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「私の英語力、落ちてる」と感じるとき

英語を学ぶ人、特に大人の学習者は「以前に比べて英語力が落ちている」と感じることがあるようです。たとえばアメリカ留学を経験した人が「日本に帰国してから英語がすっかり下手になった」など。「わかるー」と共感する人、あるいは「聞いたことある」という人、多いんじゃないでしょうか。

では具体的にどういう場面で「落ちてる」と思うか聞いてみると、だいたい次の3つのどれかにあてはまります。

①疲れている、焦っている、場の空気にのまれている、緊張している。
②話題についていけない。内容が理解できていない。
③しばらくぶりに英語を使った。

こうして並べてみると気づくかもしれませんが、これらは英語力の問題ではありません。①のように心または体が弱っているときは、よく寝る、リラックスして集中力を高めるなどして、心身の調子を整えることが大切です。②なら必要に応じて関連する情報を集め、知識をつけること。知らなくていい内容なら気にしないこと。③はカンが戻るまで練習すること。音、語、口の動きなどの信号を繰り返し送っていれば、脳は「これは重要なことなんだ」と認識してしっかり記憶してくれます。

学習者本人が「自分の英語力が落ちた」と感じるのは自由ですし、そう信じたいのならそれはそれで構いません。「以前できていたんだから、今の自分にだってできる」と奮起することもあるでしょう。過去の栄光は、ポジティブに利用すれば今後の成長につながっていきます。

もし「落ちた」と感じることで凹んだり焦ったりするようなら、それは学びの妨げになります。「以前はもっとできていた。それに引きかえ今の私は…」と言いたくなるときは、事実より感情が強く働いています。おそらくあなたはショックを受けて傷ついているのです。心の傷は、脳的には体がケガを負ったのと同じ。手当てが必要です。いじめないであげてください。

そもそも、「英語力が落ちる」なんてことは本当にあるのでしょうか? ちなみに私は「ない」と思っています。私の知る限り、脳を損傷した場合などを除いて、ある人の英語力が落ちたことを科学的に証明するのは非常に難しいはずです。

もちろん、「英語力は落ちない」と思っていても、上の①②③のような場面を避けられるわけではありません。私も、自分がうまく話せていないなと感じることはしょっちゅうです。

それでも、「落ちた」とは思いません。理由のひとつは、私には自分の英語に満足した経験がないからです。人生の半分以上という長きにわたって英語を使っている私ですが、まだ一度も「英語がうまくなった」と感じたことはありません。「上がってないから、落ちてない」という理屈です。

言葉がうまく口から出てこないときは、「お、サイレント・ピリオドだな」と思うことにしています。サイレント・ピリオドとは、第二言語を習得する中で学習者が発話を控え、黙りがちになる期間のことです。この間、学習者は周りをじっと観察し、情報を吸収して脳内で整理しています。しゃべらないので学習者としての見栄えはいまいちですが、学習においては重要な期間です。サイレント・ピリオドが明けると、学習者は蓄えておいた情報を使って話しはじめます。

サイレント・ピリオドは通常、学習歴が浅い人、特に子どもの言語習得において見られる現象です。でも、別に大人のベテラン学習者の身に起きてもおかしくはありません。うまくしゃべれない日は、周りをよく観察して情報を蓄えておけばいい。そう切り替えることで、次のパフォーマンスが良くなる可能性が高まります。

英語はいつからでも上達できます。私の英語は、過去のどの時点より、今の方がマシだと思います。うまくいかない日はやっぱりちょっと凹みますが、なるべく早く気持ちを切り替えて、うまくなるための行動をとるようにしています。


Photo by Jason Leung on Unsplash


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