無題

ものを買うこと、売ること。

奈良にきてから1ヵ月が経った。
自分でもびっくりしているのが、「いい状態」を保っているということ。想像していたのと違った、などマイナスなことは何もなくて、私の中で最初に描いたイメージ『奈良像』が全然ブレていないことに驚いている。

心地よくて、やわらかくてあたたかい。

8月頃はまだ、奈良行きを迷っていたことがあった。奈良には誰も知り合いがいないし、街がどんな雰囲気なのか、まったく分からない。実家は神奈川にあるし、両親も兄弟も住んでいるし、ずっと関東近郊で暮らすんだろうな...と何となく思っていた私にとって、奈良行きが現実的に視界に入ってきたことは大きな戸惑いだった。ライフプランも変わるし、引っ越しもいろんな手続きも...想像すると吐き気が出そうなくらい大変だ。ふたつ返事で、「行きます!」と言えることじゃなかった。

そんな中、風の栖(今働いているお店の名前です)の人とスカイプで話をする機会があった。わずか30分ほどの短い時間だったのだけど、画面越しに感じた心地よい空気が私を急激に奈良へ近づけてくれた。話す言葉のスピードやトーン、やわらかな表情とすぐにでもその場所に行きたくなるようなふわっとした心地よい空気。スカイプを切ったあと、これはなんだ?と少し動揺して、話したその日は1日中、その心地よさを反芻してふわふわした気分になったし、「奈良に行きたい!行くんだ!」という気持ちがふつふつと、自然に沸き上がってきた。

ためしに洋服も買ってみた。

風の栖で売っている「ひざっこパンツ」。金額は19,000円+消費税で、私にとってはとても大きな買い物で、今まで買ったパンツの中で一番高価なものになった。幸運なことに東京で見れる機会があり、ドキドキしながらお店へ行って試着。パンツに両足を通して鏡の前に立ったときの、リラックスした自分の表情を見て惚れた。なんだろう、これは。ごめんなさい、はっきりと言葉にはできないんだけど、そのパンツを身にまとったときに感じた心地よさには今の私が求めている「全て」があったということは今でもはっきり覚えている。リネン100%でできた、やわらかな生地。よく見てみると、リネンの質感が残っていてざらざらしているし、腰回りがゆったりとしていて動きやすくて、肌あたりが気持ちよくて。このパンツを履くと、なりたかった理想の自分に少し近づけるかも、と思ったし奈良ってこういう街なのかなと、パンツを通じて思いを馳せてみたりもした。

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それから奈良に来ることを決めて、あっという間に1ヵ月が経ったんだけど、最初に感じた「心地よくて、やわらかくてあたたかい感じ」はブレていないし、彫刻をけずるようにその理由がだんだんとわかってきた気がする。

はっきりと言えるのは、この場所には確かな意志が根付いているということ。ずっと守ってきたものやこれから大切にしていきたい「価値」。それが、世代を超えて多少なりともかたちを変えつつもしっかりと伝承されているんだなぁと日々感じるのだ。
奈良は、東京みたいに話題のものが入れ替わり立ち替わりするようなことはない。だからこそ、この場所でしっかり根をはっているものがある。生活で言えば、ものを無駄にしない、とか、昔からあるものを大切に使う、とか。消費とは真逆の「守る」ことを大切にしていて細胞にしみわたっているし、それをベースに新しいものを生み出している。
だからなのか、変に人と比べることで生まれる自信や不安、競争のようなものがなく、どっしりとした安心感と余裕が奈良には鎮座しているし、逆にわざわざ奈良へ来る人にとっては日々の荒々しい生活で見失いかけてしまった自分を取り戻しにくる人が多いのかなって。

そして、その土地で「ものを買う」というのは、取り戻したい時間や価値の延長としてかたちを残す行為なのだと思う。家へ帰っても、旅した土地で感じた心地よさを持ち帰って身に着けることでまた明日からの活力にする。なりたい自分像に近づいたり取り戻したりするためのきっかけにする。
だから、ものを売る側の私たちにとっては、守りたい・大切にしていきたい価値を意識しつづけながらものづくりをしていかなければいけないし、それをベースに価値をブラッシュアップして磨いていかなければいけない。そのためにはやっぱり「伝える」行為、つまりある程度の言語化は必要で、それをすることでものを売る・買う価値の神髄に近づけるのではないだろうか、と最近日々ぼんやりと考えているのです。

どれだけ機能が充実しているのか、素材はどうなのか、コスパはいいのか...ものの魅力を伝える切り口は色々あるけれど、それよりももっと大切な「精神性の部分」を、私もたくさん勉強したり風の栖の仲間やお客さんとも話する中ではっきりさせていって、発信していきたいなと思うしこれは自分にとっての生きる希望にもつながっていくんだと確信している。

なんだか支離滅裂な文章になってしまったけど、つまりはこれからもがんばるぞという所信表明です。これからもよろしくお願いします。

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