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うつわのデザインや表情、そして家族のこと。陶芸家:見野大介さんインタビューを終えて

2/3に奈良新聞で陶芸家・見野大介さんのインタビュー記事が公開された。

見野さんの人柄や作品がよく分かる話をたくさん聞かせてくれたので、よかったら見てください。そして、奈良新聞は今年からデジタル版にも力をいれて、奈良の魅力をたくさん発信していくということ。私もライターとして参加させてもらうことになりましたので、よろしくお願いします!
プレゼント企画もありますよ。


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見野さんは、記事でも書いたようにおだやかでやさしい雰囲気をまとった人。話を色々聞いていくと静かに灯る野心はしっかりあって、自分の思想がはっきりしているからか言葉もすらすらと出てきてたくさんの話を聞かせてくれた。陶芸家になるまでの苦労や、いま直面してること、陶芸のおもしろさ、師匠とのエピソードの数々...

書ききれなかったけれど、もう少しだけ紹介したいネタがある。そこでせっかく(?)なので、このnoteでは「番外編」的な立ち位置でマニアックなこぼれ話を紹介したい。

波紋デザインが生まれたきっかけ

見野さんのシリーズで人気なのが、波紋をイメージして形どったうつわだ。

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スタイリッシュな見た目だけど、実物は少し厚みと重みがあって表面がデコボコしている。勇ましくて無骨な男性が使いそうな雰囲気が、このうつわにはある。

私は今までこういうタイプのうつわは持っていなくて、最初見たときは「デコボコしていて使いにくいかな...?」と思ったのだけれど、実際に使いはじめてから、このうつわの奥深さに魅力を感じている。この上に食材を載せるとうつわの厚みから高さが出て、テーブルに並べるとメリハリがついておいしそうに見えるのだ。ゆるやかにカーブを描いた立ち上がりも横から見るとかわいい。

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私は今まで高さを出したいときは平面的なうつわに盛り方を工夫したり、高台が高いうつわばかりを選んでいたものだから、「なるほど!こういう楽しみ方もあるんだ!」とこのうつわに出会って得した気分になった。更に面白かったのは、このデザインが生まれた「経緯」について。見野さんはこう言います。

これは弟子入り時代に生まれたデザインなんです。
仕事終わりの空き時間に何か作ろうとウロウロしてると、たまたま床に転がってた鉄パイプに目が止まりました。これを装飾に使えないかと思い、粘土に押し当ててみたら良い感じの模様になりました。
それから数年経って、妻から「サンマ皿を作ってほしい」と要望があって、どんなデザインにしようかなぁと考えていたところ、弟子入り時代に遊びでつくったデザインを思い出して波紋シリーズを作ってみたんです。

昔、遊んだ記憶が数年後、ものづくりをするときにふっと蘇ってくる。遊び上手な人はこうやって色んなところにアイディアの引き出しを持っているんだろうな。

さらに表面のデコボコについて、見野さんは、

波紋シリーズのデコボコは、食材の水分や油分が溝に落ちることが狙いです。たとえば焼いた食パンを平面的な皿にのせると密着で水分がたまって裏面が湿っぽくなってしまうと思います。天ぷらも、これくらいデコボコがあると油を落とせますよね。

この話を聞いたとき、私は唸った。この模様は「映え」だけではなかったのだなぁと。おいしく食べる工夫を、ちゃんと入れ込んでいるのがまさにプロの仕事だなと実感した。

釉薬と焼き方で決まる、うつわの表情

見野さんのつくるうつわの色は、単色からグラデーションまで幅が広い。

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うつわの色はおおよそ、土の色×釉薬の種類×焼き方の掛け合わせで決まり、できあがりの表情を大きく左右する大事な要素だ。
釉薬のつくり方は陶芸家さんによってまちまちで、出来合いのものを買ってしまう人もいれば、調合は全て自分でやる人もいる。その分時間も手間もかかることだが、見野さんは後者でやっている。

釉薬と焼き方のおもしろさについてこう話してくれた。

同じ釉薬をうつわに塗っても、焼き方によって完成する色は大きく変わってきます。私は電気窯を使っているのですが、窯で作品を焼くとき、酸化(十分な酸素がある状態で焼かれる場合)と還元(酸素が足りない状態で焼かれる場合)で2つの焼き方があって、仕上がりの色は違う色になります。

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還元で焼く場合は、炎が酸素をほしがるので、うつわから酸素を奪うんです。その強弱や高低差でも変わってきますね。例えばこれは最近同じ釉薬でつくったうつわたちなのですが、焼き方を変えるだけでこんなに違います。

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「えぇ!」って思わず大きな声を出しちゃったほど、この違いにはびっくりした。一番右のうつわなんて、宇宙みたいな青い色。全部同じ釉薬でこれだけの表情が出せるなんて驚きだし、さらっと説明してくれたけど本当はきっとより複雑なことなのだろうと思う。見野さんが "強弱や高低差 " と話していたことからも分かるように単純に焼き方を変えればいい話だけではない。この話を聞いて「安定してつくる」ことの難しさも少しづつだけど分かってきた。

インタビュー後の再会、家族のこと

インタビューが終わって、年が明けた1月。なんと見野さんは家族で私が働くお店「風の栖」へ遊びに来てくれた。春日大社へ初詣へいった帰りに奥さん、2歳の息子さんと3人で。息子さんはベビーカーにのっていて、初詣ではしゃぎすぎたようでスヤスヤと気持ちよさそうに眠っていた。
奥さんは本当に明るく人当たりがいい方で、見野さんを影で支えているんだなぁと存在感の大きさを何回か会って感じた。グイグイ前に出てくるわけではないけれど、見野さんが気持ちよくうつわづくりに励めるようにしっかりと強い足腰で支えている、そんな印象だ。私が訪問したらサッとお茶とお菓子を出してくれるし、さりげないトークも面白くて盛り上げ上手。在庫チェックやお会計のときの梱包は素早く丁寧に。子どもを育てながらサポートする姿を見て、女性としてかっこいいなとも思ったし、いい陶芸家にはいい奥さんをはじめとして家族がついているんだってことも見野さん家族から教えてもらったようだ。

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息子さん、将来は陶芸家になるのかな?楽しみ。

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ほかにも色々エピソードはあったけど、ひとまず番外編はこれで終わり。見野さん、たくさんお時間いただき本当にありがとうございました。うつわ、大事に使いますね。


〈見野大介さんのウェブサイトとインスタを紹介します〉

陶芸工房 八鳥のウェブサイト↓


インスタ↓

見野さんは不定期で陶芸教室を開いています。1日完結で、けっこうなクオリティのものができあがります(私も生徒さんがつくったものを見てびっくりしたほど)
陶芸教室に参加しなくても、工房では見野さんの作品を見れますので奈良に来た際にはぜひ遊びにいってみてくださいね。

また、見野さんの作品は京都のうつわ屋「若葉屋」さんでも取り扱いがありますよ。


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