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通訳翻訳フォーラム 参加メモ:前編 (2/3)

「日本通訳翻訳フォーラム2020」で学んだことから、英語教育・英語学習に使えそうなことを拾ってシェアしています。第2回です。
※セッションの内容を伝える「まとめ」等ではありません。


2. 高橋さきの、白倉淳一「通訳・翻訳・ことば――「語順」を手掛かりとして」 より

このセッションでは、第1回でも触れた語順の問題がより深く掘り下げられました。

・英語と日本語のように言語間の距離が遠いペアの場合、語順は変えざるを得ない。
・でも、原文の語順を残して、原文に引っぱられるのはいけない。
・読み手・聞き手は「この先どうなるか」という全体像を知らない。読み手・聞き手の目・耳には、情報が語順の順に入ってくる。
・同時通訳など、英語の語順でぶった切るしかない場合があるが、そのときにも「それをやると意味が変わってしまうことがあるんだ」という点を忘れてはいけない。

「自然さ」につながるお話も。やはり共通することが多いです。

・「最初からその言葉で書いた・話したら、こうなる」について、普段から整理しておく。
・大切なのは、何を印象に残すか。日本語では前半の印象が残らない。たとえば、"A is B because C is D." と「CがDであるから、AはBである」では、語順は入れ替わっているが、受ける印象は原文に近い。
・ロジックよりも、それぞれの言語の強弱に合わせる。

前回のセッションからちょうど1週間。適度な時間を置いて、これだけ近い内容を学ぶと確実に理解が深まり、記憶が定着しますね。学習における spacing effect を実感します。

私が英語学習と重ねて考えたのは、通訳者・翻訳者の語彙というお話の中で登場したベン図です。「ふだん使う表現(青)」と「翻訳で使う表現(赤)」を、「学習者の母語=日本語で使う(青)」「目標言語=英語で使う(赤)」に置き換えて聞いていました。

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・“本来の状態”では、外円がだいたい一致して2つが重なりあう(紫)。“困った状態”では重なり(紫)の左右に、「ふだん使うのに、翻訳で使えない表現(青)」と「翻訳でしか使わない、ぎこちない表現(赤)」が生じてしまう。

学習者の英語では、「ふだん使う/日本語で言えること」のうち、「翻訳で使えない/英語で言えないこと」(青)が大きいです。学習とは、この青の中に紫を増やしていく作業なわけですが、実際には、学習が進む中での勘違いや理解不足によって、赤のまま円の外側に出っぱった部分ができてきます。

赤の部分は円をいびつにしますから、なるべく青の方へ取り込んで紫にしていきたいところです。とはいえ、学習者が自分で赤の部分に気づくのはかなり難しいでしょう。コーチとしては、やはり学習者の英語の「ぎこちない」部分をいち早く感知したうえで、それを溶かして円の中へ入れられるよう、最適なタイミングと方法で気づきを促すことが大切だなと感じました。そうすることで、自分の言語能力が全体的にまあるく、大きく育っていく感覚を学習者に味わってもらいたいと思います。

語順も自然さもベン図も、すべてのお話の根底にあるのは、ズバリ「原文を正確に理解すること」です。お二人とも、この点を繰り返し強調していらっしゃいました。

・原文の中で解決できることは解決しておく。徹底的に読み、悩み、整理する。
・状況・情景を思い浮かべる。絵に翻訳する。イメージを描く。他の人に説明する。消化、理解する。
・候補となる訳を出し尽くす。文脈などを踏まえて、どれを採用するか決める。
・悩む中で原文に戻る。
・「辞書などに載っている文と同じだったからよかった」ではなく、大事なのは “正解” を含む候補を3つ4つパッと出せるかどうか。

いわゆる“英語ペラペラ”への憧れが強い学習者は、「きちんと理解する」というプロセスを面倒がることがあります。半わかりのまま、走りだしてしまうのです。そんな学習者をいかに立ち止まらせ、我慢強さを養うか。コーチの腕の見せどころでしょうね。

最後に、「高校英語のぎこちなさ」について質問してみました。高校英語がぎこちないのは、初学者だからしょうがないと割り切るべきなのか。目的が通訳や翻訳でなければ、むしろ不自然な方が有益なのか。あるいは、早い段階から自然な英語を心がけた方がいいのか。高橋さんは「これに答えるのは不可能に近い」と笑ってから、こんなふうに考え方を示してくださいました。

・まずは教えやすく、学習者にとってわかりやすいもので始めるしかない。
・最初は1個。次の段階で2個。プロなら100-200個。そういうステップは踏んでいいんじゃないか。
・学習者がこちらの想定を超える鋭い指摘や的確な表現を出してきたときには褒める。

(つづきます)


Photo by The Climate Reality Project on Unsplash


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