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ピラミッドについて/still too big (谷川俊太郎翁に捧げる)

それはとてつもない大きさで
仰ぎ見ればかならず胸を打たれる
頂点までの高さが約150メートルあり
底面の一辺がおよそ230メートル
平均2.5トンもの巨大な石を200万個以上
トラックやクレーンを使うことなく
四角錐の形にひたすら積み上げてできた
壮大にして圧巻の歴史的建造物である

大林組の試算によるとかかる費用は
現代の技術を駆使しておよそ1250億円
完成までに費やされた年月は
20年とも、また数百年とも言われる

内部には多くの謎めいた部屋があり
いくつあるのか
どこにあるのか
そしてなぜそこにあるのか
その全貌はいまだ明らかではない

同じようにシャフトと呼ばれる通路も無数にあるが
くねくねと蛇行しているばかりか
両端がふさがっていたりするため
じっさいのところ何のためにあるのか
これも判然としない

知れば知るほど、奥へと広がり
解けば解くほど、謎が深まる

それは大きな秘密である

暴こうとする者も数多くいたが
とうてい暴ききれるものではない

登ってみたことはないが
登ったところでたぶん転がり落ちて死ぬだろう

広大な砂漠に浮かぶ孤高の一点
のようだが実は目と鼻の先に町があり
具体的にはピザハットがある
清濁併せ呑むこの度量こそ
世代を問わず愛される所以である
仰ぎ見てかならず胸を打たれるとすれば
焼きたてのピザもその例外ではない

20世紀を代表する画家のひとり
パウル・クレーは妻に宛てた手紙のなかで
エジプトのカルナック神殿についてこう記している
「偉大な歴史です。が、
もう少し小さくてもいいとおもいます。
小さくしても大きすぎるのです。」

同じことがそっくりそのまま
この巨大な建造物にも当てはまる
金という字に見た目が似ていることから
かつて人はそれを金字塔と呼んだ

もうすこしちいさくてもいい
ただちいさくしても、まだ大きすぎる

その事実じたいが一片の詩、そのもの

誰も否定することはできない
谷川俊太郎はひとつのピラミッドである

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