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シネマ・コンプレックス

 林立するモニター群と、雑多な配線と、とりあえずで置いたら定位置になってしまったであろう生活用品と、それらの間を埋めるように堆積したホコリ。あたしは今そんな部屋に立っている。なんか懐かしいと思ったら、そうそう、小学二年生のときに友達だった、中村ん家の匂いに似ている。


「ボクが選び、そして選ばれたキミはここへ来た」
 マッドサイエンティスト検定があったら不合格になるくらい爽やかなルックスのくせに、笑い方だけは甲高くてそれらしい。こいつがこの部屋の主だ。
「いまどき招待状を郵送とか、古くないっすか?」
「説得力ないよ。ここに来たんだから」
 まぁ、そうだ。確かにその文面に惹かれてここに来た。くどくど書いてあったが、要約すると「映画のなかに入る技術がある」ってことだ。
「質問いいっすか? なんであたしなんすか?」
「アルジャーノンが決めた」
「誰?」
「そこのネズミだよ」
 なるほど部屋の隅にケージがある。姿は見えないが。
「次の質問いいっすか? いままで映画に入った人はいるんすか?」
「いるよ」
 自称マッドサイエンティストは、モニターをあたしの方に向けた。何人かの顔写真が映っている。
「この人の希望は『風と共に去りぬ』に入ること。いまもそこにいる」
「いまも?」
「ああ。運が悪かったね。奴隷にされてしまった。そのうえ、南軍に徴兵されて、北軍と戦い続けているよ」
「おばあさんなのに?」
「映画に入ってしまえばあんまり関係ない。ちなみにこっちの彼は『スター・ウォーズ』に入ったんだけど、結構な序盤で、名も無いストームトルーパーに撃ち殺されているよ。いまも」
「いまも?」
「ああ、再生する都度、生き返るからね。何回でも死ぬ。痛いだろうなぁ。レーザーで焼かれるのは」
 脇の汗が、冷たい。
「で、どうする? キミは」
 あたしは、ふたつの握りこぶしに力を込めた。
「……やる!」
「いいね。……では、どの映画がお好みで?」

   続く


電子書籍の表紙制作費などに充てさせていただきます(・∀・)