データ/AI活用の一大転回


 AIやデータの活用が、転換点に来ている。私は、AI/データ活用が全く新しいフェーズに入ると考えている。そして、それは社会を大きく変える。そして、その姿は多くの新聞やメディアが描いているものとは大きく異なる。これを下記のように整理して論じたい。
 
第0段階(L0)「統計学によるエビデンス活用」
 データ活用の最初の段階L0は、統計を使ってエビデンスベースの判断を行うものである。このレベルの人は、データによって裏付けられた法則性が大事だと考えるので、よく使う言葉は、「統計有意」や「p値」である。しかし、これはあくまでも全体の平均的な振る舞いを分析するもので、個別の人や状況を考慮はできなかった。
 
第1段階(L1)「機械学習による予測活用」
 次の段階L1は、機械学習で大量のデータを解析することで、第1段階ではできなかった、個別状況毎の予測や判断を行う。ここで問題になるのが予測精度である。だから、このL2の段階の人は、過去のデータを学習用と検証用に分け、学習したデータで、検証用のデータをどれだけ正確に予測できるかを常に気にしている。このため「データ量」を気にかけ、予測の「精度」を高め、学習時の「過学習」をいかに避けるかを課題にする。データが大量にあれば、知りたい状況に近い過去データが増えるので、当然精度が上がる。だからデータが沢山欲しくなるのである。データを持つ企業や国が強いと新聞やメディアが報道しているのは、この段階の活用モデルをイメージしたものである。
 しかし、そもそも大量のデータが得られる問題は限られ、しかも、所詮過去をまねすることしかできない。既に大量の経験があることを繰り返すだけである。従って、状況が大きく変化すれば価値がなくなる。
 しかも、そもそも大量に過去の体験がある問題は、ビジネスや社会の判断としては、重要度の低い判断である。重要なのはむしろ経験が少ない問題や、未知の問題に道を拓くことである。このL1では、未知の世界を開拓することができない。これがシステム化されると、むしろ、未知の未来を開拓するのを阻むシステムができてしまう。
 このためセブンイレブンの鈴木元会長は、このようなデータやAI活用に批判的であった。しかし、現状世界中で行われているデータ活用のほとんどは、L0かL1である。だからメディアが騒いでいるにもかかわらず大きなビジネス的なインパクトが生まれてないのである。
 
第2段階(L2)「未知の未来を開拓」
 これを越える段階L2こそがデータやAI活用の本領発揮である。
 この段階では、過去にはなかった新たな可能性をAI/データを使って開拓する。我々が開発したブランコやDeepMind社のAlphaGoなどに見られるように、このL2のための要素技術は出来つつあったが、実ビジネスには、なかなか活用できていない状況が続いていた。
 この原因は、実は哲学の不足である。技術の不足ではない。このL2の段階に行くには、社会を見据えた哲学が必要なのである。そこで基本とすべき哲学は、ドラッカーがいう「未来は知り得ないし、今日存在するものとも、今日予測するものとも違う」だと考える。このため、精度良く未来を予測することは最初から目指さない。そもそも目指すべきではない。目指すのは、新たな変化や可能性を的確につかみ、常に行動を起こして体系的に結果に結びつけることである。
 具体的には、データを使って予測をし、それに沿った行動は行うものの、注目するのはむしろ「現実と予測とのずれ」である。この予測に対する結果のずれに、体系的に判断を変える経営システムを、データとAIを使って構築するのである。環境の変化に合わせて判断の基準を変えることを最初から前提にし、この判断基準の変え方を一貫してシステム化するのである。この時データとAIは、環境の変化への高感度アンテナの役割を果たすのである。
 これにより、従来のような静的なルールや判断基準による経営とは比べ、はるかに未知の変化に強い経営システムが実現できる。この新しい経営では、表面的なルールや判断基準の一貫性を追求せず、判断基準や行動の変え方に一貫性を持たせ、体系的に変えるのである。

 以上の3段階で最も大きく異なるのは技術ではない。むしろ、社会の経営やガバナンスの考え方が大きく違うのである。
 第0段階は、標準化されたルールによる統治である。皆が一律に同一のルールに従うことがを求めるし、それがいいことだと考えるのである。これは20世紀の標準化されたモノやサービスを大量に普及させる時代に有効だったが、ある程度そのような基本的なニーズが満たされると、時代に合わなくなったのである。
 第1段階は、この反省として、一律なルールを捨てて、個別性や多様性を尊重した経営である。これにより、個別多様なニーズに答えることができる。言語では多様性を表現するのが不可能なので、複雑な数式を使ったルールを、データからコンピュータが生成する。これにより、ルールの意味は分かりにくくはなる。しかし、これは一律なルールの限界を超えるために避けられないことである。その恩恵として、個別性や多様性を大事にできる。しかし、これは過去に既にうまくいったことをまねすることしかできないという基本的な限界がある。我々は未来に向けてよりより社会や人生を創るべき存在なのに、これではバックミラーをみて車を運転しているようなものである。
 だから第2段階では、予測不能に変化する未来を見据えてビジネスや社会を前進させていく統治や経営に進むのである。従来は、ルールを標準化して、あわなくなった時に、例外的に、ルールをアップデートしてきた。しかし、今や状況は刻々変化するので、ルールは常に変えることを最初から前提にし、その変え方を一貫して体系化するという経営である。データとAIの役割は、変化を捉える感度を上げるアンテナであり、それに直ちに行動を起こすための基本的なコンパスとなるのである。
 
 今やこの社会のニーズの上でも、技術的な実現性の意味でも、この第2段階のデータ/AI活用に進むべき環境が整った。そして、この第2段階は、まだ世界のどこもできていない。
 20世紀には、標準化と横展開を基本とするテーラーによる科学的管理法は、この日本が中心となり、世界に大きな花を開かせた。再度21世紀に、この日本から、新しい社会の革命を起こしたいと思う。日本にはそれにふさわしい条件がすべて整っている。

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