で判断すべきである)。

スクショ引用には、被引用ツイートのURLは通常表示されていないという問題点はあり、本件の原告も指摘しています。
しかし、出所の明示(著作権法48条)は「引用」の要件でないとされていることからしても、ただちに引用を否定する事情にはあたらないと思います。

なお、投稿時に被引用リツイートが残っていても、その後削除されることはいくらでもあります。
簡単に削除できるというのがウェブ・SNSの特性でもあるわけです。
これに対し、スクショ引用の手法は、被引用ツイートが事後的に削除されてしまうことで、ツイートの意味が失われることを防ぐ効果があります。
そうすると、スクショ引用の手法は、被引用リツイートが投稿時には削除されておらず、引用リツイートが可能な場合においても、正当化する余地はあると思います。

スクショ引用と「正当な範囲内」

「公正な慣行に合致」していても、引用は、目的に照らして正当な範囲内で行う必要があります。
今回の東京地裁判決は、引用者の文章よりも、原告のツイートのスクリーンショット画像(に記載された文章)の方が、量的にも質的にも主たる部分を構成しているから、正当な範囲内の引用ではないとしました。
引用に関する裁判例ではこの要件を満たさないとされるケースも多いので、スクショ引用の問題でも、「正当な範囲内」の要件は重要です。

さて、正当な範囲内であるかどうかは、引用者と被引用者それぞれのツイートの質・量だけでなく、引用の目的・方法・態様、利用される著作物の種類・性質、著作権者に及ぼす影響・効果など、他の要素も踏まえて総合考慮が必要であると思われます(知財高判平成22年10月13日判時2092号135頁、絵画鑑定書事件)。

Twitterの場合、本文は140字以内で表現しなければなりません。
一方、画像は最大4枚添付して良いことになっています。
画像を利用することで、文字数の制約を補い、分かりやすい・情報量の豊富なツイートになっているケースも非常に多いかと思います。
140字以内で収まらない文章を、1枚の画像にして添付するツイートもよくみられます。
とくに論争事例では、論争相手の主張の変遷を明らかにするために、論争相手の過去ツイートを複数枚並べて対比するという手法がよく取られます。
この方法は、閲覧者にとっては分かりやすく、有益性は否定できないと思います。

試論ながら、(スクショ引用された)被引用者のツイートの質・量が、引用者のツイートの質・量を凌駕している場合であっても、以下の条件を満たすときは、「正当な範囲内」の利用に留まると考えています。
(a) 被引用者の主張の問題点を指摘するなど正当な引用目的があること
(b) 被引用ツイートと引用目的との間に関連性があること
(c) スクショ画像の選別や並べ方、引用者のコメントによって、引用目的が効果的に達成されていること
(d) スクショ画像の拡散によって、被引用者の著作物に関する経済的利益が害されるという事情がないこと

引用以外の争い方は?著作物性、権利濫用…

本件では「引用」が話題となりましたが、論争相手の書面などを引用・転載した紛争においては、他の論点が争われることも多いです。

本件でも、被告は、原告のツイート①~④の著作物性を争っています。
しかし、裁判所は、原告の各ツイートは「言語の著作物」に該当すると認定しました。ここでは、ツイート②への言及箇所を引用します。

原告投稿2は,140文字以内という文字数制限の中,意見が合わない他のユーザーに対して,短い文の連続によりその意見を明確に修正した上,高圧的な表現で同人を罵倒するものであり,その構成には作者である原告の工夫が見られ,また,表現内容においても作者である原告の個性が現れているということができる。

一方において(法的な請求等を記載した)「通知書」について、140字を大幅に超えていても、著作物性が否定された事例もあります。
文章の量や内容だけでなく、それが記述される「場」の性質や目的も、著作物性の判断とは切り離せないように思います。

別の論点もあります。
後日紹介予定の知財高裁令和3年12月22日判決(同年(ネ)第10046号、東海林保裁判長)は、著作物性は否定できず、また、非公表の著作物であったため著作権法上「引用」はできない事案でした。
しかし、裁判所は、原告の請求は権利濫用にあたるとして、原告の請求を棄却しました。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=90834

まとめ

東京地裁令和3年12月10日判決を題材に、Twitter上のツイートを、論争相手がスクショ引用する場合の問題点を概観しました。

裁判所の立場は、スクショ引用に厳しいように見えます。
しかし、著作物の「引用」、著作物性や権利濫用といった論点において、レスバの実態に応じた解釈を行う余地は残されていると思います。

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