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競馬ナイト+(プラス) 2023年9,10月号発行・文:鈴木ユウヤ

こちらはオリジナルWebマガジン『競馬ナイト+』のnote版です。

(24年4月30日追記:試し読み用として無料開放いたしました)

1.編集前記

 
3年弱勤めた会社を辞めて、ちょうど3か月が経った。

ご存知の方はご存知だろうが(いやこれは思い上がりか?)、前職ではスポーツ系のメディアを運営している会社に勤務していて、わたしはそこの競馬部門で働いていた。
 
当該事業のマーケティングの一環で「競馬Youtuber」的な活動もしていた。チャンネル登録者数は7万人超。それなりに刺激的な経験もできたのだが、今年の5月末を持って退職することを選んだ。


理由については多くを語るつもりもないのだが、そのうちのひとつだけ。それは、己自身の研究量がまだまだ不足している中で、毎週競馬の解説を発信し、コンテンツを絶えず制作し続けることに矛盾を感じるようになったからだ。言い訳かもしれない。タフでなかっただけなのかもしれない。ただ、残念ながらわたしには、会社勤めをしながら、納得のいくクオリティで競馬というスポーツを考え抜くキャパシティがなかったのである。
 
そんな、顧客にも、愛する「競馬」にも真摯でない状態を自分で許せなくなった。だから辞めた。それだけの話だ。果てしない時間と知的好奇心があり、起きてから眠るまで競馬のことだけを考えていた、そんな昔の自分に戻りたかった。魔人ブウ編のベジータみたいなものだ。ちなみに、パワハラがあったんじゃないか? とか詮索してくる人もいたが、これはハッキリ否定しておきたい。少なくとも辞めた理由に、ハラスメントの類は一切関係がない。
 
「所属」から自らを切り離し、「時間」と「裁量」を手に入れたわたしが今欲するものはたった二つ。
 
ひとつはもちろん、馬券を究めること。わたしは競馬が大好きだし、同じぐらい「馬券」というゲームがどうしようもないほど好きだ。そして好きだからこそ、何がなんでも勝ちたい。退路を断ち、言い訳を封じ、全ての資源をもってこの難しい競技に向き合う。回収率100%超……いや110%超をコンスタントに出せる、再現性のある方法を確立する。そしてそれを誰かと分かち合う。これをライフワークにすると決めた。
 
もうひとつは、ライターとして、ビジネスマンとして一本立ちすることだ。荒波がひとつくればすぐに転覆するようなフラフラのイカダで大海原に飛び出した。酷く不安だけど、おかしいほど自由だ。海に出たからには、せっかくなら誰かを楽しませ、競馬の楽しさをより多くの人に伝え、自分もお金をいただく。「三方よし」の事業主になりたいじゃないか、と。
 
この『競馬ナイト+(プラス)』は、そんな活動の第一歩だと考えている。正直、わたしの知名度もサイトのPVもまだまだだ。馬券の腕だって未熟だ。有料コンテンツ販売なんて時期尚早かもしれない。
 
でも、それでいいのだ。
 
もっともっと強くなって、這い上がる。その過程をエンターテインメントとして見せるのが『競馬ナイト』の裏テーマだと思っている。最初から上手くいかなくていい。
 
この文章をあなたが読んでいるということは、少なくとも一人には届いているのだから。その事実に感謝の意を表します。
 
色々用意したので、楽しんでいってください。
 
2023年9月1日
鈴木ユウヤ

目次

1.編集前記
2.馬券の買い方研究
「ワイド1点買い≒実質複勝」を究める
3.初心者に伝えたい! 穴馬の探し方
「覚悟」と「SP理論」
4.秋GⅠの大予言!
 スプリンターズS、秋華賞、菊花賞、天皇賞(秋)
5.重賞レース「眼の付けどころ」
 紫苑S、京成杯AH、セントウルS
~アルテミスS、スワンS
6.地方もアツいぞ!
 日本テレビ盃
ダービーグランプリ
 マイルチャンピオンシップ南部杯
7.「この騎手この条件」
 WASJ優勝 岩田望来を徹底解剖
8.金脈発掘! 「コースのバイブル」
 中山芝1200mの攻略法
9.競馬クイズ「走る大捜査線」
10.お礼とあとがき
 
複製・再頒布は禁止しますが、なるべく多くの方に紹介してもらいたい気持ちもあります。良識の範囲内でお願いします。
※出走想定などの情報は9月1日時点のものです。報道された情報に基づいていますが、変更される可能性もあります。ご了承ください。


2.馬券の買い方研究
「ワイド1点買い≒実質複勝」を究める

馬券という競技において、我々が意思決定できることは以下の4つだ。
 
(1)    買うレースはどれにするか
(2)    買う馬はどれにするか
(3)    買い目はどうするか
(4)    買う金額はどうするか
 
「予想上手の馬券下手」なんて言葉もあるが、あながち迷信でもないと思う。予想≒買う馬の選択は、馬券というゲームの一要素に過ぎない。収支を決定するのは4項目のトータルコーディネートである。
 
その中でも、今回は(3)に挙げた「買い方」について考えてみたい。
 
回収率を上げるためには二つの道筋がある。的中率を上げるか、的中した時の威力を高めるかだ。前者は予想の精度に依存する面が大きいと思っていて、買い方での工夫が効くとすれば後者だろう。
 
「的中した時の威力を高める」という言葉をさらに分解する。これにもまた二つの道筋がある。点数を増やして高配当を狙うか、点数を削って1点あたりの金額を厚くするか、だ。
 
それぞれに長所と短所はあるが、個人的なオススメは点数を削る方だ。順を追って解説しよう。
 
点数を増やす買い方の長所は、配当の振れ幅が大きくなり、ビッグヒットを引っかけやすくなること。短所は低配当決着に弱いことだ。
 
たとえば3連単を120点均等に買う場合、3連単120倍未満の決着になった時点で敗戦が確定する。ちなみに、競馬において過度の高配当帯は出現率が極めて低く、期待値的にも低調であることが知られている。砕けた言い方をするなら、「たいてい堅く決まる」のが常である。
 
逆に言えば、多点数買いが真価を発揮するのは、点数を絞る人たちがお手上げになるような目の覚める波乱のとき。一撃で人生がひっくり返る馬券をとれる可能性が少しだけ高い。
 
多点数買いの長所を生かすには、そもそも高配当が出るであろうレースを選ぶことと、その一撃を辛抱強く待ち続けることが求められる。資金力と胆力がある人向けだ。
 
今度は少点数買いの長所と短所を考える。長所は堅い決着にも強いこと、短所は大荒れに対応しにくいことだ。
 
先ほど述べたように、高配当帯の馬券はトータルで見ると期待値が低い。したがって、基本的には低配当をコンパクトな点数で当てる方が勝ちやすい。そこに加えて、絞って当てるのが難しいレース、つまり荒れそうなレースは最初から見送ってしまえば、より有利にゲームを運ぶことができるだろう。
 
無論いいことばかりではなく、大万馬券的中のロマンは捨てることになる。ただ個人的には「再現性」を重視しているから、そもそも一撃に頼る気がないのである。
 
どういうことか。みなさん、期待値の基本的な考え方はご存知だろう。たとえば300円払ってサイコロを1回振り、出目×100円がもらえるゲームに参加すべきか否か。出目の期待値は3.5だから、試行回数を十分に増やせば確実にプラス収支になる。
 
ただ、競馬の場合はちょっと事情が違う。100%の確率で当たる単勝1.1倍0.01%の確率で当たる3連単12000倍どちらが偉いのか。期待値的には後者の方が高いのだが、答えは前者だ。前者なら全財産を突っ込めるから。後者は生きている間に、あるいは資金が続く間に、その0.01%を引けるとは限らない。当たりを引く前に心が折れてしまうかもしれないし、予想法がブレてしまうかもしれない。
 
上記は極端な例だが、シミュレーションとしては実態に近いと思う。高配当狙いが前提となる多点数買いは、資金力が潤沢にある貴族の買い方だと考えている。
 
******
 
さてこんな発想を経て、かつて行きついたのが「ワイド1点買い」という買い方だ。

南関を主戦場にしていた19年度には「ワイド1点買い」ほぼ一本鎗でプラス収支を出すことができた。その後3年間の社会生活で錆びついてしまった部分もあるが、わたしの引き出しの中では、現状最も勝てる可能性が高い買い方と言っていいだろう。
 
紆余曲折を経て、今年の8月からまたこの買い方に戻して好調だ。しばらくは他の方法論に浮気せず、これを究めていこうと思っている。せっかくだから、コツを開陳しよう。
 
まず、「ワイド1点買い」といいつつ、コンセプトは実質「穴馬の複勝1点」だ。
 
いい穴馬を見つけても、それを複勝で買うのは分が悪い。というのも、複勝という馬券は「他2頭が堅く決まったときの配当」を掛金に、「他2頭がどんなに荒れてもOKですよ保険」に強制加入させられているのと同義だからだ。他2頭が荒れそうだと思って意図的に複勝を選ぶならいいが、そうでないなら、この保険はぼったくりだ。
 
複勝を買うぐらいなら、手近な人気馬を選んでワイドにした方がいい。保険を解約できる。それが「ワイド1点買い≒実質複勝」の趣旨なのである。
 
そんなわけで、「ワイド1点買い」の真価は「順当な決着のなかに、目をつけた穴馬が飛び込んでくる」というレースで発揮される。だから「これはまず間違いなく飛ばないだろう」という人気馬が1頭、すぐに決まるレースを選ぶと効率が良い。それに自慢の穴馬を添えるだけだ。
 
手前味噌ながらレッドロワ・ジュンブロッサムのワイド11.3倍も、ブルベアイリーデ・ヴァンヤールのワイド9.4倍もこの発想で当てている。難易度としてはどちらも単なる9番人気馬の複勝なのだが、打点は高い。複勝だと11倍や9倍にはそうそうたどり着けない。
 
あ、ついでに。補足しておくと、人気馬が1頭バシっと決まらないときは、別にワイド2点でもいいと思う。2022年の中央競馬(障害と新馬除く)において、1・2番人気が両方飛んだレースの割合は14.6%しかない。相手が分からなければ1・2番人気に2点流しておけば、文字通り十中八九は正解する。それでも、複勝を買って意味のない保険に入らされるよりはよっぽど効率的だ。
 
こう考えていくと、冒頭に述べた(1)レース選びと(3)買い目選びは密接な関係にあることが分かる。どういう買い方をしたいかによって、どんなレースを選ぶべきかも決まってくるというわけだ。
 
言い方を変えれば、どういう買い方が正解・不正解ということはないのだろう。その買い方に、レース選びや馬選びなどの要素がマッチしているかどうかが重要なのだと思う。わたしが挙げた「ワイド1点買い」はあくまで一例。参考になれば幸いという程度だ。
 
ぜひ、自分だけの作戦を探す楽しみを味わってほしい。

3.初心者に伝えたい! 穴馬の探し方
「覚悟」と「SP理論」

強い馬が常に勝ち、弱い馬が常に負ける。
 
もしも競馬がそんな競技だったら、こんなに面白くはなかっただろう。
 
展開やトラックバイアス、そのレースへの適性など、あまり競馬を知らない人からしたら本当に些細なことで着順が入れ替わる。競馬は「逆転のスポーツ」だ。逆転があるから、観戦も予想も面白い。
 
最近競馬を始めたという、いわばビギナーのなかには、そもそもこの感覚を持っていない人がいる。じゃあ三冠馬コントレイルはシャフリヤールやデアリングタクトより強くて、モズベッロよりは弱いんですか? と聞きたい。
 
もったいないことだと思うし、そういう方が「競馬むず! おもんな! もうやめた!」となってしまう前に、手を差し伸べたいという老婆心(老ジジイ心?)を常に抱えているのである。いや、「他人に教えられるほどお前は上手いのか?」とか言われると返答に窮するが……。
 
ということで、この章では穴党としてそれなりに競馬を研究してきた結果編み出した「穴馬の探し方」を紹介していく。穴馬が来るメカニズムを知ることは、換言すれば競馬が荒れる原因を知ることでもあり、ひいては競馬予想がなぜ難しいのか、という命題へのアンサーだ。穴党ではない人も、ぜひ一読いただきたい。
 
******
 
「穴馬が来る」という現象は、以下のどちらかでしかない。「強くないのに上位に来た」か、「強いのに人気がなかった」だ。
 
前者の多くは展開やトラックバイアスの利、ひっくるめて言えばレース中の立ち回りによるもの。後者は様々なケースが考えられるが、「近走で実力を発揮できていなかった」というものを想定して、競走馬の適性論で説明したい。
 
なお、個人的な体験談だと「能力」という予想ファクターは上手に扱えなかった。回収率を高める上ではむしろ邪魔になるとすら思っている。「能力」は人気との連動性が高い。誰しも最初にチェックする観点だから、「能力評価」の正確さだけで周りから抜きんでるのは至難の業だ。
 
むしろ、穴馬券というのは多かれ少なかれ「弱いと思われていた馬が走ってしまった」というものなのだから、「弱そうだから買わない」と判断している限り、ほぼ高配当には巡り合えなくなってしまう。
 
「能力」より「立ち回りと適性」が、穴を獲るためのマインドだ。
 
******
 
レースにおける「立ち回り」という観点について書こう。
 
騎手と、馬券を買う人間とでは、騎乗に対して求めるものが違う。騎手は自身の騎乗馬の力量に応じて無用なリスクをとらない方がいいときもあるし、時には掲示板狙いが関係者に喜ばれるときだってあるだろう。
 
ところが我々は違う。我々にとっては回収率が高くなる騎乗、つまり「一発ある乗り方」だけが正義だ。18着になるリスクを背負ってでも、3着以内になる可能性を少しでも高めて欲しい。
 
そんな「一発ある乗り方」のパターンは、実はそう多くない。
 
(1)前残りと読んで前を取り切る
(2)内を通ってスタミナを温存する
(3)後方で脚を溜め、前に行った馬がバテることに賭ける
 
ほとんどこの3パターンだ。「中途半端」に期待値はない。それぞれ大敗のリスクはあるが、リスクを取らなければ“8番人気8着”が関の山だ。そういった意味で、3種類の一発ある乗り方を「覚悟」と名付けた。「前覚悟」「内覚悟」「後ろ覚悟」と呼ぶ。どの覚悟にも当てはまらない人気薄は、あまり好走の期待が持てない。
 
穴馬を買うなら、展開とトラックバイアスの観察を通じて、成就するとしたらどの「覚悟」か、を最初に考えるのがポイントだ。たとえばハイペース想定なのに「前覚悟」で乗られそうな馬を狙っても無意味。この3つはジャンケンのようなもので、期待値を上げる局面と、下げる局面が表裏一体になっている
 
この「覚悟」という考え方は、ひと昔前に南関東で穴を開けまくっていた元騎手の騎乗スタイルから発見したものだ。
 
諸事情にかんがみて名前は伏せるが、その騎手の現役時代は唯一無二だった。騎乗のほとんどが「逃げ」か「最内追走」か「後方ポツン」。それで面白いように穴を開けていた。2017年末の大井、11番人気のレオパルトという馬で殿一気を決めたレースが印象的だった。
 
「覚悟」が穴を開ける上でいかに効果的なのかは、その騎手の全盛期を見ていただければ伝わるはずだ。それゆえに、早期の引退とその後のあり方は残念だとも思う。
 
******
 
続いては適性論だ。競走馬の適性というのは多岐にわたる。距離適性、馬場適性、コース適性。季節による好不調などもある。まず、「たかが」得意不得意だけで、着順がガラっと変わりうるという大前提は頭に入れておくべきだ。
 
そんな適性を考える上で、比較的汎用性が高くて便利なのが『競馬ナイト』本体でも紹介した「SP理論」だ。競走馬の過去の戦績やレースぶりを注意深く観察することを通じ、
 
器用なレース巧者(S型)⇔不器用な身体能力型(P型)
直線の脚比べに長けた「キレ型」⇔バテないのがウリの「持続力型」
 
の二つの軸を使って、「Sキレ型」「S持続型」「Pキレ型」「P持続型」の4パターンに分ける。
 
それぞれのタイプに関する細かい説明は下記のURL
https://keiba-night.com/kenkyu/741
で代用するが、「適性に合わなかったレース」→「適性に合うレース」への条件替わりはオイシイ。
 
実戦的には前記の「覚悟」から候補を絞り、「SP理論」に照らして条件が好転する馬を狙っていくのがいいだろう。
 
もちろん、いずれも展開やトラックバイアスを読む作業、各馬の適性を見極める作業、予想しているレースで問われる資質を考える作業など、地道な工程はついてまわる。
 
魔法の予想術などではないが、コツとして是非実戦してみてはいかがだろうか。

4.秋GⅠの大予言!


◆スプリンターズS(中山芝1200m)


注目馬:ナムラクレア
 
スプリント路線はよく言えば群雄割拠、悪く言えば主役不在の現状だ。直近の国内GⅠは8番人気ナランフレグ、8番人気ジャンダルム、12番人気ファストフォースが勝利。いずれも特殊な馬場ではあったが、それを跳ね除けるほど力の抜けた馬がいないということでもある。
 
最有力候補はキーンランドCを勝ったナムラクレアだが、波乱の目も大いに考えられる。穴は「内枠」「先行」「ハイペース巧者」から。要するに枠順と馬場次第なのだが、北九州記念2着ママコチャや函館SS2着ジュビリーヘッドが出てくれば面白い。
 

◆秋華賞(京都芝2000m)


注目馬:リバティアイランド
 
リバティアイランドに注目が集まる秋華賞。過去、三冠目出走までたどり着いた二冠牝馬の成績は【6-1-3-0】で達成率は60%。そして3連系の軸という意味では全幅の信頼が置ける。重箱の隅をつつくと、桜花賞の際に川田騎手が「休み明けで進んでいかなかった」という旨のコメントをしていたこと。変に内枠を引いてしまったりすると厄介だ。
 
一発あるとすればアーモンドアイに対峙したミッキーチャームのような、機敏な逃げ先行馬。ブリンカー着用で一変したコンクシェル、春から一貫して「秋華賞向き」と評価してきたドゥアイズがひと泡吹かせるか。
 

◆菊花賞(京都芝3000m)


注目馬:ファントムシーフ
 
今年から舞台を京都に戻す菊花賞。阪神の菊は内回り使用と二度の登坂でスタミナが問われるレースだったが、淀だと話は変わる。いわば「折り合い選手権」であり、壁を作れる内枠を引くこと、前哨戦を折り合い練習に使うことが重要。練習という意味では、エアスピネルやボルドグフーシュの神戸新聞杯が好例だ。
 
ここはファントムシーフの逆転劇があると見ている。神戸新聞杯に武豊騎手で想定されている。前哨戦は後方待機で負けていい。本番で折り合いの不安なく乗れるよう、セットで作ってくるだろう。
 
日本ダービー馬タスティエーラは、本質的には皐月賞・菊花賞向きの、レース巧者で持続力に長けたタイプ。直行も減点材料とは思わず、素直に有力視だ。ただ、レーンが乗れない以上、鞍上は気になる。
 
ソールオリエンスも悪くはないが、セントライト記念での始動を表明している。これはタスティエーラにも言えることだが、本番が初の長距離輸送となるのは一抹の懸念材料か。
 
上がり馬から1頭挙げるなら阿賀野川特別を勝ったリビアングラス。無尽蔵のスタミナを備えた先行型で、菊花賞はいかにも向く。
 

◆天皇賞(秋)(東京芝2000m)


注目馬:ドウデュース
 
イクイノックスが「秋の大目標はジャパンC」と発表しながら、ジャパンC→有馬のイメージなのか、天皇賞→ジャパンCなのか判然としない。賞金的には前者だと思うが……。
 
鬼の居ぬ間に負けられないのが昨年のダービー馬ドウデュース。京都記念は内前有利のトラックバイアスものかは、という圧勝劇で、晩成型ハーツクライの覚醒期に入った可能性すら感じた。左回りで時計が出る馬場の1800~2000mなら、仮にイクイノックスが出てきたとしても勝機十分だ。
 
コース形態上、穴はたいてい「内枠の差し馬」から出現する。やはり出否と枠順次第にはなってしまうのだが、札幌記念の重たい馬場が明らかに合わなかったダノンベルーガ、中山以外の1600~2000mなら実は強いダノンザキッドの2頭は楽しみがある。

5.重賞レース「眼の付けどころ」


※データは特記なければ過去10年

◆紫苑S


重賞・GⅠ実績馬が順当に力を見せるレースで、波乱は望み薄。出走馬全頭の単回収率27%、複回収率46%ととにかく堅い。重賞昇格以降の7年はいずれも5~8枠から勝ち馬が出ており、外枠をケアしたい。
 

◆京成杯AH


新潟代替の14年を除く直近9回で田辺、戸崎、横山典の成績が【6-2-1-9】複勝率50%、単回収率560%、複回収率181%
と驚異的。クセのある中山マイルの勝手を知ったる騎手に警戒したい。ちなみに同9回のうち、ディープインパクト産駒が2着7回という珍データも。
 

◆セントウルS


ただでさえ内前有利な阪神芝1200mが舞台で、しかも開幕週。当然ながら逃げ馬に注意だ。また、前走マイル組の成績がやたらといいのも特徴。距離に見切りをつけてスプリントに転じた3歳馬や、長いと分かっているマイルで馬柱を汚してきた馬がいればマーク必須。
 

◆ローズS


中9週以上【7-4-4-67】でボリュームとしては大きいが、単回収率33%、複回収率47%は低調。同8週以下【3-6-6-65】単回55%、複回156%、夏に叩いてきた馬が狙い目だろう。ローブティサージュ、レッドリヴェール、ファンディーナ、レッツゴードンキなどが飛んでおり、早熟or短距離馬は意識的に見切りをつけたい。
 

◆セントライト記念


大箱を鋭く追い込む資質が問われる日本ダービーとは真逆に近いレース。先行して伸びずバテずのタイプが穴。前走ダービー10着以下【3-3-2-11】複勝率42.1%や、前走ダービー4角5番手以内【4-4-2-7】複勝率58.8%が象徴的。
 

◆オールカマー


牝馬【5-4-1-12】複勝率45.5%、単回収率221%、複回収率138%。牡馬の一線級は秋天始動の年内2~3戦が一般的だが、牝馬はエリ女狙いのトップ層が出走してくる。といっても今年はタイトルホルダーがいるわけで、頭は盤石か。
 

◆神戸新聞杯


日本ダービーと真逆だったセントライト記念とは真逆。ややこしい言い方をしたが、要するにダービー好走馬、ダービーで速い上がりを使った馬を買えばいいだけ。ソールオリエンスはこっちを使った方がいいような……。
 

◆シリウスS


JRA最長距離のダート重賞なのだが、ハンデ戦ということもあってつかみどころがない。特徴がないのが特徴。一応、阪神開催の直近7年で馬番1~4番が計6勝と紹介しておくが、合理的な理由が思い当たらない。
 

◆サウジアラビアRC


去年はデータ上も、新馬戦の内容的にも飛ぶはずのないノッキングポイントが敗戦して唖然としてしまった。とはいえ、6月東京新馬勝ちからの直行がいいことに変わりはなく、ボンドガールで鉄板だろう。
 

◆毎日王冠


ソングラインが参戦を表明しているが、マイラーの出張にはあまりいいイメージがない。サリオス、ダノンキングリーのように、この半端な距離でこそ輝く馬を見つけたい。東京芝1800m重賞を過去に勝っていた馬【6-4-3-10】複勝率56.5%。
 

◆京都大賞典


別定GⅡだが、実情としては秋天に向かわない馬たちの戦い。ピークアウトした実績馬や仕上がり途上の馬が人気になる傾向で、割と荒れる。開幕週の京都なので内有利。京都開催8年で1~4枠【6-4-3-31】複勝率29.5%、単回収率619%、複回収率202%。
 

◆府中牝馬S


毎日王冠にも言えることだが、マイラーが「あと200mなら……」と淡い期待を持って出走してくる番組。ハイペースの年が多く、イン溜めの追い込みが決まりやすい。前走上がり2位以内で複勝率35.3%。クイーンSで遅刻したような馬が府中替わりで躍動する。
 

◆富士S


前走が安田記念orヴィクトリアマイルだと【3-3-2-4】複勝率66.7%。東京マイルGⅠで戦ってきた馬と、京成杯AHあたりから続戦してくる馬とでは、やや格が違うか。ちなみに20年からGⅡ昇格で別定の加増が緩和されており、今後は「休み明けの実績馬」優勢の傾向が表れてくると読む。
 

◆アルテミスS


超ハイレベルだったボンドガール新馬の2着チェルヴィニアがここに。新馬でグランアレグリアに阻まれたダノンファンタジーのような存在だと思っている。ここは通過点だろう。
 

◆スワンS


これも1400mという微妙な距離ゆえ、ダイアトニックのようなマイスターが輝きを放つ。前走1400mで2着以内【2-2-1-10】、同3着以下は【0-0-1-19】。違う距離なら4着以下【8-5-5-78】と巻き返しも多発。

6.地方もアツいぞ!


地方競馬も9月、10月は興味深い番組が目白押しだ。
 
まずは9月27日、船橋競馬場で行われる日本テレビ盃(JpnⅡ・ダ1800m)をピックアップ。ここには今年のドバイワールドカップを制したウシュバテソーロが出走を予定している。BCクラシックに向けた壮行レースを白星で飾れるか。脂の乗り切った地元ギガキングらが王者にどこまで迫れるのかにも注目したい。
 
10月1日に盛岡競馬場で行われるダービーグランプリ(M1・ダ2000m)。スプリンターズSと凱旋門賞をつなぐ夕刻、みちのくの地に三冠馬ミックファイアが見参する。また、今のところ出否は判明していないが、ホッカイドウ三冠馬ベルピットとの対決が実現する可能性もゼロではない。来年からは不来方賞に統合される伝統の一戦だが、現名称のフィナーレを飾るにふさわしい豪華な戦いとなりそうだ。
 
10月9日には同じく盛岡競馬場でマイルチャンピオンシップ南部杯(JpnⅠ・ダ1600m)が行われる。レモンポップがこことシリウスSの両にらみ。そのほかに皐月賞馬ジオグリフバスラットレオン、兵庫代表イグナイターなども参戦が想定されている。ジオグリフはダート適性を疑問視する向きもあるようだが、サウジCでカフェファラオとアタマ差の実績があり、スピード質な盛岡ダートなら悪くないはず。JpnⅠでも十二分に戦えるだろう。

7.「この騎手この条件」
 WASJ優勝 岩田望来を徹底解剖


2023年のワールドオールスタージョッキーズを制したのは23歳、関西のホープ・岩田望来騎手。
 
今年は8月終了時点で既に78勝。単純に1.5倍すると年間117勝ペースとなり、キャリアハイだった昨年をさらに14勝ほど上回る見込みだ。ちなみに、これはきっと福永騎手の引退に伴って、藤原英昭厩舎からの依頼が増えたからに違いない……と思ったのだが、藤原厩舎からの依頼はむしろ例年よりスローペースだった。
 
今回はそんな岩田望騎手の騎乗傾向と買い条件について分析してみたい。
 
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レース映像から最近の騎乗傾向をチェックすると、おおむね以下のようになる。
 
・スタートは安定感あり
・無理に先行したり、意図的に下げたりはしない。良くも悪くも出たなり、馬なりで運ぶ
・内意識は強めだが、詰まるシーンはあまりない
 
以前、ある競馬予想家の方がTwitterで「成績の割にファンから上手いという印象を持たれていない」と岩田望騎手を評していた。
 
それはある意味納得で、基本的には馬を尊重する自然な競馬が多いため、勝つときは馬が強くて勝った「ように見える」タイプだ。個人的な意見だが、実はこういう騎手が一番、馬券的に計算が立ちやすかったりする。
 
内意識の強さはイルーシヴパンサーで制した今年の京都金杯が典型だろう。そして、馬群の中や内ラチ沿いを通す割には詰まるシーンが少ない。状況判断の上手さもあるだろうし、4角で勢いをつけながら回って、インターフェアにならない範囲で外の馬を押圧し、進路を作る技術も持ち合わせている。
 
と、書くにあたって岩田望来が詰まったレースを必死に思い出そうとしたが、ディオのアーリントンCぐらいしか出て来なかった。やはり若くしてこれだけ勝つ騎手には、相応の理由があるようだ。
 
******
 
次はデータ面(2023年1月~8月末まで)から特徴を探る。なお、大穴一発でデータがブレるのを防ぐため、単勝オッズ30倍未満のケースを集計対象とした。

まずは枠順別成績。成績がもっともいいのは文句なしに「8枠」で、複勝率上位が5~8枠、下位が1~4枠とキレイに分かれている(なお、これを書いたあとに8枠アスクワンタイムで小倉2歳S優勝)。前記した通り、基本的にゲート出たなりで進める騎手なので、内枠だと後手に回りやすいのだろう。大阪杯のジェラルディーナみたいになっちゃう、という言い方で伝わるはずだ。

続いて距離別だと短距離より中長距離が得意。これもおそらく理由は同様で、序盤のポジション争いが重要な短距離戦と、馬の気分が大事な中長距離戦の違いだろう。なお、1200m以下に限ると【9-12-13-56】で勝率10.0%、単回収率34%ともう一段下がる。
 
ところで、わたしはこの手の分析記事を見るたびに感じることがある。「そんなに色々書かれても、どうせ覚えてられないよ!」だ。みなさんもそう思いませんか?
 
だから覚えるのはひとつだけにしよう。岩田望来騎手が「8枠」の「マイル以上」なら【13-8-8-21】で複勝率58.0%、単回収率246%、複回収率144%。これだけ押さえておけば十分なんじゃないでしょうか。

8.金脈発掘! 「コースのバイブル」
 中山芝1200mの攻略法


スプリンターズSの舞台でもある中山芝1200m
 
中山開催では飽きるほど使われるコースでもあり、我々の馬券収支にも多大なる影響を与えうる。その攻略法を事前に考えてみよう。
 
(1)    コース形態
起伏激しい中山競馬場の、ほぼ頂上にあたる外回り向正面からスタート。坂を駆け降りながら、たった250m先の3角を目指す。
 
当然ながらハイペースになりやすく、その状態で3角→4角と回っていくわけなので、内に入れなかった馬はずーっと脚を使い続ける羽目になる。溜める場面が全く作れないし、そうなると当然伸びない。
 
スプリンターズSを見ても分かる通り、「内を走れるかどうか」と「ハイペースへの耐性」が勝負を分けるコース。分けまくる。当然ながら枠順(と、その並び)も重要で、能力だけでなんとかできる舞台ではない。
 
(2)    データからの穴パターン
まず騎手では丸田恭介が特注。【3-3-3-13】複勝率40.9%、単複回収率も100%を悠々と超えている(過去3年。以下同じ)。
 
丸田騎手の回収率を跳ね上げている2021年9月のヴィクトワールメイ(10番人気1着)は道中12番手追走からの最内一気。詰まるリスクを背負ってでも、少なくとも4角まで内にこだわれる胆力が穴演出には必須だ。ついでに田辺裕信騎手も複勝率44.2%の好成績なのだが、こちらも内を回して仕掛けをワンテンポ遅らせる騎乗スタイルがおなじみである。
 
臨戦過程でいうと、まず距離延長組が勝率2.2%、単回収率16%という惨憺たる成績。現行の競走体系上、1150m以下はレースレベルが基本的に低く、そこからの延長はほぼ成就しない。
 
対照的に、相対的にレベルが高いマイルからの短縮馬は【8-9-7-60】単回収率135%、複回収率140%。それもJRAの1200m以下初出走となる馬が、しばしば後方から飛んでくる。
 
※例
2020年ラピスラズリS
アストラエンブレム8番人気1着(通過順15-15)
 
2023年アクアマリンS
レディバランタイン13番人気1着(通過順15-14)
 
理屈はこんな風に考えられる。
「初の1200mで追走が難しい」
→「序盤で馬群から置かれ気味になる」
→「結果的に4角まで後方ラチ沿いでロスなく運べる」
→「直線で他馬が垂れ始める頃にようやくスピードに乗る」
→「前の止まり方次第で全差しが成る」
 
我々は1200mだからこそ序盤から流れに乗れるスピードタイプを買いたくなるが、4角まで内を通ることが重要なこのコースではそれを逆手にとる発想もある。
 
後方にポツンと置かれてしまう、追走力に乏しい馬にこそ、大穴のホットスポットがあるのだ。

9.競馬クイズ「走る大捜査線」


 

Q1.「二代血統表クイズ」


父名と母名が伏せられた謎の血統表がある。重賞勝ち馬だということはハッキリしているらしいが、果たしてどの馬だろう?
(例題)

(答え=ロードカナロア 父キングカメハメハ、母レディブラッサム)
 
Q1-A

Q1-B

Q2.「このGⅠレースはなんでしょう?」


とあるGⅠレースの成績表を拾ったが、肝心の馬名が抜け落ちている。限られた情報から、そのレースを特定してほしい。

Q3.「ウソつきは誰だ?」

四人の参考人がある競走馬について話している。ところが、どうやらこの中の一人がウソをついているようだ。ウソに惑わされず、「話題になっている競走馬」を当てよう(ついでに、ウソつきが誰かも分かるはずだ)。
 
カワナ:桜花賞、オークス、秋華賞を皆勤し、そのうちのひとつを制した素晴らしい牝馬です。GⅠタイトルはそのひとつだけです。そして、わたしは正直なコメントを信条としています。
トサカ:古馬になってからは海外重賞で5戦1勝の成績も残しましたね。ウソをついているのはヨコハマ君かロメーロのどっちかですよ。
ヨコハマ:矢車賞から中1週の強行軍でオークスに出走して、4着に健闘したタフな馬ですよね。僕はウソなんかついていないです。でたらめなことを言ってるのはトサカさんですから。
ロメーロ:彼女がGⅠを勝ったときは2番人気だけど、単勝は9倍以上もついてマシタ。ワタシはウソつきじゃないですけど、誰がウソかは分からないネ。
 
(答えは巻末)

10.お礼とあとがき

お手にとっていただき、そしてここまで読んでいただき、ありがとうございました。改めまして、フリーの競馬ライターであり、『競馬ナイト』管理人の鈴木ユウヤです。

この本……というかマガジン? を発行しようと思い立ったのは8月の最終週。「キリのよさを考えると京成杯AH&セントウルSの週中には発行しないとなあ」ということで、およそ1週間半の突貫工事で仕上げることになりました。

 いや、競馬関連の分析、考察、執筆に関しては、自分はかなり速筆な方だと思い上がっていたんですが、甘くないですね。でも、応援のお言葉とカフェインのおかげで、ありったけを妥協なく詰め込んだ一冊ができたと自負しています。

 おこがましいお願いになりますが、もしこのマガジンを面白いと思っていただけたら、ぜひみなさま、競馬仲間に紹介などしていただけると幸いです。駆け出しフリーランスにはとにかく知名度が必要なのです。

 そして次回以降で書いて欲しいネタや、その他要望あれば、ぜひTwitter(X)のリプライとかでいただけたら検討します。全部に応えられるわけではありませんが。

 もっと有名になって、ゆくゆくは「競馬場の達人」とか出たいですね。

 それではまた、通常更新のブログ『競馬ナイト』でお会いしましょう。ありがとうございました!

 

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発行日:2023年9月5日

Ⓒ競馬ナイト,鈴木ユウヤ

 

走る大捜査線の答え

Q1-A:ヨカヨカ

Q1-B:フェーングロッテン

Q2:2018年大阪杯。勝ち馬スワーヴリチャード

Q3:ヌーヴォレコルト。ヨコハマの発言から、ウソつきはトサカかヨコハマに絞られる。よってカワナとロメーロの発言は正。そして、GⅠ・2番人気で単勝9倍以上の優勝はJRA史上あのオークスしかない。ちなみに、ウソつきはヨコハマで、ディアドラの話をしている。

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