鮮烈グラデーション
昼と夜の間を、西から東へ飛ぶのが好きだ。
飛行機で移動するとなったら、可能な限り夕刻発の窓側の席を取るようにしている。
日が暮れる頃に飛び立って東へ向かうと、いつもは向こうからやってくる夜を、自ら迎えに行くような気分になる。
また、ある時には、普段は気にも留めない地球の自転・公転に想いを馳せたりして、「本当に地球って丸いんだなぁ」とか「本当に太陽を巡る惑星に生きてるんだなぁ」なんてことを考えたりもする。
時間の流れ方や瞳に映る景色が、いつもと少し違って感じられる特別な時間。
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離陸から暫くして、窓の外が深い藍色に染まってきた頃、そっと後方を振り返ると、数分間だけ、鮮烈なグラデーションが見える時間がある。昼が夜に溶ける直前の、細い帯のような鮮やかな橙の光線だ。
私はあの瞬間がたまらなく好きで、出来ればずっと見つめていたいと思う。
だけど、目の前の光は刻一刻と変化する。数分後には、昼は夜に飲み込まれて、目の前から消えてしまう。そして更にその数分後には、もう、心奪われた"その"光を正確には思い出せなくなっている。
飛行機は、何事もなかったかのように、夜の空を時速800kmを超える速度で飛んでいく。
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永く記憶に留めておきたくなるモノというのは、どうしてこうも刹那的で儚いのか。
必死に脳裏に焼き付けようとしても、寧ろ必死になればなる程、記憶の器からぽろぽろと零れ落ちていってしまうように感じる。
永遠には続かない。
二度と同じモノには出会えない。
いつかきっと忘れてしまう。
そういうどうしようもない切なさは、"今この瞬間"への意識を高める。目の前の景色が移ろうスピードに合わせて、時間感覚が変化する。1秒よりももっと細かな単位で、"今"を感じるようになる。そして、五感で感じる悦びは、更に切実なものになる。
「綺麗だ」とか「美しい」という言葉だけでは足りない。それだけでは説明できない。
もしかしたら、あれが「愛しい」という感覚なのかもしれない、なんて、ぼんやりとそんなことを考えた。