教え上手は、学び上手
先日、建設業の管理職の皆さんと振返りのセッションを行いました。
ひと月ほど前に行った部下育成研修のフォローアップです。部下を育成するための考え方を学んだうえで、1名の部下を対象として、どのように働きかけるかアクションプランを考えていただきました。
行ったセッションは、そのアクションプランを実践した結果、どのような気づきが得られたかをグループディスカッションで振返るというものです。
「教えた」かどうかは「学ぶ側が学んだかどうか」で考える
研修で、伝えたのは以下の10か条です。
これは、向後千春先生の「世界一わかりやすい 教える技術」から引用しました。
この10か条で一番大切なのは、「学ぶ側が学んだかどうか」だと私は思います。相手のことをよく理解して、目指すべきゴールを設定する。そのゴールに向かって、一歩一歩進んでいく支援をするのが「教える」という行為です。
ここには、ある種の学習観が表れています。単に情報や知識をインプットするだけでは「学んだ」ことになりません。インプットを実践した結果、行動が変わって初めて「学んだ」といえます。これはまた、単にできるようになったということでもありません。実践を通じて、今まで持っていた考え方が変化したということです。
相手の「心」は変えられないが「行動」は変えられる
一方で、教える上で大切なのは、考え方や意識が変わることをゴールとせず、行動をゴールとする点です。私たちは、誰かの考え方や意識を直接変えることはできません。知識やノウハウを伝えたり、実践する機会をつくることはできます。ゆえに、ゴールとなる行動を具体的に設定して、それができるように支援していくわけです。
では、どのように行動を設定すればよいのでしょうか。
振返りのセッションで、参考になった例が出てきたので紹介します。
ある現場主任は、現場の事務所を朝来て掃除するのが日課になっています。建設現場は、安全第一です。その基本動作として、現場をきれいにするというものがあります。
その掃除をしている横を若い社員が「おはようございます」と言いながら素通りするそうです。
「おいおい、せめて『手伝いましょうか』くらい言えよな」と思っていました。
他にもあります。
主任が、現場に納入された重量物をトラックの荷台から降ろしていた時です。ふと見ると、若い社員がスマホをいじりながら休んでいました。さすがに、これには腹が立ち、その場で「なぜ手伝わないのか」ときつく叱責したとのことです。
若い社員は「すみませんでした」と謝ったそうですが、どうも響いてないと感じたそうです。
主任の思いとしては、「なんで俺だけ」という気持ちも強いと思います。見て見ぬふりをしているのではないか、そんな風にも感じていました。都度注意を繰り返してきましたが、改善しません。
そんな中、研修で「学ぶ側が学んだかどうか」という考えを聞いたときに、相手の立場に立っていなかったかもしれないと思ったそうです。
…どうでしょうか?
研修でその考えを伝えておきながらいうのもなんですが、なかなかその思いには至らないと思います。「気の利かない奴らだな、もう放っておこう」なんて思ってもおかしくありません。
腹立たしく思いながらも、どこか悲しかったと主任さんは振返っていました。大切にすべきことが伝わっていない、と。裏を返せば、本当に部下たちは、見えていないし、気づいていない。つまり、見ないふりというわけではないと捉えることができたそうです。そして、自分のアプローチを変えてみようと計画しました。
行ったのは、「1日の最後に5分、振返りの時間を取るので、現場で気づいたことを10個上げてください」というものです。ちなみに、主任さん自身も10個上げることにしています。
これは素晴らしい実践だと思いました。
まず、具体的な行動をゴールとして設定しています。そして、アウトプットをするタイミングと方法が明確です。さらには、自分も同じことをやり、ともに振返るようにしています。
まだ、実践自体は始めたばかりです。部下の気づきも、3つ、4つ程度しかでてきません。ただ、自分の方の気づきを伝えることで少しずつ、気づく観点の幅が広がってきているといいます。結果として、少しずつではありますが、自ら現場を安全かつ円滑に運営していくための行動が見られるようになってきているそうです。
上司自身が素直に学ぶことができるかどうか
いかがでしょうか。
彼の振返りを聞きながら、彼自身が行動を変えた結果、部下への意識や考え方も変わったように思いました。つまり、気が利かないのではなく、気づく機会を与えていない、ということです。このエピソードの一番のポイントはそこです。したがって、この実践をただ真似しただけでは、うまくいかないでしょう。
上司自身が、教えるという行動を通じて、自分も学ぶ機会が得られると思えるかどうかが大切なところです。
そう思っていただくためにも、私自身もお客さまから学ぶことを実践しつづけたいと思います。
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