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エゴイストの告白

穴がね、開いてるんですよ。
もうずーっと昔っから。

さあ、もうずいぶん昔からだから、何が原因で何がきっかけなのかもわかりません。特定できないって言ったほうが正しいかな。

でもね、その穴は変わらずあるんです。

一歩間違えればまっさかさまですよ。どれだけの深さがあるのか、どこに繋がっているのかも知りません。
ただね、もうひたすら暗い。

…いや、暗いじゃないな。

「黒い」。そう、黒いんですよ。黒過ぎて奥行きもわからないくらい。
目の前の地面に世界一黒い塗料を塗ってるだけかもしれないし、地球の裏側まで続く空洞かもしれない。奥深くには魔物が口を開けて待っているかもしれないし、楽しい異世界が広がってるかもしれない。

そんな穴にね、持っているものをどんどん放り込んでいるんです。

得体のしれない穴を埋めようとしているんですよ。
目の前にそんなものがあったら気持ち悪いでしょ?だからとにかく自分が持っているもの全てで埋めようとしているんです。

もう長いこと続けてますよ。
途中でやめた時期もあったけど、戻ってきちゃいますね。だってもう、人生におけるルーティーンの一部ですから。やらないと気持ち悪いんですよ。

排泄や嘔吐みたいなもんだって、前回お話したじゃないですか?ほんとそれ以上でも以下でもないんです。
もう趣味とも言いがたいですね、ここまでくると。食事はともかく、排泄を趣味にしてる人なんていませんから。

ああ、それとね。一切他人を気にしてないんですよ。

トイレ行くのに「嫌われるかも」なんて考えないでしょ?
「掃除に使う洗剤がみんなと違ったらどうしよう」「二日酔いで吐いちゃったけど、きれいに後始末できたから誉めてもらおう」とか。考えませんよね。

それと同じことで、穴を埋める作業に他人の評価を求めていません。
自分が勝手にやってることだから。

そこに対して、やれ下品だのやれ美しいだの、人様の審美眼や尺度ってあんまり重要じゃない。

他人を動かしてやろうとか、感動してもらおうとか、微塵も思ってませんよ。そんなこと気にした時点で、穴埋め作業なんてできやしない。

そもそも、自分と他人では考え方も受け取り方も違いますからね。似てる人もたくさんいるけど、でも絶対に合致はしてない。
そこを踏まえたうえで、淡々と穴を満たすための何かを投げ込んでるだけなんですよ。

たとえばね、これはちょっとファンシーな空想なんですけど、この穴が魔法の国につながってるとしましょう。

ある日、その国に住む一人の女の子が町中を歩いていたら、コツンって音がする。
振り返ると、石畳の上に薄汚れた小さな木箱が落ちてるんです。何となく空を見上げると、太陽がまばゆい光を放ってる。

天からの贈り物に違いない。

その女の子は木箱を家に持って帰って、こわごわ蓋を開けるんです。

そこには小さなスノードームが入っていて、キラキラと輝いてる。
この国は科学が未発達で、スノードームなんて女の子は見たことがなかった。
だから「なんて素敵な贈り物だろう」って飛び跳ねて喜ぶ。

ここで終われば「魔法の国の不思議なおくりもの」みたいなタイトルの物語、その序盤くらいにはなるんでしょうね。

でもそのスノードームが、別世界のやさぐれた大人がかつての記憶を科学力で凝縮しただけの物体だったら、どうでしょうか。
とたんに夢も希望もない話になりませんか。

数少ない幸せな記憶を、あるいは悲しい記憶を、言葉でコーティングしたものが、ある人には美しく、またある人には醜く見える。

だからね、他人の評価なんてあてにならないものですよ。
そんなの気にしていたら、この黒い──浅いのか深いのか、そもそも穴なのかわからないようなもの──を埋めようとするなんて、できません。


ちょっと、突飛なたとえ話をしてしまいましたね。

でも、これが答えです。

埋まらない穴がそこにあるから。
穴を埋めようとするのは生きるための活動だから。
埋めるために投げ込むものへの評価を微塵も気にしていないから。

まとめると、こうですね。

でもこれだけだと尺がもたないし、あまりにも淡白だからちょっと肉付けしてみました。
もし「意味がわからない」と感じたら、いつでもお声がけを。

では、また。



録音を切って、軽く編集する。
ちょっとした間や、「あー」「えー」といった余分な声をカットする。

最初は四苦八苦していたが、簡単な編集作業のみだから今は片手間でできる。

気まぐれにラジオ配信を始めてまだ日は浅いが、一人で淡々と話すのは存外性に合っていたようだ。「相手を傷つけないように」「相手が気持ちよくなるように」をリアルタイムで実践するより、ずっといい。

もし不適切な発言があれば、録り直せばいいのだから。

今回は、数少ないリスナーが送ってくれた質問のアンサーにした。
ネットで細々と創作を続けている私に、きっと何となく寄せてくれていたのであろう問いかけ。その答えを私は今朝まで考えたことがなかった。

欠落した部分を満たすため。
そう言えたら楽だったけれど、言ってしまうと何が「欠落」しているのかまで語る必要があるだろう。

もはや隠す気もないけれど、私の創作物を読んでいる人は薄々気付いているはず。このリスナーも然り。

単純に、自分を語ることに飽きていた。だからあえて「穴」という言葉を選んだ。

質問はこうだ。

「 なぜ書き続けられるんですか?」。












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