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つい開けたくなる箱のなかみ

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 2022年 ある地方の県議会が紛糾していた。

 多くの富裕層が支持する与党と、豊かではない層からの支持を集める野党との人数が拮抗し、なにごとについても侃侃諤諤と意見をぶつけあっていたのだ。

 そこで業を煮やしたある議員がこんな提案をした。

「県民が不景気に苦しんでいるなか、多額の報酬をもらうことはしのびない。議員報酬の思いきった削減をしようではないか」

 この言葉に県民は拍手喝采をおくり、議会の空気は一変する。この提案に反対することは、すなわち翌年の選挙での落選を意味したから、議員たちはこぞって賛成に回った。ひさしぶりの満場一致で可決した。

 議員報酬は月額5万円となった。

 県民は満足し、これこそ公の利益のために奉仕する議員にふさわしいと、自分の選んだ代表たちの清潔さに感心し、声援を送った。


 翌年の選挙。

 立候補者の顔ぶれが大きくかわっていた。

 ポスターの笑顔は、親の代からの世襲議員、不動産収入のある地主、印税収入のある作家、寄付で生活する宗教家、個人投資家、そして年金受給者のものばかり。

 月額5万円の議員報酬で生活できる者は、じゅうぶんな不労所得がある者に限られるからだ。

「さてさて、県議選ご苦労さんだったね」
「おそれいります。選挙が無事におわりまして。先生のおかげです」
「これで県議会の多数は、我が与党が占めたことになるな」
「貧困層の代表はほとんどいなくなりました。これまでのように長々と議論を重ねる必要がなくなり、議会運営はラクになります」
「キミが議員報酬を下げてくれたおかげだよ。あれは一世一代の名演説だった」
「いえそれは。先生のお力添えがあってのことですから」

 新たに当選した人々の多くは、自分たちも富裕層であり、支持基盤も富裕層であった。自分たちが不利になるような提案はしりぞけ、支持者たちが満足するような予算の使い方を考えた。

 彼らは彼らの理想のために、誠心誠意、働いたのである。

 慎ましい生活をしている人たちの声が議会に届くことは、もうなかった。

おわり


執筆後に、現実の日本はどうなっているのか気になったので調べてみました。


天賦の才を看ることができる神の遣いのお話です。超短編。


電子書籍の表紙制作費などに充てさせていただきます(・∀・)