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KCFRの成り立ち・機能・ミッション

コクヨと黒鳥社の新プロジェクト《コクヨ野外学習センター》(KCFR)の発足に寄せて、当センターでキャプテンを務める若林恵が、そのミッションを解説。

Text by KEI WAKABAYASHI(KOKUYO Centre for Field Research)

メディア・アズ・ア・リサーチユニット

最近、機会さえあればいたるところで「オウンドメディアなんてやめちまえ」などと乱暴に言い放っているところの主旨は、大きく言うと「編集部」というものの価値や機能に関わる。

編集部というものが「情報のアウトプット機関」であるという考えは、実はありがちな誤解で、旧来の出版社の組織図上、「情報のデリバリー」にあたる領域は編集部ではなく営業部の管轄下にある。なので、情報をプロダクトとして売ったとしてもその収益は、編集部のポケットには入ってこない。つまり編集部という組織は「予算を使うだけ」の部門で、その仕事をメーカーになぞらえれば「調達」や「仕入れ」と「企画開発」の部門ということになる。フィジカルの商品の場合であれば実際の生産、つまり印刷工程を管理する部署は別にあったりするので「生産」のところも実際は管轄外となる。

という事業上の定義から見ると、編集部の価値は、もちろん商品開発能力の優劣によってはかられることになるとはいえ、その能力において最も重要なのは、アウトプットするためのパッケージ化の技術よりも、そもそものアイデアや素材、材料の「調達能力」「仕入れ能力」のところにある。それがないところでいくらパッケージ化の技術を競っても意味がない。つまるところ、編集部というものの役割・価値は、「外の世界からいかに面白いネタを拾ってこれるか」に宿るのだ。

ところが、多くのオウンドメディアというヤツは、メディアやコンテンツを「広告」の延長において捉えているので、「発信」においてメディアをもつことが重要だというふうに考えたがる。結果、あろうことか、肝心要の「編集部」をアウトソースするというまったく主旨から外れた事態がまかり通ることになる。

それがなぜ主旨から外れているかといえば、編集部がメディアの開発を通して開拓された知見や洞察やネットワークといったものが、結局外部に溜まっていくだけになるからで、メディアをもつことは、そうした知見・洞察・ネットワークが内部に蓄積されてこそ価値があるという点を決定的に見誤っているからだ。

要は編集部というものはアンテナであり、耳なのだ。それを外付けにして、そこから得られる情報やネットワークをみすみす外部に渡しているのだから、よほどお人よしとも言えそうだが、世の中には不思議とそうしたお人好しが少なくない。呑気なものだ。

その点、当センターのセンター長で、KOKUYOで長年WORKSIGHTというメディアの編集長を務めてきた山下さんは、抜け目がない。メディア/編集部の機能やその可能性を、世のお人好しが見習うべき理解度・解像度をもってはるかに戦略的に捉えている。

「KCFR」という取り組みは、そもそも「メディア機能を企業R&Dの一環に組み込むことができないか」という山下センター長のお題から発している。一見難しそうなお題かもしれないが、いま説明したような「編集部」というものの機能や役割を踏まえると、何も難しいことはない。編集部というアンテナを企業のR&Dに差し込もうとすることは、編集部に蓄積されていく知見・洞察・ネットワークといったものをR&D部門に差し込もうということに他ならない。

「KCFR」は、であればこそ、メディアを標榜していない。「リサーチユニットとしてのメディア Media as a Research Unit」というのが、その正式な呼称になっており、その主たるミッションは、良いアンテナであること、ということになる。ということで言えば、誠に申し訳ないことだが、人さまに良い情報を提供することはまったくもって第一義ではなく、どちらかというと自分たちの学びになることをやる、ということを最優先にコンテンツは構成されることとなる。

コンテンツの内容についていえば、第1弾として「働くこと」をテーマにした『働くことの人類学』と、ものと消費社会のありようを考える『新・雑貨論』のふたつのシリーズがスタートしたが、いずれも現代社会・経済・文化の行き詰まりを見通すオルタナティブなアイデアを探るという点では共通している。回が進むにつれて、おそらくふたつのシリーズは、それぞれが似た問題系に違った角度から光をあてたものであることが、次第に明らかになっていくはずだ。

ここまで順調に収録も進んでおり、各シリーズごとに月1本ずつポッドキャストとして公開していく予定だが、まずは自分たち編集部にとって、目論見以上に学びの多いものとなっている。山下所長とは毎週定例会議を行っているが、そこもまた業務連絡もそこそこに、毎回、さまざまな学びを互いに共有しあう有意義な場となっている。これこそが編集部をもつことの醍醐味なのにな、と思うことしきり、編集会議というものもまた、自分たちの知見や洞察を磨き上げていくまたとない"フィールド"なのだ。

この編集会議という名の雑談も、どこかで公開しつつ、仲間を増やしていく場にしていくことができないかとも考えている。

コクヨ野外学習センター・キャプテン
若林恵



《コクヨ野外学習センター》のポッドキャスト


《働くことの人類学》 ホスト・松村圭一郎

《新・雑貨論》 ホスト・山田遊

コクヨ野外学習センター|KOKUYO Centre for Field Research

コクヨ ワークスタイル研究所と黒鳥社がコラボレーションして展開するリサーチユニット/メディアです。文化人類学者の松村圭一郎さんをホストにお届けする文化人類学者のディープな対話〈働くことの人類学〉。バイヤー /キュレーターの山田遊さんと黒鳥社のコンテンツ・ディレクター若林恵による雑貨をめぐるトークセッション〈新・雑貨論〉の2番組を配信。

◉企画・制作:コクヨ ワークスタイル研究所+黒鳥社
◉制作協力 :ソングエクス・ジャズ
◉録音機材提供 : ティアック(株)

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