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運でも奇跡でもない。そこにあったのは紛れもなくレアル・マドリーであった――ここまでの歩みとCL決勝を分析する

こんにちは。

国内外の最先端のサッカーを扱う専門誌『footballista』に、CL決勝レアル・マドリー対リバプールのレアル・マドリー視点でのレビュー記事を寄稿しました。


レアル・マドリーは、なぜ勝てたのか

今シーズンのCLでレアル・マドリーが優勝してしまったことは、サッカー界のこれまでの常識に待ったをかけるような、一石を投じるような出来事であったように思う。

実際のところレアル・マドリーはなぜ勝てたのか。一言で言えば、それは「意思決定力」とでも呼ぶべき能力がずば抜けていたからだと考えている。

サッカーはピッチ上の22人が異なる意思決定を行う非常に複雑なスポーツであり、複雑系のシステムであると捉えられる。仮にサッカーがシステムであるならば、そこには選手間の相互作用による創発性が生じる。創発性は良くも悪くも「不確実性」を伴う。世界中のビッグクラブたちは、その不確実性を可能な限りコントロールし、サッカーの勝利の可能性を高める、という方向に向かって歩みを進めているように感じる。そのための「意思決定基準」を指し示すのが「ゲームモデル」であり、また「ポジショナルプレー」に代表されるような概念の普及、標準化に繋がった。

そうしたビッグクラブの歩みの流れ、その最高峰がマンチェスター・シティであり、リバプールであった。その観点で言えば、レアル・マドリーは非常に特異なチームである。なぜなら、確固たるゲームモデルを持たないからだ。

与えられたゲームモデル、意思決定基準の下で、不確実性をコントロールし勝利の可能性を高めるための「正解を選択」するリバプールに対し、レアル・マドリーは、筆者の目には「選択を正解に」しているように映った。

(この引用RTの表現が腑に落ちたため書かせていただきました。ありがとうございました。)


例えば、自陣深い位置で相手にパスを回されているシーンを思い返す。おそらく通常のチームであれば、ファーストDFを素早く決め、ボールホルダーにプレッシャーをかけ続けることが勝利の可能性を高めることに繋がると考えるし、ゲームモデルによりそうした意思決定基準を与えられているはずだ。しかしレアル・マドリーは多くの時間帯でファビーニョを、チアゴ・アルカンタラを、アレクサンダー・アーノルドをフリーにしていた。なぜか。カゼミーロが、エデル・ミリトンが、ダビド・アラバが、そして何よりティボ・クルトワがそこにいるからだ。「クルトワなら止められる」そう確信を持ってプレーしているように見えた

レアル・マドリーの選手たちは、確固たるゲームモデルや、意思決定基準を持たないが故に、その場で、ピッチ上で、リアルタイムで意思決定を行う力という点では他の追随を許さない。その力を裏付けているのは、「圧倒的な自信」だ。歴史、伝統、経験、信頼。エンブレムの重み。ある意味でサッカーには不確実性があることを認め、受け入れ、自らが引き受けるなので意思決定に一切のブレがない。迷いがない。決断できる。

もちろん、ほとんどのシーンでその「選択を正解に」できる選手たちが、世界にはわずかしか存在しないからこそ、マンチェスター・シティやリバプールのようなアプローチでチームを作ることが定石だと考えられているわけで、「選択を正解に」できる選手たちが揃っているという意味では、結局「個のクオリティ」が高いという話に行き着くのかもしれないが。とにかく、レアル・マドリーの選手たちはこの「意思決定力」がずば抜けている。

つまり、不確実性をコントロールしていたのはリバプールではなく、レアル・マドリーの方だったのではないかということだ。より勝利の可能性を高める行動をとり続けることができていたのは、レアル・マドリーの方だったのではないかということだ。それも、側から見れば「レアル・マドリーは運が良かった」ようにしか見えないやり方で。不確実性をコントロールするために一般的に最強だと思われていた方法が、実は最強ではないのかもしれない。

かといって意思決定基準が存在することがマイナスに作用するという話では決してない。今後、リーグ戦、トーナメント戦すべてでタイトルを狙っていくようなチームに求められるのは、意思決定基準の下で正しくプレーする力に加え、レアル・マドリーの選手たちのようにその場で意思決定を行う力を身につけていくことではなかろうか。そしてその2つが相反するもの、トレードオフ関係にあり両立不可能なものであるかどうかはわからない。ただ、今シーズンのCLの勝者はレアル・マドリーであり、示唆的な決勝になったことは間違いない

「不確実性」は確かに存在する。だがレアル・マドリーのここまでの戦いぶりは、決して「運」ではなかった。


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