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未来に前進するための「保留」

ミーティングのファシリテーションで時に「結論を保留してください」と伝えることがあります。「まあ、これでいいか」と安易に結論づけようとしているときに言います。結論を目指すミーティングにおいて、結論を保留するのは矛盾を感じるかもしれません。しかし、ミーティングの目的を単なる合意形成ではなく、チームとして新たな発見をする創発に目的を置くと、この「保留」は重要な機能を果たします。

結論を保留することで何が起こるのか

結論を保留すると、自分たちの話していることを客観的に解釈するような対話が起こります。ただし、これには前提条件があります。思考の形跡が残っていることです。例えば、ホワイトボードやふせん紙を使いながらの議論がそうです。いったん立ち止まって、議論の形跡を見ることで、自分たちが言おうとしていることを確認することになります。状況としては、結論に進もうとしていた議論を止めていますので、沈黙が続くことがあります。そこで「何の沈黙ですか」と問うと、それぞれが議論の形跡を見て感じたこと、考えたことを話しはじめます。立ち止まって振返って、感じていることを言葉にすることで、互いがどういう観点で考えていたのか、立ち位置の違いが明らかになります。話しあっている内容は、ホワイトボードで見える化されていますが、それぞれがどのように解釈しているかは見える化されていません。そのため、前提となっている考えがずれたまま議論が続いている可能性が常にあります。ここで大切なのは、そのずれをファシリテーターが直そうとしてはならないということです。ずれを見える化して、葛藤を起こさせるのです。そのような機会が創発を生みます。逆に言えば、ずれを直してしまうとチームが学ぶ機会を奪うことになるのです。

「結論から申しますと」の功罪

報連相においては「結論から話す」ことが強調されます。プレゼンにおいても、いわゆるPREP(Point-Reason-Example-Point)で話せ、と指導されます。結論から話すことで論旨が明確に伝わるからです。スピードや業務の生産性を高める上でこの伝え方をスキルとして身につけておくのは大切なことです。ビジネス環境が、大きく変わろうとしている今、変化に対応していくためにもスピードが求められます。ただし、この伝え方だけに組織内のコミュニケーションが過度に最適化されると、いわゆる忖度が起こります。何も反論が起きないことがゴールになるため、最初に言う結論は意思決定者の的を当てに行くようなものになるのです。ビジネス環境が大きく変わろうとしているのなら、意思決定者や組織の中に根づいている成功体験は常に陳腐化します。結論から話すのを大切にしつつも、立ち止って結論を保留し、前提を良い意味で疑うことも必要になります。

節目があるから成長できる

わたしは、結論を持つことを否定しているわけではありません。むしろ、一人ひとりが結論を持っていることはとても大切です。それぞれが結論や自分の考えを持って集まるから「保留」が機能します。それがない保留はただの先延ばしです。大切なのは、他者を活用して自分の結論をアップデートさせるという考えを持つことです。自分の今のバージョンを知らないとアップデートできません。それを知るためには、自らを振り返る機会が必要です。そして、自分の考えや立ち位置を知るには誰かと話し、違いを発見する機会が必要です。立ち止まっては振返り、対話する。この繰り返しが、チームを前進させます。組織も個人も、そのような立ち止まる節目を意図して作れるかどうかで、成長の度合いが変わります。ちょうど竹が節目を作って伸びていくようなものです。

それぞれの個人や組織、国に節目はあるものです。今は、世界中が同じ節目に立っています。進めようとしていたことが保留される事態が起きています。意図しない保留でしたが、オンライン化が進むなど、結果として前進している部分もあります。立ち止まって、振返り、「それでもわたしはこう考える」「わが社はこう考える」といった対話が創発を生み、未来に前進することができつつあるのだと思います。もちろん、止むを得ずという側面もあるでしょう。ただ、そのことによって新たに発見できたずれや違いもあるはずです。今、わたし達がこの機会に学んでおきたいのは、この保留を良い節目に変える力だと思います。

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