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モヤモヤ葛藤することを受け入れて、互いに賢くなっていく

経営戦略と組織の話をする際によく図の様なピラミッドが出てきます。

MVV三角形

先日、とあるセミナーの講師を務めた際に参加者の一人にこの図の説明をお願いしました。自社の例を交えながらとお願いしたのです。すると、「やはり、企業活動においては人が大切です。その人たちが計画を実行し、ビジョン、理念を実現していく…」という風に下から順番に説明をしてくださいました。わたしは、上から「経営理念があって、ビジョンを示し、戦略を描いて、計画し、実行していく、その中で一人ひとりが組織的に行動し」…そんな流れを想定していたので、ハッとするとともに、少々反省をしました。

折に触れて経営者が社員への期待を込めて理念を語ることが大切

理念は経営者も含め社員全員で目指していくものです。しかし、上から、つまり社長から伝えていくものでもあるので、結果として社長の顔色をうかがうような状況が生まれてしまうのだと気づいたのでした。

セミナーの参加者は、ある上場企業の管理職です。社歴も大変長く、いわば成熟企業です。とはいえ、安住していることはできません。時代の変化に応じた変革が求められています。そしてそれを実現するのは一人ひとりの行動である、ということを経営者が折に触れて伝えているのです。理念やビジョンを掲げても、それが単に掲げられているだけ、お飾りになってしまっていることもあるだけに、素晴らしいことだと思います。

経営理念やビジョンを「お飾り」にしないために

経営理念やビジョンをお飾りにしないためにはどうしたら良いでしょうか。
一つは、実行に移すための仕組みを作ることです。経営理念やビジョン、それに基づく計画の中身も大切なのですが、それ以上に大切なのは運用です。経営計画なら、その実行をどの会議体でいつチェックしていくか、各施策の責任者は誰なのか、いつまでをリミットとして撤退を判断するかなどが決まっている必要があります。つまり、時間軸にそって、ある種自動的にPDCAを回せる仕組みになっていることが大切です。

もう一つは、腹落ちさせることです。実行を伴うかどうかは、その計画に納得できているかどうかです。腹落ちしていないと何が起きるかというと、「社長がいつも口うるさくいっているだろ」という発言が幹部から出てきます。こうなった瞬間に会社の中しか見ていない状況があらわになります。つまり、お客様ではなく、社長の方を見ている会社なわけです。そうではなくて、「うちがそもそも目指しているのは、経営理念にもある通りこういう行動だ」という発言がでてきて欲しいのです。

腹落ちをさせることは大変難しいのですが、長らくコンサルタントとして会議等のファシリテーターを務めてきて意識していることは「モヤモヤさせること」です。具体的には、以下の流れで参加者に向けて問いを発信しています。

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モヤモヤさせるポイントになるのは②と④です。ここに踏み込むことができるかどうかがファシリテーターの力量の差となって表れます。なぜなら、知覚や感情、価値や原理は、その人の内面に深く根差しているからです。それを表に出してしまったら、議論が紛糾するのではないか、誰かを怒らせることになるのではないか、おかしなことを言っていると否定されるのではないか…無意識にそんな心理が働いてしまうのです。しかし、葛藤を起こさないと本質に迫れません。腹落ちしないままシャンシャンとなってしまうのです。

社員を指示待ちにしてしまっているのは社長自身

わたしのお客様で、来年に向けた経営計画の策定が佳境を迎えつつある会社があります。同社では、今年から、部長以上の幹部が経営計画を作り、それを統合していくような進め方をしています。昨年までは、社長が幹部に話を聞きながら、一人で書きあげるというスタイルでした。社長は「今年の方が大変」と言っています。何が大変なのかお聞きすると、みんなで作ると社長自身の考えを見直したり、相手にフィードバックしたりするので、時間がかかっているとのことです。そしてこの方が素晴らしいのは、そこから素直に反省するところです。「去年までは、自分の思いをただ書いていただけだったことに気づいた」とおっしゃったのでした。

実は、同社を訪問していて気になっていたことがあったのです。毎月社長から経営の状況が全社員に伝えられます。30分程度の集会のような形式です。みなさん真面目に聴きます。しかしながら、その話を受けて、どのようにアクションするかが曖昧なままなのです。折に触れ、経営計画に立ち返り、目指すべきところが語られますが、一人ひとりに何が期待されるのか、どういうアクションが貢献として求められるのかを話す場がないように思いました。こういう時、アクションしない状況だけを見がちです。結果、「ウチの社員は指示待ちだ」という風に捉えてしまいます。実際には、アクションに移す仕組みがないのです。また、本当は「これではダメだ」と社員も感じていることがあるのにモヤモヤしたままで終わってしまっているのです。そして、目の前の仕事に戻っていきます。これでは何も改善しないのです。

「モヤモヤできる」力がわたし達にはあると捉え、組織能力としていく

内田樹さんが、著書の中でこんな話をしています

ほんとうに頭のいい人というのは、こう言ってよければ、遂行的に賢いのです。自分のできあいのスキームですぱすぱ現実を切り裁いても、自分自身はこれ以上賢くならない。それでは面白くないというふうに考える人が「遂行的に賢い人」です。他人の「変な話」をいったん受け入れて、それを嚙み砕き、嚥下し、消化し、栄養にして摂取することができるまで自分の知的スキームをヴァージョンアップする。そういうマナーをみんながめざすようになると、世の中はどんどん複雑になってゆく。僕はそういうのが望ましいと思っているのです。
出所:『日本習合論』 内田樹

わたしもこの考えに賛成です。

時に気になるのは、モヤモヤや葛藤を避ける風潮があることです。物事を単純化して伝える方が賢いと捉えられがちだと思います。本当にそうだろうか、というのがわたしの根源的な問いです。モヤモヤできることは、わたし達に備わった能力です。これを組織能力としていく場を作っていきたいと思います。

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