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【工房雑記】陶芸家さんの手仕事と心。

仕事部屋を見せてもらえませんか、と突然言われたらドキッとする。だって、プライベート空間なわけだし、誰でも入ってオッケーよなんてことはありえないなぁと思う。

だから、陶芸家さんの工房へいくときはいつもソワソワする。連絡をとって日時を決めて、準備する。服装はどうしようか、多少汚れてもいいような、でもだらしくない服がいいかな。作陶の合間に食べれるような手土産なんかも持っていこう。確かあんこが好きだと言っていたはずだから、あのお店の大福にしてみよう。聞きたいこともまとめておいて、カメラの充電やメモ帳も忘れずに。2度目、3度目の訪問でも毎回こうして準備しながらソワソワする気持ちはずっと変わらない。


2月に入ってから、陶芸家・吉川仁さん、尾形アツシさん、脇山さとみさんの工房をおとずれた。こんなに短期間で一気にいったことはなかったのでひとり工房ツアーをしているようでとてもたのしかった。おおよそ1年ぶりに会う陶芸家さんもいて、お互いの近況を話しながら、ゆっくりとうつわを選ばせてもらった。

私はほんとうにラッキーだなと思う。だって、「仕入れ」の名目で工房へいけるんだから。たくさんのうつわを見れるし、陶芸家さんからお話もたっぷり聞ける。と同時に、見えてこなかったこともたくさん知ることができる。

吉川さんの工房では、「薪を割ること」について学んだ。うつわを焼くために必要な薪を、火が通りやすいように1日かけて割るのだそう

薪の断面はきれいすぎると火が通りにくい。しかし貰ってきたり買ってきた薪は断面がきれいだ。だから、割る。ひたすらに割る。人力だと時間がかかるから機械をつかって割る。そんな話をしてくれた。

そもそも薪窯でうつわを焚き続けるということは、温度をあげた状態を保たなければいけない。そのために薪をくべ続け、夜通し焼く。うつわができる最後の過程に必要なのが、「薪」なのだ。

吉川さんが宝物のように大事にしている陶片も見せてもらった。

これは焼く過程で割れてしまったものなんだけど、吉川さんが尊敬する陶芸家さんの工房でもらってきたのだそう。言ってしまえばただの破片。でも吉川さんは、目を輝かせながらこの陶片のすばらしさを語ってくれた。この陶片がひとりの陶芸家を育てたのかもしれない、と思うと胸が熱くなった。

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尾形さんの工房は雪がすこし積もっていた。なかに入ると土と灯油が入り混じったにおいがした。寒い日が続く中でもストーブをガンガンたいて、うつわ作りに励んでいる様子が伝わってきた。

私は尾形さんのうつわに表現されている「ヒビ模様」が大好きで、そのことを伝えると日々工夫していることを話してくれた。土や釉薬を変えて、色んな組み合わせで実験したことでうつわが生まれているということを改めて知れてなんだかうれしくなった。おなじ「茶碗」でも、表情がさらに豊かに見えてきたので、気に入ったものをいくつか選ばせてもらった。

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脇山さんとは、5時間近くお喋りした。お茶とお菓子をつまみながら、今まで聞いてみたかったことをたくさん質問した。お客さんとのエピソードも一つひとつ伝えた。そのたびに心からうれしそうにリアクションしてくれる脇山さんが、やっぱり私は好きだなぁと確信した。

工房にいるだけで、力がみなぎってくるようだった。うつわを選ぶときも、一つひとつのうつわとお喋りしながらじっくり選んだ。うつわ目線のアングルから私のリアクションを見たら絶対におもしろかったと思う。ひとりブツブツ言いながらこれだ!というものを選び抜いた。

こんなところで脇山さんの絵付けは生み出されているのか。こんなところに座って、こんなにたくさんの筆があって..なるほどなぁ、となるべくゆっくり呼吸しながら目に焼きつけた。

色んな工房をおとずれて毎回思うのは、いくたびにうつわも陶芸家さんも好きになるということだ。関係性が濃くなって、選ぶものも厚みが増しているような気がする。お店に連れて帰ってきたうつわたちは、超自信をもっておすすめできる。そんな手応えがあるなぁと、今回あらためて思った。

同時に、世に出ていないうつわ、いわゆるB品と呼ばれるうつわが実はたくさんあることも感じた。「これはピンホール(穴)ができちゃってね」「これはかたちがイビツになってしまってね」「商品として出せないんだよ」..など。でも、しっかりと輝いているように私には見えるものばかりだった。

世の中では、「きれいなもの」が求められている現状を知った。ただそのなかでも個人的にいいと思ったのは仕入れてきた。機能的にはぜんぜん問題なく使えるもので、むしろ「B」にあたる部分がいい景色であると感じたものだ。

よくお店でお客さんに伝える言葉、

「薪で焼いています」
「ヒビの表情が豊かです」
「素敵な絵付けです」

この裏には、陶芸家さんの手仕事がある、心がある。
そんな景色の広がりを、今回見せてもらったような気がするのです。

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うつわと暮らしのお店「草々」

住所:〒630-0101 奈良県生駒市高山町7782-3
営業日:木・金・土 11:00-16:00

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