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「雨の方程式」

Case 1. 平野春樹
 梅雨が明けたのに八月の最初では珍しい雨。小さい頃は雨が降るたびに外に出てびしょ濡れになって、お母さんに風邪でもひいたらどうするの。ってよく怒られていた。でもそれだけで楽しかった。笑顔だった。あれだけで楽しかったのに、僕はいつ、どうしてこうなってしまったんだろうとなんだが虚しくなる。
雨は傘をささないといけないし、傘を忘れてしまったら走らないといけない。どうせ濡れるというのに。。当然そこに笑顔はない。雨は世界を暗く、悲しくさせる。なにより、モチベーションが上がらない。
 傘というのは平安時代前後から日本にあり、昔から原形をとどめている。コンピューターやインターネットが普及して時代が変わっていく今日でも、人々は雨が降るたびに、もしくは強い日差しを避けるために傘を使っている。容姿は変わっても中身は変わらない。しかも、しっかり自分の芯を持っていて、悲しみと寂しさ、寒さ、暑さなど嫌なことから人々を守ってくれる。長く愛されている理由がわかる。人間でいうと果たしてどれ程の人が傘みたいな存在か。僕は今まで会ったことはないが。
 僕は天気予報をチェックしていなかったので、雨が降るとは分からなかった。途中で雨宿りしては走って、そしてまた雨宿り。朝から労力がいる。これだから雨なんて。。そう思い続けていた。雨に対して憎しみをぶつけていたが、無数に振り続ける水の小さな粒たちにそんなことをしてもキリがない。そこがまた雨の図々しいところだ。
 あぁ、この世界から雨が消えればいいのに。無数の雨は僕の気持ちを映していた。

Case 2. 雨宮百香里
 八月の最初では珍しい雨。梅雨が明けて、テンションが下がっていたところになんというサプライズ。1週間前に作った逆さてるてる坊主が頑張ってくれたんだ。
雨は小さい頃から私をわくわくさせてくれる存在。地面や人々の傘、葉っぱに落ちる音。そして水溜りを踏む音。川に落ちる雨の美しい波紋。窓に落ちた雨が外の暗い景色を水玉模様にしてくれる。そして何と言っても雨特有のこの匂い。これが本当にたまらない。まるで美味しいコーヒー屋さんで飲むコーヒーを、あるいは高級レストランで1本何十万円もする高級ワインを嗅ぐみたいだ。
 私の人生は雨と共にたくさんの思い出で溢れている。あの頃片思いしていた先輩に告白して見事にフラれた時も雨。そのあとは雨がわたしの涙を洗い流してくれた。また、おばあちゃんが天国へ旅立った時も雨だった。喪失感で穴が空いたわたしの乾ききった心を潤してくれた。そう、雨は優しく温かい存在。
たくさんの人は雨が嫌いだというが、わたしにはその気持ちがわからない。逆に好きなところしかない。
 あぁ、毎日雨が降ればいいのに。無数の雨はまるでパレードのマーチングバンドの様にわたしを歓迎してくれていた。