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ちょっと着てみてくれない?

私が働くならまちのお店、「風の栖」で新しいカタログができた。ありがたいことに、今回私の文章も載せてもらった。


タイトルは、「ちょっと着てみてくれない?」

ちょっと着てみてくれない?

新しい洋服ができあがったとき、少女のようなキラキラした目でオーナー村上は私に話しかける。
ワンピース、Tシャツ、パンツ、スカート…縫いあがったばかりの洋服は心なしかあたたかくて、誰よりも先に袖を通すワクワク感で心が踊る。

試着室から出てくるとみんなで集まってワイワイ意見を言い合う。
襟元はこれくらい開いた方がいいとか、丈はこれくらいがいいとか、思ったことを・遠慮せずに・言いたいだけ・話し合う。
私ははじめてこの光景を見たとき、心から「いいなぁ」と思った。
ちゃんと自分たちが心地いいと感じるものをつくる。
その意識が当たり前のこととして一人一人に根付いていて、それに向けて日々洋服づくりをしている。
だからこそ、できあがったものへの愛着はより大きくなる。
何回か試作を経て完成したものを見たとき、
みんなから出る第一声はおおよそ「素敵!」か「ほしい!」だ。
お客さまにも自信を持って「これ、いいんですよ」と言える。
だって私たちが心地よくて好きなものをつくっているのだから。

「ちょっと着てみてくれない?」
このかけ声は風の栖にとって、新しい洋服が生まれる合言葉なのかもしれない。


風の栖では、ほぼ毎日、新しい洋服ができあがる。
まだ私が働き始めたばかりの頃、「きょんちゃん(私のあだ名です)、ちょっと着てみてくれない?」と声をかけられた。それはシンプルな黒いワンピースだった。平常心を装っていながら内心は超どきどき。世界で一番早くこの洋服に袖を通すよろこび。試着室の鏡をみて、誰よりも早く洋服をまとった新しい自分に出会うワクワク。

そして次に、この洋服を着るであろう人たちのことが思い浮かぶ。

どうしたら、どんな体型や身長の人にも着てもらえるのだろう?
どうしたら、長く大切に使ってもらえるのだろう?

みんなで集まって真剣に話し合う。つくるからには、私たちにとってもみんなにとってもいいなぁと思うものをつくりたい。自分たちの理想と好きを重ね合わせてものづくりをする。そうして生まれたものは私たちにとってかけがえのなく尊いもので、好きの押し付けではない自信がある。
それを少しでも多くの人に知ってもらいたし、届けたい気持ちがある。

今回、パンフレットの表紙にはこんなことを書いた。

毎日、たくさん喋って、笑って、食べて。豊かな輪を広げていきたい。

この言葉は、私が風の栖ではたらく日常を表す言葉だ。
毎朝、出勤のときはドキドキしながらお店へ行って、仕事がはじまると気づいたら心がほぐれている。それは、たくさん喋って笑って食べているからなんだろうと思う。帰り道には足取りが軽く元気になっている。明日はこんなことやりたい、とかアイディアが湧き出てくる。そんな毎日が奈良にきてからずっと続いている。

ここ最近はとくに、私にとってこの言葉がより一層染み入ってきた。

毎日流れるニュースを見ながらやり場のない、窮屈な気持ちになる。目の前で起こっていることや先の不安が押し寄せて気持ちがズンと落ちることもあるし、いつも以上に元気にふるまうことだってあるかもしれない。

でも、こんなときだからこそ一緒にはたらく仲間から、日々、元気という名の栄養をもらっている。みんなは本当に共通してよく喋り、笑い、食べる。あえて言葉にはしないけれど、それを見ているだけで「大丈夫だよ」とポンポン肩を叩かれているようなあたたかさに包まれる。

ささいなことでもいいから、こうやって本能的に身体がよろこぶことに素直になって毎日を生きること。その積み重ねが、豊かで満たされた心をつくり、はたらく力、ものづくりの大きな原動力になるのかもしれないなぁと学んでいる。

このパンフレット、しばらく部屋に飾っておこうかな。
明日も明後日も、『毎日、いい日』になるように、ね。

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