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1987-1997 Record Store Days

<Go to New York>
1987年7月、ニューヨーク在住のノリさん*から「Paradise Garage*が9月末でクローズする」という情報が札幌のDJ界隈に伝えられ、ザワついていました。当時の私はタワーレコード札幌店*で働きつつ、夜はSignifie*というクラブで週2~3回アルバイトDJをしていた事もあり、噂は私の耳にも届きます。

その少し前に、お世話になっていた高橋久さん*から「ニューヨークで雑貨の買付をする仕事を頼むかも知れない」という打診を受けていたので、仕事が実現するかどうかはさておき、自分としては一度ニューヨークへ行きたいと考えていたところだったのです。

当時はプラザ合意の影響で1ドル=144円くらいまで円高が進んでいたものの、まだ海外旅行は費用がかかるイメージでした。

しかし、ガラージに行ける最後のチャンスを逃したくなかったので、ノリさんに国際電話をかけました。

「ノリさん元気ですか?」
「あぁ、ワシ!元気だよ!」
「8月にニューヨークへ行こうと思うんですけど泊まるところ紹介してもらえますか?」
「それなら、俺の部屋に泊めてあげるよ」
「ありがとうございます!!」
「場所はね、ブロードウェイの92丁目にあるWest Side Studioっていうアパートだよ」
「はい!ありがとうございます!!!!!」

1987年7月16日:タワーレコード退職

ニューヨーク行きを決心してから数日後には退職届けを提出!僅かな預金と退職金から、成田発着の大韓航空チケット約20万円、東京往復交通費5万円、1500ドル両替で約17万円、で預金残高10万円ほど。当時25才、なんも考えてない(笑)
もう仕事は辞めていたので帰りの便を決めずに買えるオープン・チケットにしたのですが、これがピンチの元になってしまいます。

当時アメリカへの入国には個別のビザ申請が必要だったので在札幌米国総領事館に行ったのですが、申請後に待っているとカウンターの一角にある小窓がパカッと開き、アメリカ人の担当者が顔を出して「オープン・チケットで帰国が決まっていなーい。しかもー、お宅は無職(ムショックゥ)だからービザは出せませーん」(原文ママ)と言い放って小窓をパタッと閉められました。とっさに小窓をバンバン叩いて「すみません!チケットを買ってしまっているし、長期滞在するつもりないです!」と訴えると、パカッと小窓が開いて5秒間くらいじーっとこちらを見てから「じゃー、2ヶ月だけー出しましょー」と言って10月末までのビザが発給されました。これは、2ヶ月を過ぎると不法滞在になるという事で当時は厳しかったですね。

これが、1987年8月20日から10月31日までの超短期ビザだ!

ニューヨークへ行く前の1週間ほど、東京の千駄ヶ谷に住んでいた友人A*の部屋に滞在したのですが、この友人Aのお陰で帰国後の運命的な出会いに繋がります。

*DJ NORI
タワーレコード札幌店のアルバイト女子の兄がDJをしていたディスコ「イスカンダル」へ皆で遊びに行った時、ノリさんと初めて会いました。それからタワーレコードへ来てくれるようになり、ニューヨークでも大変お世話になりました。

https://rediscover.jp/archive/news/djnori_interview

*Paradise Garage(パラダイス・ガラージ。略してガラージ)
ニューヨークで1977年にオープンした伝説のクラブ。驚異的なサウンドシステムと天才DJラリー・レヴァンのプレイを求めて、毎週末に行列ができる人気となっていた。面積930平米、1,400人収容。
https://en.wikipedia.org/wiki/Paradise_Garage

*タワーレコード札幌店
自分はUK盤、7”、12"、カセットテープを担当していました。タワーでは脇道的なカテゴリーですが、自分の趣味には合っていたので楽しい毎日でした。

*Signifie(シニフェ)
当時の札幌で最もオシャレと話題だったディスコ。コンクリート打ちっ放しの壁にビデオモニターが配置されていて、今ではクラブと呼ばれる業態でした。"Signifie"は坂本龍一氏による命名と聞いていますが、教授が楽曲アレンジをしていた大貫妙子さんのアルバムと同じ名前でもあります。教授はSignifieの前身だった札幌のDJバー"GOEN”にも度々ご来店していたそうです。SignifieのDJ陣はチーフDJのYaccoさん、INDI ISHIDA、後にPrecious HallスタッフとなるGENZO、Malib@ng(バンちゃん)、Suguru.T(スグル)、そして筆者。

*高橋久
1971年にオープンした札幌のジャズ喫茶「BOSSA」のマスターであり、ジャズやポップスの大物アーティスト公演を札幌に招致するプロモーターであり、タワーレコード札幌店の開店から1986年まで店長を務めていたマルチな人物です。BOSSAは現在もありますので、来札の際はお立ち寄りをお薦めします。レコードコレクションは言わずもがな、オーディオシステムも最高でありながら、気軽に飲める貴重なお店です。

*友人A
札幌出身ですが札幌時代には面識がなく東京で知り合った友人。某ニューウェーブ専門雑誌の編集者で、帰国後の私に色々なチャンスを作ってくれました。

<Enter The Paradise Garage>

1987年8月20日:いよいよ出発!人生初の海外旅行!

JFK空港からタクシーに乗って、30分ほど経つと広い川の向こうにマンハッタンの高層ビル郡が現れた。来たぜニューヨーク!!

DJ NORI in New York,1987

1987年8月22日(土):Paradise Garage初体験

いよいよ今夜、初のガラージへ。一緒に行くノリさん、透さん*たちより先に現地入りする事になったのですが、いきなり夜のダウンタウンを一人で歩くのも不安だらけなので、日中にガラージの場所を確認して外観を写真撮影しました。その後、ガラージ稼働期間中の昼間に撮影された世界で唯一の外観写真である事が判明!

84,King Street, New York
エントランス

*高橋透
透さんとノリさんは同じくWest Side Studio(10数階建)に住んでいました。ガラージに関しての知識が豊富で色々と教えていただき、帰国後もシスコ従業員としてGOLDのブースまでサンプル盤をお届け(乱入)させて頂くなど大変お世話になりました。

夜12時ころガラージに到着。ここは駐車場だった建物*でエントランスから2階に向かってスロープになっており、登りきった正面の窓口で入場チケットを買って右手にある入口でモギリのおじさんにチケットを渡すと、昔風なセロファンで包まれたキャンディを1個渡されてクラブの中へ入ります。なぜ、ここでキャンディなのか不明ですが、後で舐めましたが普通のキャンディでした(笑)

こんな感じのキャンディ

この後、中に入ってからの記憶が非常に曖昧で申し訳ありませんが、何せ情報量が多かったのでお許しください。

入ったところはラウンジで、右手のカウンターに巨大な透明のポールがあり、謎のドリンクが飲み放題となっています。このドリンクは「パンチ」と呼ばれていてネットでは怪しい噂も目にしましたが、普通の薄いジュース的なものでした(笑)

まだ早い時間でフロアも空いているので、謎のパンチを飲みながらラウンジのベンチで透さん、ノリさん達を待っていると、今野雄二さんと髪をツンツン立てて丸い縁のサングラスをした人(後にバービーボーイズの、いまみちともたか氏と判明)が二人で歩いていてビックリ!今野雄二さんは、ミュージック・マガジンや11PMでニューヨークのクラブシーンを紹介しておりとても参考にしていましたが、まさか声などかけられません*。

ラウンジからダンスフロアを少し覗きに。学校の体育館ほどの広さで片側にステージがあり、その反対側にDJブースがあります。おぉ、ラリー様いました!!!まだ早い時間で空いているフロアを眺めると2.5メーターほど?に積み上げられたスピーカーが片側に3個所ずつ、両側で6箇所に配置されています。天井からはツイーターが吊るされていて、これは渋谷のWOMBでも見かけますね。

ガラージのサウンドシステムについて詳しくはコチラ。

*元駐車場というのがParadise Garageの名前の由来で日本語では「パラダイス・ガレージ」と呼ぶのが一般的な感じですが、英語の発音だと「ガラージ」が近いのと、意図的に車庫の「ガレージ」と区別するため、私の周囲では「ガラージ」と呼んでいました。今野雄二さんは「ガラージュ」と呼んでいらっしゃいました。

*ガラージでの遭遇から約10年後、代官山のご自宅にお邪魔する機会があり、今野雄二さんをガラージで見かけた事を話すと「へぇー、あの時にいたんだー!声かけてくれたら良かったのに!」と仰ってくださいました。

1時間ほど経って、透さん、ノリさん達と合流し、クラブ内を案内してもらいます。ラウンジの奥に「ROOFTOP IS OPEN」というネオンサインが光っていて、屋上への通路になっています。しかし、通路に入るとミニシアター風の部屋でモノクロ映画が上映されているのですが、屋上へ上がるには必ずスクリーンの前を通過しなければならず、30ほどあるシートに座っているメンズたちの視線を浴びながら屋上へ上がるのです。屋上には整然とベンチが並び、各ベンチは2メーターほどの植木で仕切られています。はい、ここはハッテン場というやつですね。先ほどのキャンディは、ここで使うのかも(笑)

=続く=

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