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19-20ラ・リーガ アスレティック・ビルバオ対レアル・マドリード レビュー(2020/07/05)

こちら前節のレビューです。合わせてお読み頂けると嬉しいです!

それでは分析していきます。



プレビュー

リーガ・エスパニョーラ第34節アスレティック・ビルバオ対レアル・マドリード、敵地サン・マメスでの一戦。ここでは過去2シーズン勝点を落としており、毎度難しい戦いを強いられるスタジアムだ。ビルバオは今シーズン国王杯決勝に進出。リーガでも現時点で8位とまずまずの位置につけており、EL出場権獲得に向けて是が非でも勝点が欲しいところ。大エースであったレジェンド、アリツ・アドゥリスが引退したものの、MFながら高い得点力を誇るラウール・ガルシアが再開後6試合4ゴールで今季キャリアハイの13得点を記録。チームとしても6試合3勝2分1敗(1敗は対バルセロナ)と好調で、マドリーとしてはここで勝利できれば優勝不可避。ヘタフェ戦から中2日と満身創痍だが、交代を上手く使いながら効率よく試合を進めていくことが期待される。

ビルバオは伝統的な4-2-3-1を基本フォーメーションとする攻守にアグレッシブなサッカーを展開。とりわけ今シーズンはブレイク中のGKウナイ・シモンを中心に堅守を誇っており、リーガでは失点数はレアル・マドリード、アトレティコ・マドリードに次ぐ3位の少なさ。得点力不足が懸念されるマドリーがビルバオの堅守をこじ開けられるかに注目が集まる。

スタメン

VSビルバオ画像①

ビルバオは前節2-0で勝利したバレンシア戦と同じ11人を選択。前線の配置にはいくつかのパターンが見られるが、この試合では1トップにスピードスターであるイニャキ・ウィリアムズを置き、トップ下の位置には空中線に強いラウール・ガルシア(ほとんど2トップだった)。またキャプテンの技巧派MFムニアインが右サイドに入る。

一方のレアル・マドリードはアザール、ヴァラン、ハメスが招集外。ヴァランの代わりにミリトンが入りLSBはローテーションでマルセロ、前節後半から投入されて良い働きを見せたロドリゴ、アセンシオがそのまま両翼を務める4-3-3の形。中盤ではクロースを休ませ、バルベルデ、モドリッチがIHに。控えDFはメンディのみ。ナチョはそろそろ戻れるか。


前半〜ビルバオの意図〜

今回はまずビルバオが明確な意図を持っていた攻撃戦術について書いていこう。試合によっては激しいハイプレスをかけることあるビルバオだが、この試合ではブロック守備を選択。守備時は4-4-2の形で、前二人(ラウール、イニャキ)のプレスバックは弱く、基本的には前線に残す。この二人はカウンター時に前線で基準点となれる選手であるというのがまず大きな理由で、それに加えてとりわけブロック守備を敷かれた時マドリーは崩しの局面でマルセロが非常に高い位置をとるから、彼の裏にある広大なスペースをとてつもないスピードを誇るイニャキに突かせようという狙いがあった。ボールを奪うと同時にイニャキは右サイドに開いて裏抜けを狙う。19分にはラモスが対応を間違えて裏をとられ独走を許すも、カバーに入ったミリトンが素晴らしいカットを見せてピンチを凌ぐ。22分にもこのスペースでボールを受けたイニャキにシュートを打たれる。

19分のシーン。

イニャキが中央にいるときは、機動力のあるトップ下タイプのRSHムニアインも中央で前の二人と近い位置でプレー。これに合わせてマルセロも絞る必要があるので、RSBカパの攻め上がりを促すことができ、マドリーを押し込んで深い位置をとったらそのままクロス、もしくはHSあたりから(ダイレクトの)アーリークロスを上げる。この時空中戦の強いラウールガルシアは必ずファーから飛び込む形をとっており、上背のないカルバハルの弱点を突いてきた。これは対マドリーで割と多くのチームがしてくるやり方で、例えば2017-18シーズンのCL準々決勝2nd.legホームでのユベントス戦ではマンジュキッチにボコボコにされている。ビルバオは左サイドからの攻撃はアーリークロスが多かったが、ニアの選手に当てることも多くそこまで脅威を感じなかった印象。

15分のシーン。

とはいえこの試合ではヴァランの代役として入ったミリトンがそのフィジカルを遺憾無く発揮。控えCBとしてやや頼りない印象を与えていた同選手だが、ラモス、カゼミーロと守備の中心として堅固な守備を見せ得点を与えない。


前半〜サイドの攻防〜

マドリーはこの試合で両WG(ロドリゴ、アセンシオ)を利き足サイドに配置。その二人が他のWGと異なるのは、中央寄りのポジションでもワイドのポジションでも柔軟にプレー可能で、かつゴール前のスペースを見つけてクロスに合わせる能力が高いところだ。上で述べたようにビルバオは前二人があまり守備に参加しないので、脇のスペースを使ってサイドから前進し、サイドでSB(カルバハル、マルセロ)、WG(ロドリゴ、アセンシオ)、IH(バルベルデ、モドリッチ)、CF(ベンゼマ)の4人のうち3人が常にトライアングルを形成することを意識。この時必ず一人が開いて幅を取り、一人が4-4-2のディフェンス時の弱点であるライン間に入ることを徹底して、流動的にポジションを入れ替えながらコンビネーションでサイドを崩し、深い位置から、特にもう一つの弱点であるチャンネルに侵入してクロスを上げ、逆サイドで人数をかけて合わせることを狙っていた。

27分のシーンは惜しくもラインを割りチャンスとならなかったが、完全に崩しておそらくマドリーが最も狙っていた形だったと思うので紹介する。

マルセロがをとり中央でアセンシオとライン間に入ったベンゼマがパス交換。その後アセンシオが外を回りマルセロがバルベルデにボールを預けてライン間に侵入。バルベルデが中央で相手を引きつけてサイドのアセンシオに渡すと、マルセロがチャンネルランからスルーパスを受けてクロスを上げた。この時ベンゼマが中央で怪我のジェライに代わって入ったCBヌニェスをピン留めしており、ビルバオはムニアインかRVoウナイ・ロペスのどちらかがカバーすべきだった。

しかし、マドリーは疲労もあってかスローテンポのパス回しに終始。モドリッチが上手く試合をコントロールしていたものの、攻撃に緩急がなく、崩し切る前にクロスを上げるシーンも多かった。実際アセンシオのクロスが火を噴き、21分、45分とそれぞれロドリゴ、ベンゼマのヘディングに繋がってチャンスは生まれたものの、得点を奪えずにスコアレスで折り返す。


後半〜ビルバオの修正(?)〜

後半に入り両チームの配置を見てみると、イニャキが前半とは違い左サイドに流れることが多くなる。前半のプレーエリアはほとんど右で、マルセロ、ラモスの背後を狙い続け実際にシュートまで持ち込んだが、この変更は正直意図が掴めなかった。イニャキは後半シュートを一本も打つことなく78分にベンチに退いている。

これはイニャキの前後半のボールタッチエリア(ビルバオの攻撃方向は→)。後半(2枚目)は左サイドでしかボールに触ってないことがわかる。(データ提供元:https://www.whoscored.com/)

VSビルバオ画像②
VSビルバオ画像③

怖さを見せたのは53分のカウンターで右サイドを駆け上がったラウールのクロスに飛び込んだぐらいか。しかしここはクルトワの冷静な飛び出しで防ぐ。

こちらはラウールのボールタッチエリア。見比べるとわかるがイニャキと入れ替わるようにして後半は右サイドでプレーすることが多かった。しかし彼はフル出場したものの後半のタッチ数が明らかに減少している。

VSビルバオ画像④
VSビルバオ画像⑤


相手の謎采配とマドリーの集中した守備によって危険なシーンはほとんど作られない。とはいえ前半に引き続き相手陣地でプレー速度をなかなか上げられないマドリーはビルバオのブロックの前で攻めあぐねる時間帯が続く。右サイドでロドリゴが前半以上に幅を意識し、カルバハルやバルベルデがインナーラップから斜めに飛び出す形で何度か右サイドを突破するが(例えば59分のシーン)、シュートまでは行けず。ややオープンな展開となり段々と放り込みだけの雑な攻撃になっていく。

このまま放り込みに移行するなら、中盤の枚数を減らしてヨビッチorマリアーノを入れるべきだと考えていたが、ジダンが声をかけたのはルーカス・バスケスヴィニシウス。この二人はもちろんそれぞれに良さがあるもののシュートが得意な選手ではなく、またワイドな位置でプレーするためゴール前に人数を確保できなくなる恐れがあり、ジダンは何を考えているのかわからなかったが、なんと交代直前にマルセロがPK獲得ラモスがこれをきっちりと決めて(連続22回成功)先制し、1-0の状態で二人を送り出すこととなった。こうなってくると両者とも守備意識が高く特にヴィニシウスは一人カウンターができるので良い采配だろう。得点を予知していたかのようなジダン恐るべし(?)

一方のビルバオは63分にLSHコルドバを下げてデ・マルコスを投入。彼が右に入り、ムニアインが左に移動ムニアインは前半同様中央寄りでボールに積極的に絡んでLSBユーリの攻め上がりを促し、左サイドを活性化させる。ビルバオの攻撃が左中心となり、ムニアインに依存しているという印象を受けた。

先制すればとことん強い今季のマドリー。相手のクロスをことごとくはね返し、終盤にはクロースを休日出勤させて試合を終わらせた。アディショナルタイムにはヨビッチも久々の出場。

終始お互いがなかなかチャンスを作れない塩試合となったが、疲労度を考えればある程度は仕方ないと言える。むしろこういう試合でも落ち着いてプレーしていれば勝てるだろうというマドリーの謎の余裕を感じた。得点力不足は引き続き懸念材料だが、過密日程の中最大の難敵に勝利しリーガ制覇に大きく近づいたと言えそうだ。


試合結果

レアル・マドリード 1-0 アスレティック・ビルバオ
セルヒオ・ラモス(73分)


出場選手

クルトワ:イニャキにシュートを外させる。彼がいるとゴールが小さく見えるというのはあながち間違いではないだろう。
カルバハル:モドリッチを傷つけたムニアインにブチ切れてボールを蹴り飛ばす。怪我しないで良かった。次節出場停止でやっと休ませられる。
ミリトン:マドリーのCBに必要不可欠なヴァラン並のスピードとラモス並のカバーリングを見せてくれた。
ラモス:イニャキのスピードにやや苦戦も、クロス対応は完璧。今季リーガ二桁得点に乗せるPKを沈める。次節出場停止。
マルセロ:モドリッチ、アセンシオとイチャつきながら左サイドの攻撃を作り後半にはPK獲得。ラストプレーでデ・マルコスに首絞めを受けるも真顔で対応。
カゼミーロ:右サイドで敵と味方を見間違えたのかと疑うようなパスミスもありやや疲れが出てるか。縦パスの精度は日に日に向上している気がする。
バルベルデ:ボールプレーにまだ改善の余地がある。組み立てよりチャンネルにゴリゴリ飛び出して行くプレーをもっと見たい。
モドリッチ:アディショナルタイムに相手の心をへし折る股抜きでムニアインをブチ切れさせ、カルバハルに有給取得の機会を提供。クロースがいない分彼が試合をコントロール。個人的にMOM。
ロドリゴ:後半はより一層幅を取り右サイドの攻撃がやや活性化。だが得点力を生かすには本当はもっとゴールに近い位置でプレーさせたい。
ベンゼマ:チャンスを決めきれなかったが、随所で極上のトラップやポストプレーを披露。
アセンシオ:とりわけ前半は彼の左足からチャンスが生まれる。ただ理不尽ミドルを持っているので右サイドに置いた方が怖さは出ると思う。
クロース:試合を締める役割を全う。斜めのランニングでゴール前に飛び出すシーンも。
バスケス:1-0で投入なら良さが出るが、右サイドがバルベルデとバスケスだと脳筋プレーになりがち。次節RSBあるか。
ヨビッチ:おかえり。フィジカルえぐい。
ヴィニシウス:一人カウンターでチャンスを作るも、簡単に倒れてしまうところがもったいない。
ジダン:PK獲得の強運を発揮しリーガ制覇に向けて会心の勝利。カルバハル、ラモスが出場停止でヴァラン、ナチョが怪我なので次節アラベス戦のDF陣の構成を間違えると大変なことになりそう。少し時間が空くので慎重に見定めてもらいたい。


最後に

残り4試合残っていますが、大学のテスト期間に入ってしまうため今季のリーガのレビューはこれにて終了します。

この初めてのレビューの冒頭で少し書かせて頂きましたが、自分は現在大学のサッカー部の分析スタッフとして活動を始めたところで、自己満ではありますがこのように意見を発信していくことが自身の成長にも繋がると考えています。これを機に色々な方のレビューや分析ブログ等に目を通すようになりました。

なのでこれからも何かしらの形で試合分析にとどまらず情報を発信できたらなと思っております。いつもレビューを読んでRTやいいねをしてくれた方、本当にありがとうございました。テストが終わった月末あたりにリーガタイトルを手にした今季のマドリーを振り返る記事なんかを書けたら最高ですね。


最後までお読みいただきありがとうございました!

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