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KEC の文法セッションを公開します (3/3):If

KEC 文法セッションの具体例をお見せするシリーズ、最終回です。

大人の英語学習では「中学英語のやり直し」など、すでに学んだことを思い出し、掘り起こして再び学ぶことが強く打ち出されます。でも、特に中学高校で英語が得意だった学習者には、学び直しに加え、学校で習わない部分にも光を当て、すでに持っている知識を存分に生かすよう促すことが有効です。

英語を教える先生やコーチの方はよくご承知だと思いますが、いわゆる学校英語がカバーする範囲は意図的に狭く設定されています。授業や採点の時間と労力、クラス単位での生徒の能力のバラつきを考慮すれば当然のことです。また、定期考査や受験では主に筆記試験によって判定できる能力が問われますから、「テストに出る問題」に注力し、テストに出ないものは省略する傾向が強くなります。もちろん、日本のテストで頻出だからと言って英語を使う人々の間で同じようにありがたがられているわけではありませんが、そうと知りながらも背に腹はかえられないというか、目をつむらざるを得ない。教育者としてはツライところです。

幸い、このことは学習者もある程度わかってくれています。たとえば外国などに行って、学校で習ったのとは異なる語彙、表現、発音などに出くわした場合、学習者はさほど抵抗なく受け入れることができます。スラングや方言、流行語などもあっという間に吸収します。「学校で習わなかったことを学ぶ」というのは、案外うれしいものなのかもしれません。

ただ、文法については少し事情が違うような気がします。「学校文法」への信頼があついのか、文法だけは学校で習ったまま固まっていて、それ以上に学ぶ機会を逸しているケースが目立ちます。

今回ご紹介する脳にやさしい文法セッションは、受講生Bさんと「If」です。Bさんは日常的に英語を使い、語彙や表現を貪欲に学ぶ努力家。ご自分でも「勉強が好きなタイプ」とおっしゃいます。職場でネイティブ、ノンネイティブの英語話者とやりとりする中で「もっと対等な立場で、自信を持って発言できるようになりたい」と思うようになり、KEC のプログラムを始められました。

文法セッションは、Bさんが職場で録ってきたオンライン会議の音声をもとに書き起こしを終え、評価のステップに入ったところで発生しました。

文法項目の提示

コーチ:実際のパフォーマンスを振り返って「もう一度チャンスがあったら、ここをこうしたい」というのが出てきましたね。ここで念のため「If」の使い方を確認しておこうかと思いますが、どうですか?
Bさん:あぁ、そうなんですよね。自分でもなんかちょっと曖昧になってるなと思ってました。
コーチ:そうでしたか。たとえばトランスクリプトだと、X行目でしょうかね。
Bさん:はい、あとY行目とか。
コーチ:さすが。よく見えてますね。

学習経験が豊富で自立心がある学習者の場合、イントロは手短にします。ここで時間やエネルギーを節約できれば、後半でみっちり練習したり考えを深めたりするのに使えるからです。学ぶ意味や意欲を確認したら、とっとと次の段階へ進みましょう。

学習者の現在位置を確認

コーチ:では、「If」について知っていることを教えてもらえますか?
Bさん:まず、仮定法に使う。If の節と主節があって、「もしこうだったら、主節のことが起きる」の意味になる。
コーチ:はい。確かに学校では「仮定法」と習いましたね。「仮定法」ってどういうことですか?
Bさん:仮の話というか…。現実にはそうじゃないけど、もし仮にこうだったらと仮定して、その前提で話をするときに使うもの、と思ってます。

Bさんが学校英語を真面目に学んできたことがわかります。基本的なことがおさえられていれば十分なので、ここでは深堀りせずに先へ進みます。KEC の受講生の目的は英語を上達させることですから、言語学者のように文法について詳しく説明できなくても構いませんし、それを目指す必要もありません。

コーチ:たとえばBさんのお仕事で実際に使う「If」の表現には、どんなものがありますか?
Bさん:「If that would happen, we will have to change the schedule.」
コーチ:そうですね。"that"は現実には起きていないけれど、起きたとすると、"we will have to change the schedule" ということですね。こうした構文を、ESL では conditional と呼んでいます。
Bさん:あぁ、「条件」。そうか。「仮」とは違いますね。
コーチ:違うというほどでもないのですが、「条件」の中に「仮の話」が入っていると考えるといいかもしれません。
Bさん:確かに。条件か。

脳にやさしい文法では、「仮定法過去完了」のようなイカツイ文法用語を使うことはあまりありません。用語を覚えるより、具体例を使って慣れることの方が大切だからです。ただし、ここで出てきた「conditional」のように、学習者があとで情報を検索することを想定して、あえて用語を伝えることもあります。何が有用で、何が余計かは一人ひとり違いますから、いま目の前にいる受講生の個性や前頭前野の状況に応じて提供する内容を変えます。

具体例と用法の確認、練習、まとめ

コーチ:"conditionals は大きく分けて、0、1、2、3の4タイプがあります。先ほどの "we will have to change the schedule" は未来の話なので、タイプ1か2になりそうです。
Bさん:あ、現在形か過去形かってやつでしたっけ?
コーチ:おぉ、素晴らしい。現在を使うとどうなりますか?
Bさん:「If that happens, we will have to change the schedule.」
コーチ:いいですね。過去だと?
Bさん:「If that happened, we would have to change the schedule.」
コーチ:ばっちりです。この2つはどう違いますか?
Bさん:これから起きることと、起きたこと…。いや、違うな。起きる条件と、起きた条件だから…。あれ?でも、起きてはないんですよね?
コーチ:そうですね。時の流れじゃないとすると、現在・過去で使い分けをするのはどんな場合でしょう?
Bさん:あ、可能性か。
コーチ:そうです。さすがですね。ではたとえば、「コストを下げられる」だったらどうですか?
Bさん:可能性が高いのが「If that happens, we can reduce the cost.」で、可能性が低いのが「If that happened, we could reduce the cost.」

ぼんやりしていた知識が整理され、霧が晴れたように感じると、受講生の目の輝きや表情が変わります。やる気が高まっている様子が見て取れたら、もう1段上へ引き上げることもできます。

コーチ:すっきりしてきましたね。では改めてトランスクリプトを見ると、どうですか?
Bさん:X行目は「If we focused on P, we could achieve our target.」でまぁいいとして、Y行目は絶対「if you look at that」でしたね。なんか意味なく would とか入れる傾向があるんですよ。弱腰になってるじゃないんですけど、言い切れてない感じですよね。
コーチ:素晴らしい。違いがはっきり感じられていますね。「弱腰」とおっしゃいますが、would は丁寧さを出したい気持ちの表れとも言えますから、決して悪いわけではありません。違いを知った上で使い分けができれば、それはBさんのチョイスです。たとえば「言い切ろう」と思ったら、どこに気をつけるとよさそうですか?
Bさん:現在形ですね。would に逃げない。
コーチ:笑 このあたりはchicken or the egg(鶏が先か、卵が先か)かもしれません。言い慣れた頃には「そういえば逃げなくなってた」となってますよ。 
Bさん:そうなりたいです。

残った conditionals の0、3、混合型などについては、次回までにやっておくアクティビティーに入れました。こうすることで、セッションでは優先順位の高いものに集中すると同時に、プログラム修了後に独り立ちすることを意識させ、自分で調べて学ぶ習慣をつけさせることができます。


Photo by Francesco Gallarotti on Unsplash

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