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【お知らせ】森田真生さん『計算する生命』刊行記念インタビュー冊子を発行します。

みなさま、こんにちは。
恵文社一乗寺店の鎌田と申します。

先にも告知させていただいた通り、独立研究者・森田真生さんの新刊『計算する生命』(新潮社)が4/15(予定)に発売されます。恵文社では、森田さんとトークライブ「数学ブックトーク」を長年、一緒に開催してきました。2015年に、森田さんのデビュー作『数学する身体』が刊行されてから、絵本『アリになった数学者』(福音館書店)や随筆集『数学の贈り物』(ミシマ社)、その他数々の寄稿をされていますが、新刊『計算する生命』は、実に5年ぶりの論考となります。

発売に際し、なにかご一緒できないかと、先日、森田さんにインタビューを受けていただきました。間近でお話を聴いていると、この数年で森田さんご自身の思考も変化していることに気がつきます。今回のインタビューでは、『計算する生命』で取り組んだことと、そこから先の、現在取り組まれている実践と考え、何より、その変化はなぜ生じたのか、この5年間とこれからの5年間について中心にお伺いしました。森田さんの思考の軌跡をお話いただいた、濃密な内容となっております。

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こちらは試作段階の冊子デザインです。一枚の大きな紙に印刷し、折り方に工夫をして冊子の形にしています。(実際のものと、刷り上がりは異なります。)

森田さんから、インタビューの冒頭部分を公開する許可をいただきました。以下、掲載いたしますので、どうぞご一読ください。


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『計算する生命』(新潮社)刊行記念
独立研究者・森田真生さんインタビュー「名前の無いものたちの声を聴く」


『計算する生命』の刊行を間近に控えた、ある春の日。
身近な動植物から新しい季節の訪れを感じるなか、独立研究者・森田真生さんのラボ「鹿谷庵(ろくやあん)」にてインタビューを受けていただきました。小林秀雄賞を受賞したデビュー作『数学する身体』から五年。その間に、森田さんがなにを考え、取り組んできたのか。『計算する生命』で展開される壮大な論考を、これから目の当たりにするみなさんにとって、思考を組み立てる一助となれば幸いです。それでは、存分にお楽しみください。
恵文社一乗寺店 鎌田裕樹

―『計算する生命』の刊行、おめでとうございます。いよいよですね。森田さんが原稿に取り組まれている際に、大詰めのところで大変苦労されている姿が印象的でした。どのような点に難しさを感じたのでしょうか?

森田 『数学する身体』では、二人の数学者、アラン・チューリングと岡潔を軸に、数学を通して心を探究していく多様なアプローチについて考えました。キーワードを挙げるとすれば、<心と身体と数学>が前作を貫くテーマだったと思います。そこから、この五年間は、心を形づくる「言語」、身体を突き動かす「生命」、数学の発展を駆動してきた「計算」へと思考が導かれていきました。あえて前作と対比するなら、<言語と生命と計算>が今回の本の主題と言っていいと思います。

 2016年に執筆に着手したとき、最も意識していたのは、「心から言語へ」という流れでした。チューリングは「心から言語へ」という哲学史上の大きな転回の後に登場した数学者ですが、この転回の鍵を握るのがフレーゲという数学者です。そのため、本書ではフレーゲが主役の一人となります。恵文社で季節に一回開催してきた「数学ブックトーク」でも、この五年間、登場頻度が最も高かったのがフレーゲだと思います。鎌田くんもすっかりフレーゲファンになりましたよね?(笑)ですが、最初からこの本の構成が、頭のなかにあったわけではありません。

 先日、連載初回の草稿をおそるおそる読み返していたのですが、そこで僕は、終盤で『荘子』「斉物論」や、空海の『声字実相義』などを引用しながら、言語についての考察を、西洋哲学史の文脈の外へ開こうとしていました。ですが、数学史と荘子や空海の思考を無理に接続しようとすると、さすがに議論が乱暴になってしまうので、まずはあくまで「計算の歴史」を軸として、「心から言語へ」、そして「言語から生命へ」という思考の流れを、しっかり描いてみることに今回の目標を絞ることにしました。それでも、五年という期間では短すぎるというか、無謀なんじゃないかと思うことは何度もありました。

―生涯をかけて取り組むほどの「射程」だということですね。

森田 そうですね。『数学する身体』は、前半(1、2章)と後半(3、4章)で大きく流れが変わります。前半で「身体」を軸として数学史を追ったあと、後半は岡潔の話が中心になる。舞台もヨーロッパから日本に移行し、どちらかというと客観的な描写から主観的な思考へとウェイトが移っていく。『計算する生命』は、この区別で言うと、『数学する身体』の前半に近いスタンスで書いています。

 『数学する身体』の前半では、チューリングを中心に、「心を作る」ことで心を理解しようとしていくプロセスを描きました。そして後半で、「心になる」ことで心をわかろうとした岡潔の探究を描きました。

 『計算する生命』では、第4章で、「生命を作る」ことで生命を理解しようとする「人工生命(Artificial Life)」の話に到達します。では、「生命になる」ことで生命をわかっていくアプローチがあるとすればそれはどのようなものか。これは僕自身、いままさに京都に立ち上げたラボ「鹿谷庵」で取り組もうとしていることです。生命を外から見るのではなく、自分自身が生態系の一部となって、生命プロセスの内部に入って、生命の可能性を探究していく。そのために、自然環境が主導する学びの場を子どもたちとともに立ち上げていこうとしています。

 『計算する生命』の「後半」は、ある意味ですでに「本」というメディアの外にはみ出してきてしまっているのかもしれません。一冊の本に思考をまとめようとしながら、同時に、とめどなく思考が本の外に漏れ出していく。特に最後の二年間は、このことと格闘していました。それでも、本の外に漏れ出していく「後半」へと進んでいくためには、「前半」を書き上げる必要がありました。この意味で、僕にとって本書は、自己完結した本というより、未来に開かれた本なんです。読者にもそのように感じていただけたらすごく嬉しいと思います。

―『数学する身体』と『計算する生命』という二つの作品から、共通する部分と異なる部分についてお話しいただきましたが、この五年間で森田さんご自身が変わられたことはありますか?

森田 まったく変わった部分で言うと、『数学する身体』が出版された直後に長男が生まれ、この五年の間に次男が生まれました。ノイズを排除した「純粋」な記号の世界において成り立つ計算の世界がある一方で、生命は純粋さのなかに閉じこもることはできなくて、猥雑な、色々なものにまみれ続けています。計算についての考察が生命へと導かれていくこの本を書きながら、僕自身まさに計算の純粋な世界から、生命の猥雑な世界へと引きずり出されていく日々を過ごしていました。

 原稿を書いていると、子どもが「おとーさん、あっそぼー」と僕の書斎をのぞいてきて、「いま仕事してるからちょっと待って」と言っても、数秒後にはまた「あっそぼー!」と言ってくる。結局、「ちょっとだけだよ」とか言ってそのまま遊ぶことになる。こうなったら“go with the flow(流れに寄り添え)!”です(笑)

 自分が自分の時間をコントロールできることがどんどんなくなっていくわけですが、それをネガティブに捉えるのではなく、何とかしてポジティブにとらえたい。この本も、行為を中枢で制御するタイプの人工知能から、ダイナミックに動き続ける環境とともに行為を生成していくロボットの話へと展開していきますが、本書の思考の流れは、子どもたちの「生命」の力に翻弄され続けていたこの五年間の生活の変化とも無関係ではないと思います。

―(ここで長男くんが乱入し、しばしインタビューは中断。まさに“go with the flow”です。)

そして、後半へ。続きは冊子でお楽しみください。題の「名前の無いものたちの声を聴く」に関わる内容は、後半に登場します。

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インタビューの内容を文字に起こし、小冊子に仕立て、恵文社で『計算する生命』をお買い上げの方に特典として差し上げます。冊子の題は、お話いただいた内容から「名前の無いものたちの声を聴く」としました。

冊子には「『計算する生命』から開くブックリスト」として、現在の森田さんの思考に影響を与え、寄稿、トークライブで紹介されてきた本のなかでも、特に重要だと思われる十冊をご紹介しています。ぜひこちらにもご期待ください。

今回は以上です。たくさんの方へ、本書が届くことを祈っております。

なお、『計算する生命』特典冊子付きのご予約を開始しています。以下のリンクからお申し込みください。店頭でももちろん販売いたしますし、遠方への発送も承ります。どうよろしくお願いします。


(鎌田)

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